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銀河をかけて  作者: ウロボロス
第1章 始動
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第2話

 翌日、彼はMEVの中で目を覚ました。入眠から7時間ちょうどである。まどろみの時間もなく、目覚まし時計そのもののようにスッと起き上がる。

「おはようジャック、今日のニュースを」

 メモリーの再生を終えてから同期を切って彼を寝かしつけていたジャックも、その声で電子音とともに起動した。

『Good morning、パイロット“F-042”。スキャン開始……パイロット体調良好、機体状況小破、一部機能を制限。モード“待機状態”』

「今日のニュースとパーツ市場の部品の確認を」

 視界にずらずらと色んなニュースが並び始めた。市場の動向、近い星系の星主の選挙結果、企業の倒産情報、新しい船のロールアウト、そういった情報が集まっている。さらに、MEVのパーツについて。

早めに左脚のパーツを取り換えて修理してしまいたいが……。どうやら使えそうなパーツは市場に出ていないらしい。他にも壊れてしまった一部の機能を交換したいが、ちょっと厳しい。

 まあ、こんなものか。と思って、次にニュースを見ることにした。傭兵は情報収集が大事だと、最近気づいた。

「ジャック、ニュースを頼む」

『今日のニュースを表示します……。

・経済分野

【テンザン重工、アレス星系で第10工場稼働開始。ロボット部品の銀河シェア70%超えへ】

【ニューオリオン証券、自社AI通貨の乱高下で緊急声明】

【内戦終結10周年特需:旧戦闘宙域の再開発ラッシュが経済成長率を押し上げ】


・技術分野

【“自己拡張AI”の自身の書き換え実験、AI規制法に抵触、主任研究員を逮捕】

【“人造人間は人権を持つか?” 大評議会で激論続く】

【“ダイソン球”が復活 全体稼働率50%まで復元】


・文化分野

【サイボーグリーグ、“義体性能”規制緩和に賛否両論 退役軍人のための競技へ?】

【記録なき喪失——消えた宙域文化と帰る場所を失った人々 住民の帰還率は3割未満】

【“忘却されない音”を探して:戦域ホロサウンドアーカイブ始動】


・軍事分野

【帝国外縁領でHAIの発生件数が激増、前年比40%超で専門家も匙を投げる】

【帝国観光ホテル、ニューロ・ツータイム社に対して宣戦布告 PMC最大手が介入】

【惑星グラーフIIIで生物地雷爆発、農業復興地域に深刻な被害】


以上です。』

「ありがとう」

『どういたしまして、パイロット』

 ジャックはざっくり情報をまとめてくれるから助かる。長い文章を読むのは苦手なのだ。何より、若干同期することで知らない区域の場所や知らない言葉を簡単に教えてくれる。

 

 さて、特に気になるのは最後の、帝国観光ホテルとニューロの戦争の件だ。


 内戦終結の折、鎮圧に協力した企業連合が出した要求が、企業間戦争の合法化だった。いわく、企業が自分自身を治めていること、自治のための最重要の権利として提出されたのが、戦争権だったそうだ。その権利を行使して、内戦のような無秩序な戦いではなく、銀河帝国憲法に定められた戦争法に則って行われる戦争。それが、企業間戦争である。


 閲覧数を見てみると、他の記事の倍近い数だった。帝国最大の観光会社が、新進気鋭のベンチャー企業に宣戦布告。もとの規模の違いに加え、PMC最大手、つまり内戦時から矢面で戦ってきたダーク&ソーラー社が協力する、となれば勝ち目は薄い。裁判所に不服申し立てなどするかもしれないが、判決が出る前に決着はつき、彼らが育てた事業も従業員も市場も、何もかも力によって奪われる。

 分を弁えて大人しく外縁だけで活動するか、さっさと事業を売却してしまうかしなければ、結局はこうなるのだ。


 記事を閉じて、軽く伸びをした。次の仕事場所はこの戦場になりそうだ。ニューロの方に肩入れすれば、戦争が長引いて稼ぎになるかもしれない。ただ、機体の状況が心配だ。ここは帝国観光の方に参加して、さっと稼いでしまうほうがいいだろうか。

 だが、視界の端に通知が来ているのが見えて、それが気になった。どうやら、メールの通知らしい。

「メールを確認してくれ」

『未読1件』

「名義は?」

『11J宛です』

「仕事の依頼か。傭兵管理局から?」

『いいえ。送り主は“PRE company”です』

「?……聞いたことないな。どこの会社だ?」

『PRE companyは1年前から89区域内で活動しているサルベージ企業です』

「名無しということは、外縁だな。HAIとの戦闘がありそうだが……。内容を」  

『OK。表示します。


件名:傭兵としての協力依頼


11J様


はじめまして。突然のご連絡失礼いたします。我々はL-8972603ステーションに本社を設置している「PRE company」という企業です。私は弊社の代表を務めております、マリア・バロネトパと申します。この度は、仕事のご相談をさせていただきたく、連絡を差し上げました。


弊社は、人類の淵源である地球探索を目的に、1年前に設立された新興企業です。小規模ながらも着実に成長を続けており、現在、新たな事業の立ち上げに注力しています。この事業では、地球に向けた航路開拓のため、また競合他社との戦争のためにPMCとしての能力を弊社に持たせることを目的としています。


当社は、11J様の力をこの新事業の中核としてお迎えしたいと考えています。


以下に、依頼内容の概要を記載します。


依頼内容


活動範囲:89区域内、およびその近隣星域におけるHAI艦隊との戦闘。また、海賊及び他企業を中心とした対人戦

契約期間:初回6ヶ月(延長の可能性あり)

報酬:業界平均を上回る条件を提示(詳細は面談時にご説明)

特記事項:F-042様のご意見を反映し、柔軟な戦略策定を行い、作戦運用を決定します。


この事業の詳細については、現時点では非公開情報が多いため、直接お話しする場で説明させていただきます。つきましては、L-8972603ステーションで対面での打ち合わせをご検討いただけませんか?


交通費、移動中の生活費などは全額お出ししますので、都合の良い日にお越しいただければ幸いです。また、他に必要な情報やご質問がありましたら、遠慮なくご連絡ください。


11J様のご参加が、この新事業にとって大きな力となることを確信しております。ぜひとも前向きにご検討いただけますようお願い申し上げます。


それでは、ご連絡を心よりお待ちしております。


敬具 


マリア・バロネトパ代表取締役PRE company

(L-8972603@×××-×××)

1948/09/14


以上です』


「……?」

 読めない。いや、正確には読めなくはないが、意味を頭の中で組み立てられない。正直、文章を読むのは苦手だ。特に色んな意味がとっちらかっている文章の意味をくみ取ることが、本当に苦手なのだ。

「ジャック、すまんが、メールの内容を分かりやすく要約してくれ」

『OK。Editing……Complete!


文書の内容は、

「PRE company」代表のマリア・バロネトパより、イレブンジャックへの新事業参加への参加依頼です。

 彼らの目的は地球の探索。依頼内容は地球航路開拓のためのHAIとの戦闘、および競合他社との戦争にあたって、戦力としての参加と戦略の助言。

初回契約期間は6ヶ月、報酬は業界平均以上を提示。

詳細はL-8972603にて直接面談にて説明。交通費、生活費は全額補填。


以上です』

「なるほど」

 大体わかった。通常よりも好待遇で半年間の契約ということならば、文句もない。結果が決まりきった企業間戦争よりかは稼げるはずだ。うまくいけば、さらに長期の契約もとれるかもしれない。

「ジャック、すぐに向かおう。護衛依頼を検索、L-8972603まで……は、ないだろうから、となりの44区域……今は何だ?『カルイ星域です』じゃあ、カルイ星域外側までのものを頼む。それと、了承の返信文を作成してくれ。護衛依頼でかかる日数と、それから改めて向かうまでのルートを調べて、合わせた時間も伝えてくれ」

『OK……』

 ジャックが仕事を始める。89区域は、帝国領の縁にあたる。まだ銀河の反対の側じゃないだけマシといったところ。すぐにここを出よう。

 そういえば、と送信日を確認したら、1ヶ月以上前の日付だった。情報は連絡ビーコンを使ってワープで届けられるが、それでも銀河の端から端までの連絡に1ヶ月かかるか、かからないか、だ。多分、依頼で移動しだした期間に届いていたが、ステーションに寄らなかったせいで通信が遅れたのだろう。ずいぶん待たせてしまったようだ。と、彼は思った。

『Complete、依頼の候補、返信文の候補を提示』

「ありがとう。そうだな、この依頼で行こう。日数も早いし、割りと近くまで行けそうだ。返信文はそのままでいい。送ってくれ」

 ジャックに指示を出した後、彼は栄養食を買いに行った。


25年4月25日 メールの文面を一部変更

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