メアリーの一生を無駄にしないで!
2人の子供達は大泣きしていた。
「晩御飯食べたくないー!!」
「お肉固いからやだーっ!!」
「晩御飯を食べないなら、明日からおやつはなしよ!」
お母さんはため息をついて、ほとんど食べていてない食器を流し台へ持って行った。
お母さんは、流し台の中に置いた生姜焼きが載っているお皿を、悩ましげに見つめた。
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「もう我慢できない!俺、アミリーのことが好きだ!愛してる、アミリー!!」
「黙れっ!!お前みたいな男にアミリーは似合わない!」
「やめてっ!2人とも、私を取り合って喧嘩しないで・・!」
アミリーは長いまつ毛を瞬かせて、涙を堪えて2人を止めた。アミリーのことが好きで声を荒げているのはヘンリー。アミリーの幼馴染であり、良き友人だった。今までは。
しかし一ヶ月前に突然やって来たロンは、アミリーを一目見るなり「美しい!」とか「俺と結婚して欲しい!」と愛を囁くようになった。奥手のヘンリーは、最初は黙って見ていた。アミリーがあんな下品な男になびくわけないと思っていたからだ。しかし、毎日毎日しつこく口説かれるうちに、アミリーはその気になってしまい・・・昨夜は2人が一緒に過ごしてしまったのだ。ロンは黙っていられなかった。だから、ずっと胸に秘めていた熱い想いを、怒りに任せてぶちまけてしまった。
ロンは手を震わせながら、下を向いていた。
「アミリー、俺はずっと君と一緒に生きてきた。だから、ロンよりも俺の方が君のことをよく知ってるし、君への愛はロンに負けないつもりだ。」
「ヘンリー・・」
アミリーは切なそうに、ヘンリーを見つめた。実はアミリーもヘンリーのことが好きだった。小さい頃から一緒に育ったヘンリー。小さい頃は2人で転げ回ってよく遊んだ。大きくなりヘンリーは声変わりもして、体も逞しくなってきた。そしてアミリーにいつも親切で優しかった。友達だと思っていたヘンリーのことを、いつの間にか愛していた。でも、ヘンリーにそんな素振りは無かった。
「私達はただの友達なの?ヘンリーのことを愛していると想っているのは、私だけ??」
アミリーは、時折涙を流した。そんな時、突然ロンが現れたのだ。
ロンはアミリーとロンの間に割って入った。
「アミリーは俺のものだ!もう遅い!!」
ヘンリーはロンを突き飛ばした。
「やめてっ!!!」
ロンは地面に倒れた。ロンはこことは全く違う場所で生まれ育った。そこには、ロンの家族が居た。兄弟もたくさんいて、ロンは長男だった。弟、妹達の面倒を見るのでロンは毎日疲れ切っていた。そして、ある日突然家族と引き離されて、ここへ連れてこられてしまったのだ。訳が分からなかった。希望も何も無かった。孤独に絶望している最中、突然一筋の光が差した。その光がアミリーだった。ロンは日の光の下で、アミリーの長く美しいまつ毛と、その瞬きを、一目見た時から恋に落ちた。だから脇目も振らずにアミリーに迫った。
「アミリーは俺の生きる希望!!絶対に逃してなるものか!!」
そしてようやく、昨日アミリーが振り向いてくれたのだ。2人はロマンチックな一晩を過ごした。
ロンはゆっくり立ちあがり、ヘンリーに言った。
「勘違いするな。アミリーは俺のものだ。最初からお前のものでも無かっただろう?」
「うるさいっ!アミリーがお前を好きな訳ない!!なぁっ!?アミリー??」
「わっ・・・わたしは・・」
アミリーは下を向いて震えていた。
ロンは急に不安になり、急いで言った。
「明日!!明日の午前!決闘をしよう!どちらがアミリーに相応しいか、勝負をしようじゃないか!」
「いいだろう。望むところだ。」
「2人とも、もうやめて・・!!」
アミリーの目から大粒の涙がポロポロとこぼれた。2人とも、私の大好きな人なのに・・。
翌朝、空は雲一つない晴天だった。ロンとヘンリーは向かい合ってお互い睨み合っていた。その傍に、アミリーが不安そうな目をして立っていた。すぐにでも殴り合いがはじまりそうだった。
先に動き出したのはヘンリーだった!ヘンリーの片腕が振りあがりーーー
「あーー!またやってる!」
10歳くらいであろう女の子が大きなドアから入って来た。後ろには40歳くらいであろう男がついてきている。
「こらっ!けんかしちゃダメでしょ、ロン、ヘンリー!」
女の子は向かい合っている豚2匹に一生懸命話しかけていた。後ろにいた男が口を開いた。
「豚に名前をつけたら駄目だと言っただろう!情が移るから、名前をつけたら駄目だ!」
女の子は口を尖らせた。
「でもかわいいんだもん。ねぇお父さん、ロンは来たばかりだから、みんなと仲良くなれてないんだよ。だから、ヘンリーと喧嘩してると思うんだ。」
「じゃあ別に分けておくか。」
「うん。そうしてね。」
父親は娘と豚舎を掃除した。娘は今日、特別可愛がっている豚とお別れをしなければならなかった。
「今日で最後だなんて、信じられない。ばいばい、アミリー・・。」
娘は涙を流して豚にさよならを告げると、豚舎から出て行った。「だから名前を付けるなと言ったのに・・・」父親はため息をつくと、アミリーと呼ばれた豚と豚舎から出て行った。
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「しょうがないから、捨てるか。」
お母さんは生姜焼きを生ごみの袋の中にサッと捨てた。
「2人とも、いつまで泣いてるの!?ちゃんと食べないと、お肉の豚さんが、え〜ん、え〜んって泣いちゃうよ!」
「だっておいしくないんだもん。」
「やだやだーー!」
そして生姜焼き・・・いや、メアリーの一部は、次の生ゴミの日に清掃車に回収され、誰の口に入ることもなく燃やされた。
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一人一人の人間に、それぞれの人生がある。虫にも、鳥にも、魚にも、植物にも、そして豚にも、命あるものにはそれぞれの人生がある。だから私たちは、その命を噛み締めて、残さずしっかりご飯を食べなければいけない。
お付き合い頂きありがとうございました。
食べきろう、ご飯!減らしましょう、食品ロス!