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銀河をかけて  作者: ウロボロス
第1章 始動
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第4話


「アサルトEMP、起動」

 そのとき、彼を中心にして電磁パルスの爆発が起こった。

MEVの目は肉眼では見えない光も捉えられる。球体のように広がる電磁パルスに触れたドローンが、次々に火を吹いて動きを止めていく。

 あっという間に、船に群がっていたドローンは壊滅した。ピクリとも動かなくなった残骸が互いに衝突しながらむなしく漂うばかり。残すは、母船とその周囲でシールドに守られたわずかな生き残りだけだ。

 HAIはすでに、最も脅威度の高い標的を見つけ出していた。船などもはや問題ではなく、この奇妙な人型のロボットのような存在を速やかに破壊しなくてはならない。

 F-042は装甲の表面に突き立てられるような視線を、HAIから感じ取った。砲が、より正確に彼へと向けられる。

「シールド起動」

 主砲が光り、再び加粒子の弾が放たれる。しかしそれは、さっきの事象の焼き直しが如く、いともたやすく逸らされて虚空へ消えていく。

「レールガン充電開始」

 彼は背中にジョイントされていたレールガンを引き抜いた。ジャックの背丈に等しい長大なレールガンは、彼が内戦時から使い続けた愛銃であり、それは対艦砲として十分な威力と弾速を持っていた。

 狙いをつける彼を、黙って待っているようなHAIではない。母船から追加で排出されたドローンの群れが彼を引き裂いてバラバラにしようと殺到する。レーザー弾の連続射撃に自爆特攻。ひとたまりもない……。《《だが、すべては遅きに失した》》。

 機体が瞬き一つする間に、真下に向かって飛ぶ。ドローン達は空ぶって、彼ら同士で衝突して攻撃が重なりあい、互いを破壊しあった。

 彼はスッとレールガンを持ち上げて、たっぷり電気を食ったそれから、必殺の砲弾を発射した。第二射の充電をしていたHAIはシールドを展開し、装甲にエネルギーを流して防御を固めた。が、砲弾はそんなものなど紙切れがごとくぶち破って内部に突入し、わずかな沈黙の直後、内側から連鎖的な大爆発を引き起こした。

 砲弾の爆発は、HAIの砲の制御装置を破壊し、砲弾のために充填されていたエネルギーは制御を失ってあふれ出させせ、その構成素材自身をプラズマ化させて、熱球を誕生させたのだ。母船とその近くにいたドローン達は、その中で物理的な崩壊を迎えた。

「レーザーマシンガン充電」

 彼は粛々と武器をしまった。まだ残っているわずかなドローンを前に素手になったかと思うと、ジャックの手の甲、そこに設けられた発射口から光が漏れ始める。大した威力は出ないが、母船を失った敗残のドローンたちを撃墜するには、十分な性能があった。


 レーダーにも反応がないことを確認しながら船に戻る。あたりには破壊されたHAIのドローンや、先の爆発によって飛び散った母船の残骸が散らばっていて、それが船にたびたび衝突している。

 外から見たところでは目立った損傷はないようだが、大きな残骸だけはとりあえず遠ざけておく。改めて船を観察してみると、艦橋の周りはほとんど無傷ですんだようだ。もしもドローンにたどり着かれていたらその場で自爆して艦橋は破壊されていただろう。そうなれば、もはや船はただの金属の塊に過ぎない。


 ドローン母船HAIは、強いというよりも、恐ろしい。これまでの人類とHAIの戦いの歴史において、最大の被害をもたらしているのは、ステルスで接近して多数のドローンを展開し、手当たり次第に破壊をまき散らす、この種類のHAIである。


 ざっと検分していると、船から通信が入った。ステファンの声が聞こえてくる。

「あー、君か?すまない、助かったよ」呆気に取られているような調子だ。

「被害はあったか?」と、彼が言った。

「そうだな、エンジン周りでドローンに自爆されて、ちょっと修理が必要そうだ。けどまあ、他は無事だよ。到着が遅れてしまうが……」

「無事ならよかった。俺はコンテナに戻ろう。また助けが必要だったら連絡してくれ」

「オッケー、わかった。ありがとう」

 話を終えると、彼のMEVは格納されていたコンテナに戻っていった。そして、彼と船長が話し始めていたところから見守っていた十人ほどのクルーたちは、わっと歓声を上げた。

 口々に、死ぬかと思った、助かってよかった、英雄だ、などと話し出す彼らだったが、そうやって緊張が解けてゆったりしだしたクルーたちを、ステファンはじろっとにらんで指示を飛ばした。

「話してないで、早くエンジンを直すんだ!到着を遅らせるな!」

 一喝を受けて、彼らは慌てて走りだした。そのままエンジンに向かうもの、損傷個所を調べるもの、エンジニアルームに向うものに分かれていき、ブリッジはがらんとして静かになった。

 そのなか一人残された船長は、腕組みをして考えだした。

「恐ろしく強い人だったが、こんな人が戦争をほっぽって89区域に向かうほどとは……。戦場化の噂は予想よりも深刻なのか……?」

 やがて、修理が始まったことをコンソールで確認して、彼はようやくほっと一息ついた。




「あ、ちょっといいか?」と、ブリッジにF-042の声が響いた。

「ん?」脱力していたステファンは顔を上げて答えた。

「コンテナなんだが、咄嗟に出たせいで壊してしまった。弁償しよう」

「あ、ああ。そんなことか。気にしなくて大丈夫だよ」

「そうか、すまないな……」

 話は終わった、と船長は思った。しかし、なぜだかこのヘルメットの傭兵が映し出されたままだ。自分が切るのを待っているのだろうか、と思ったが、どうにも様子がおかしい。

 と思った時、11(イレヴン)と名乗っていたその傭兵、すなわちF-042は重ねて口を開いた。

「すまない、船長。出発にはどれくらいかかる?」

「んん、あー。突貫でやって1時間で終わらせられるかな」

「悪いが、30分で終わらせてくれ」

「ええ?それはさすがに……」

 そうステファンが言い終わらないうちに、ブリッジに警報音が響き渡った。一瞬、何の音だか理解できなかった彼は、はっと気づいた途端、レーダーのコンソールを開きに走る。だが、その必要はなかった。F-042が教えたからだ。

 船長、悪い報せだ、と。

「敵艦隊の反応だ。20隻を超えてる」

「ああ、なんてこった……」

 彼は頭を抱えた。

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