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銀河をかけて  作者: ウロボロス
第1章 始動
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エピローグ

 少女は、森の中を駆けていた。

 ビルにも勝る高さを誇る、超巨大樹の森であった。今となっては見慣れた場所だ。父母が死に、この星に宇宙船ごと墜落してから、彼女は半年ほど、この森の中で過ごしていたのだ。

 その森に、何かが新しく落ちてきた。火の玉。けれども、宇宙船にしては小さい。

 彼女は墜落地点に向けて走っていた。


 ようやくそれを見つけだした。それはおおむね人型の機械だった。両の手足は激しく損壊し、外装が焼き切れて内部の作りもむき出しになっていたが、確かに人型の機械だ。

 その胸部のあたりがおもむろに動き、開かれると、中から緑髪の女性が転がり落ちてきた。その人はヘルメットを外し、投げ捨てて苦し気に息をしていた。

 近づいてみるが、その人は口からを血を吐きだしていた。内臓が損傷しているのだ。さすがに手の施しようがない。彼女はもうまもなく死ぬだろう。

 だが、その顔を横に向けると、何事かを話し出した。

「これ、を……。これを持ってくれ」

 そういって、その手に固く握っていた金色の、美しく輝く小さな棒を彼女に手渡す。それは、まるで宇宙の果てのような暗さと、星のような煌めきとを黄金の内に兼ね備えているように見えて、彼女はたちまちそれの虜になった。

「す、すまない……。こんなものを、君のような小さな子に渡すだなんて、どうかしてる……。でも、それはただ失くすには、あまりに惜しいものなんだ……」

 いまにも死にそうな彼女に、わたし小さくないよ。と、彼女はいった。しかし、聞こえていないのはわかっていた。その女性の耳からはとめどなく血が噴き出していたからだ。その目も真っ赤にそまり、まだ見えているのが奇跡のようだった。

「いいか?なにがあっても、それをだれにも見せちゃいけない……。話しちゃいけない……。この銀河の秩序を揺るがしかねないものなんだ……。本当は、皇帝陛下以外に見せちゃいけないようなものなんだ……」

 そういうと、彼女はバッと手をあげた。どこにそんな気力が残っているのかと思うほど、機敏なものであった。

「約束してくれ。私と……。それを必ず失くさないと……。秘密を守ると……」

 彼女は少しの間ためらったが、結局、自分にはもう話す相手がいなくなっていることに気が付いて、遠慮がちにその手を握った。

「銀河をかけて、誓ってくれ……」

「うん。銀河をかけて」

 彼女の言葉が聞こえたとは思えない。それでも、彼女は最後に小さな笑みを浮かべて、力尽きた。

 その顔と言ったら!そこに込められた安心、使命を果たしたかのような凛々しさ、死の間際にもかかわらず、心から燃える炎がみえるような猛々しさ!そのすべてが詰まった笑みだった。

 彼女はその顔のとりこになった。あとで、自分でも真似してみようと思った。こんな笑みを浮かべれたら、きっと誰もが彼女のことを好きになるに違いない。


 夜になり、彼女はここ最近のねぐらにしている墜落船へと帰ってきた。こんな惑星にはどこかに人間が住んでいるだろうから、そのうち銃とレーションを手にして旅に出ないといけない。その前に、あの人が落ちてきてくれたのは、幸運だ。少女はあの機体の情報端末を抜き取ってきていた。部隊章をみるに第3軍の人だったようだから、きっと、これから役に立つ情報が入っているだろう。

 そして、彼女は託された黄金のピンを火にかざしてみる。うっとりするような、吸い込まれるような、どこか懐かしいような、そういう気分が胸を満たす。

 彼女は思った。このピンを持っているのが似合う人って、どんな人かな、と。

 わたしに託したあの人は、死の間際のあの笑顔を見ればわかる。きっとこのピンを持つことを選ばれた、ふさわしい人なのだろう。でも、あの人は死んでしまった。

けれど、あの言葉を思い出す。『皇帝陛下以外に見せちゃいけない』。その人も、もう死んでしまった。

それじゃあ、これにふさわしい人間は、この銀河に1人もいないじゃないか!


 彼女は先の笑みを思い出し、そのピンに映してみた。歪んではいるが、おおむねこんな笑みで間違いないはずだ。この笑顔が浮かべれば、作り物じゃない本物の笑みが浮かべれば、この黄金にふさわしい人になれるだろうか?

「なりたいな」と、彼女はつぶやいた。

「もういないなら、わたしがなりたい」

 父母が死んだのも、屋敷を追われたのも、こんな苦境に追いやられたのも、すべては皇帝陛下とやらが死んだからだ。そして、その臣下たちが好き放題し始めたからだ。

 きっと、自分ならもっとうまくやれる。誰よりもすごくなれる。心から笑えるようになる。

「銀河をかけて……」

 すっかり気に入ったその言葉は、彼女の心の宝箱にしまい込まれた。あのとき握った感触が、まだ左の手に残っていた。そしていつの日か、かつてない道のりのすべてに勝利したときに、彼女が新たな皇帝になったとき、臣民に向けて誓いを立てるとき、彼女はきっと、こう叫ぶのだ。

「銀河をかけて!」


お付き合いいただきありがとうございました。本作はとりあえず、これで完結とさせていただきます。一応、続きを考えてもいるので、もしも気が向いたら続きを書くことが、あるかもしれません。


初めてこの長さの話を書いたので、至らぬ点が多々あり、読みづらさなどで苦労を掛けさせたと思います。それでも読んでくださった方に、心から感謝を申し上げます。

改めまして、ありがとうございました!

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