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銀河をかけて  作者: ウロボロス
第1章 始動
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第9話

 宇宙空間を青い光で切り裂くそれは、やがて金属の塊3つ4つを宇宙の彼方へと飛ばして、ゆっくりと進路を曲げていった。

『お見事です。これで30隻目!今日中にここのHAIは殲滅できそうですね』と、イチカが通信上で言った。

「そうだな。少しペースを上げようか」

『無理していませんか?』

「問題ない。むしろいい気分だ」

『そうですか?それならいいんですが』

 彼はますますスピードを上げた。宇宙空間では抵抗がほぼない。相対性理論による光速の制限だけが加速を妨げる。だが、それすらもこの空間上では働かない。


 完全共時性圧縮空間。通称『ワープウェイ』と呼ばれるこれこそが、銀河帝国が数千光年にわたる支配地域を保持する要諦、恒星間航路である。あらゆる物体は星系間に敷かれたこの空間上を航行する限りにおいて、通常は数光年以上にわたる距離を、ほんの数日で移動することができる。科学者が言うには、物体は可能性の雲に変化した状態で時空間的コマ落としの状態になるために、結果的に光よりも早く移動したことになっているそうだ。

 しかし、この空間上にある物体同士は互いに干渉することが可能であり、つまり、同一空間上にある敵対者同士は戦闘することができる。また、外部から意図的に空間を安定させる装置──ワープジャマーと呼ばれている──を使えば、空間上から強制的に退去させることも可能だ。

 あまりにも広大極まる宇宙空間を航行するために不可欠なこれを巡って戦闘になることがおおい。海賊に狙われることもあれば、企業間戦争で封鎖されて、両艦隊がレーザーと実弾の火花を散らしあう。それは、HAIとの戦闘でも例外ではなかった。


『広域スキャンの情報をアップロードしましたよ』

「ありがとう」

『HAIは大きく散開しています。封鎖のために広がっていたようですが、連携がとれていませんね』

「こちらの動きがわかっていないんだ」

 ジャックが会話に割り込む。

『パイロット、優先目標をマッピングしました。ロックオン開始』

「よし」

 彼は引き金を引いた。レールガンからまた弾が放たれて、ずっと遠くのHAIが爆散する。

「距離100E、3隻撃破」

『了解です……おや?』

「どうした」

『HAIがどんどん離れていっています。撤退しているのでしょうか?』

「そのようだな。もう3分の1が破壊されている。軍事的には全滅と表現される」

『うーん……』

「なにで悩んでいる?」

『こういう場面では、追撃するべきでしょうか?でも、深追いするとよくないっていいますよね……。アドバイスいただきたいです』

「そうだな。こういうときには、“敵がどう動きたいか”。を考えればいい。いま、敵は我々の奇襲を受けて、まともに対処することもできずに数を減らした。各個撃破されるならば、集結して戦力を固めるべきだ。しかし、俺があまりにも速く動いて攻撃している現状、集結できる地点はここよりもずっと距離をとった場所になる。できる限り早く集結を完了するには、いくらかが殿(しんがり)になって、足止めをする必要がある……。ほらみろ、10隻ほどが反転してきた」

『おー、なるほど。さすがですね……』

 イチカと仕事を始めてから、数日になる。今日はワープウェイの確保、昨日はステーションの解放、一昨日はHAI停泊星の強襲。と、戦いの連続だ。その時々に応じて彼女に戦い方について教えながら、着実にHAIをつぶし続けていた。

『これでも、帝国大学で艦隊戦の授業も少しかじっていたんですが、さすが本職の方は違いますね』

「そうでもない。どんな戦闘でも原則があり、それを基準に行動すると仮定すれば、敵の動きを予想できるようになるし、それを扱えるようになれば、崩すことも可能になる」

『おー。ちなみに、この場面ではどうしますか?』

「殿が機能しなければ問題ない。俺は無視して直進する。イチカさんは艦隊で対処しておいてくれ」

『了解です』

 彼はさらに加速する。殿に残ったHAIの船からビームと実弾の攻撃が飛んでくる。しかし、彼は左右に大きく動くことによって狙いをずらさせた。

 実弾の弾幕が降ってきても、その最も薄い箇所をシールドを構えながら突き抜ける。

 そして、彼らを追い越してしまえば、すべては後の祭りだ。もう彼の方が早い。

 反転しようとしたところで、さらに後ろからの追撃を受けて、殿に残った船たちは、もう完全に身動きが取れなくなった。

『とらえました』

「そのまま抑えていてくれ」

 彼はいま、一発の弾丸だった。敵の喉元めがけて突き進む弾丸。それを止めることはもはや不可能。

 HAIは、これ以上艦隊をわけても止められないと悟ったのか、守りを捨てて集結し始める。

 その合間にも、容赦のないF-042の砲撃をうけて、見る見るうちに数を減らしていく。

 だが、到達する前に完全にとどめを刺しきることはできなかった。

 数を大きく減らしながらも、まだ十分な数が生き残ったまま合流を果たしたHAIの艦隊は、互いのシールド装置を接続して、重合してより大きく、より頑丈になったシールドを張る。

 その表面で、彼のレールガンの弾が弾かれた。もう、先ほどまでの一方的な狩りは終わりだ。

 ついに反撃が始まった。

 HAIはもちうる限りのミサイルを立て続けに発射し、その合間を埋めるようにビーム弾を放つ。

 何重にも折り重なって押し寄せる攻撃に、彼はレールガンを背中に戻して、手の甲のビームマシンガンを起動する。

「ルート検索」

『OK、complete. ルートを表示します』

 ジャックが示した道筋を縫うように、彼は動き出す。絶対に避けられない位置のミサイルを破壊して、ビーム弾をひらりと交わし、前へ前へと進んでいく。

 もはや猶予はないと悟ったHAIは、その中央にいた4隻を互いにぶつけあった。

 完全に損壊させずにただ互いの船体の殻を破壊しあう。すると、彼らの中にあった配線がうねうねと動き出し、接続されていく。それは、互いの電気系統、エネルギー配線、排熱機構、あらゆるものを共有した一つの船への転生だった。

 いま、コルベット艦しかいなかったHAIの艦隊は、ここに即興の駆逐艦が生み出されたのである。


 それはエネルギーを一点に集め始めた。守るように周りの艦隊が一斉に突進を開始する。

 F-042はレールガンを抜いた。

 一発、二発と放たれた砲弾は、先ほど同様に重合されたシールドに弾かれた。が、三発目が着弾したとき、それは破られた。

 艦隊の中心ではなく、端を狙われた攻撃だったがゆえに、一部の船に負担が偏ってシールドのエネルギーが不足。それで、防ぎきれなかったのだ。

 円をえがくように、次々とシールドの限界を迎えた突進艦隊が破壊されていく。それらはついに、もはや両手で数えられる数だけになったときに、どれだけ攻撃しても無駄だと気付いたのだろう。

 突進は、ジャックを標的に行われた。

 衝角攻撃(ラムアタック)……否、それは捨て身の体当たりだった。

 彼はほぼゼロ距離までそれが迫った時に、これまでろくに使っていなかったシールドをおもむろに構える。

「ソードモード変形」

 電磁シールドは形を変え、膨大なエネルギーが凝縮された一振りの剣へと姿を変えた。

 真横に向かって爆発のようなスラスターの噴射によって加速する。体当たりはすんでのところで避けられて、お返しに剣が突き立てられた。

 彼とすれ違った瞬間、船は中ほどから火を噴いて爆発する。いよいよ駆逐艦へと、彼が迫ったその時、

『時空震発生、敵艦逃走』

「くそっ」

 彼の目の前でそれは後ろに向かって大きく像が引き延ばされたと思いきや、跡形もなく消滅してしまった。

 ワープウェイでさらにワープを使用する。原理としては通常、不可能だ。しかし、HAIにはできる。たとえ、艦が粉々に引き裂かれたとしても、記憶装置さえ残っていればそれで撤退は成功だ。少なくとも、情報は持ち帰れたうえ、残骸でも残っていれば再利用できる。

『イレブンさん、こっちは片付きました!そちらはどうでしたか?』

 と、イチカが言った。彼は残っていた雑魚を片付けて、通信を開いた。

「すまない、一隻……いや、四隻か?元四隻だったのがくっついたやつを逃した」

『了解です。一隻しか逃さなかったんですから、完璧ですよ!これで、このワープウェイは人類の手に取り戻されました!』

 イチカの声に、彼は戦闘モードを解除しつつ、ふっと笑った。



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