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銀河をかけて  作者: ウロボロス
第1章 始動
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第11話 前編

 今回、かなり長くなってしまったので、前後編に分けさせていただきました。

「親方ぁ、ここってどうすればいいんですかね?」

「ああん?ちょっと見せてみろ」

 そういって、親方と呼ばれた彼は技術者の手元のコンソール画面をのぞき込んだ。

「だめだな。部品数が多すぎる。もっと減らせるだろ」

「えぇ?これ以上どこを削ればいいんですか?」

「削るんじゃなくて、変えるんだよ。ここの部品を可動させている構造に無駄がある。他の構造に変えればもっと減らせる」

「なるほど?どうするんですか?」

「自分で調べろ。何でもかんでも教えてたら力にならん」

「了解でーす」

「出来上がったら持って来いよ!」

 彼はついでに他の社員の様も見ていこうと歩き出した。


 F-72804ステーション。P型やL型と比べれば、圧倒的に人口は少なく、ここには工員とその家族や上司、行政機関の人間。合わせて20万人ほどが暮らしている。ステーション全体が工場化されており、道路の幅は資材運搬車が通れるように揃えられ、搬送用の接続ゲートや内外に大量の金属や製品をやりとりするための大型ハッチを備えたうえ、莫大な電力需要を満たすため、複数の核融合炉を備えていた。

 このステーションには89区域の様々な企業が工房を構えているが、その中でも、最大の面積を占めているのがマキナ・テクニカとその関連企業である。

 ほとんどステーションそのものを管轄しており、第1~第3までの工房を有し、直属正規社員は8万人。関連下請けはほかのステーションのものまで含めて、しめて25万人。創業から200年の歴史を持つマキナは、名実ともにこの89区域において一番の老舗であり、最大の企業でもある。

 そこには、当然責任も伴うことになる。


『緊急連絡です。マキナ・テクニカ社社長、シオドア・カヴァナ様。専用回線へ接続願います』

「ん?」

 突然のステーション全体放送で、彼は訝しがった。

 が、すぐに耳元に埋め込んである機械──彼自身が手掛けた、通信や機械への接続とその操作をハンズフリーで行える、いわゆるコントロールデバイスと呼ばれる代物──を脳波で起動させて、ステーション行政官と彼との直通回線を開いた。

「俺だ。どうした?」

『マキナ・テクニカ社長だね?最近の調子はどうかな?』

「ああ?元気だよ」

『そうかそうか。君はこの私に次ぐほどの権力をもっているのだから、つまるところ、私に次いで大事な人物なのだからね。うむうむ。元気で何よりだよ』

「そんなくだらないことを聞くためだったら、もう切るぞ」

『ああ、待て待て待て、待ってくれ。ちゃんと要請したいことがあるんだ。帝国行政官として、本物の要請だ』

「だったらさっさといえ!ひまじゃねぇんだよ!」

『全く、ほんとに行政への敬意というものが……』

 ぶつくさ言い始めた行政官に、彼はもう一度繰り返して言って聞かせた。それでようやく長々と嘆息してから──それはますますシオドアをいらだたせた──要件を話し始めた。

『まず、前提として、先日、このステーションにHAIが接近してきていることが、観測によって判明したことがあった。我々は先手を打って防衛艦隊を派遣しておいたのだが、我々の観測外からさらに多くのHAIが現れた。

 近隣のステーションに要請を出したし、傭兵の募集も行おうとした。したのだが、君も知っているだろう?ニューロの武力観光戦争が思いのほか長引いているのもあって、傭兵どころか、PMCすらほとんどが集まりそうにないのだ。というわけで、このようなことを頼むのはほんと「前置きはいいから、さっさと要件を話せ!」ステーションの防衛を頼みたい。艦隊では手が足りん』

「そういう大事なことはさっさといえ!」

 彼は怒鳴り返すと、回線を通して秘書を呼び出して命じた。

「戦闘員を招集して、防衛プラットフォームに集合させろ!整備員も待機!兵器をスタンバイさせておけ!」

「承知しました」

『さすがのうご「それで!そのHAIはいつ来る!どんな規模だ⁉」防衛艦隊は私の意図を汲んで遅滞せ「要点を話せ!」2日後だ。規模は70隻近く』

「70隻だと⁉」

『対応できるかな?』

「できるかな、じゃないだろ!やるしかないんだろうが!」

 かくして、F-72804ステーション防衛戦が始まった。




「親方!敵艦隊、撤退していきます!」

「我々の勝利だ!」

 ステーション防衛プラットフォームにささやかな歓声と拍手が響く。マキナ・テクニカ社は、社員総出でここの防衛に動いていた。有事の際にはステーション防衛に加われるよう、要塞級の兵器を複数台用意してあり、その操作を任せる戦闘部門も設置していた。たとえ戦艦を含む機動艦隊がやってきたとしても、このステーションならば互角に戦えるほどの防衛機能だ。

 ところが、シオドアは苦々しい顔でこの戦闘を見守っていた。包囲されてから3週間の時間がたっていた。包囲戦において防衛側を苦しめるのは、常に攻撃側の戦闘力ではなく、物資不足である。

 他ステーションとの物流が断たれた現状、どれだけステーションの戦闘力が高かろうが、中に生きる人々の食料は目減りしていくばかりであり、また、わずかにでも重ねられていく武装の損傷は、修理するにも物資が足りない。

 

 昨日よりも今日の被害の方が大きく、一昨日よりも昨日の方が被害が大きい。今も、勝利に沸いているのは実際に攻撃操作をしていた社員だけで、状況を見守っていた整備士や役員たちは苦々しい顔を浮かべていた。状況が決して良くなっていないことをわかっているからだ。

 それは、きっと操作していた者たちが一番感じているだろう。彼らが喜んでいるのは、勝てたことそれ自体ではなく、どうにか今日は持ちこたえることができた。という点に尽きる。

「社長、ちょっとお話が……」

「ん、ああ」

 秘書のグレン・マイヤーに呼ばれて、彼は司令室から通路へ出た。


 防衛プラットフォームはステーション防衛のすべてを統括しており、船のブリッジのように飛び出していて、ステーションの外がみえるように一部の壁は防弾ガラス張りになっていた。いまは、次の戦闘に備える様子が見えていた。

 弾薬や工具を携えた小型整備機などが発進していき、さらに、破壊された可動式物理防壁、要塞砲、ミサイルポッドなどの緊急修理、あるいはその交換が行われている。平時に見るならば、人の何百倍、何千倍という規模の構造物がダイナミックに変遷する様は、大迫力で圧倒される。しかし、それが頼みの綱にしていた防衛兵器で、つい先ほどの戦闘で破壊されてしまったものだと思うと、憂鬱な気持ちが胸を満たす光景だ。


「で、話ってのは?」それがよく見えるところで、シオドアは立ち止った。

 マイヤーは、彼のトレードマークである眼鏡の位置を直してから、言った。

「疎開しましょう、社長」

 正直なところ、そんなところだろうとは思っていた。今、救援の当てもなく、戦うたびに被害が増え、敵は一向に数を減らさない。もはや逃げる以外に手はないと思える。だが、彼は首を縦に振ることはできない。

「それはできないな」

 すると、彼は眉根を寄せ、ただでさえ鋭い目つきがますます細められた。

「理由をうかがってもよろしいでしょうか」

「やるやらないの問題じゃあない。いまから疎開することは()()()()んだ」

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