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49_ざまぁみろ、ですわ!


「それで? どうしてエリザベートちゃんまで一緒に逃げてるの?」


 レイン公爵邸の近くの森を走りながら、ディオンが問う。


「あなた方泥棒さんに協力していることを知られてしまった以上、あのお屋敷にわたくしの居場所はございませんもの」


 エリザベートは自嘲気味にそう答え、目の前の枝を掻き分けた。


 どうしてこうも間が悪いのだろうか。父親の言いなりになるのはやめようと決めた矢先に、やることなすこと、失敗するように誰かが足を引っ張ってるようだ。まるで、『お前は父親の言うことだけを聞いておけばいい』と言われているよう。協力してくれたディオンやペイジュには迷惑をかけてしまった。


 エリザベートを庇ったせいで怪我をしたペイジュが言う。


「疲れたかもしれないけど、もう少し辛抱してくれ。森を抜けたら、皇太子殿下が用意してくださった馬車が待っているから」

「……わたくしなんかに、どうしてそうも優しくなさるの?」

「はは、私は別に優しくないよ。でも、そうだね。うちの主はああ見えて人がいいから、それが移ったのかもな」

「……」


 なんの役にも立たない自分に、どうして優しくしてくれるのだろう。どうして笑顔を向けてくれるのだろう。


 足や腕、目の怪我が痛むはずなのに、こちらに笑いかけるペイジュを見て、鼻の奥がつんと痛くなった。


「きゃっ」


 そのとき、エリザベートの長い髪が、低い木の枝に絡まる。棘が出ていて表面がベタついており、かなりの毛量を持っていかれた。解こうにも、暗闇でよく見えず、余計に絡まっていく。


「どうしたの?」

「か、髪が枝に絡まって……。もうっ、どうして取れませんのよ!」


 ほら、また。自分のせいで、彼らの足止めをしてしまう。


(何が……エリザベートピンクですの)


 エリザベートを広告塔にするために、エリザベートの髪色に見立てて開発したと謳ってはいるものの、そんなに似てもいない。自分の髪のピンクは、それほど鮮やかではないのだ。


 エリザベートが令嬢たちの憧れになるように、父は多くの資金を費やしてプロデュースを行ってきたが、実際のエリザベートは、取り立てて褒めるところもない凡人だ。


 本当に人々の憧れになるべき才能のある令嬢は――ウェスタレアのような人のことをいうのだろう。強くしなやかで、ちゃんと自分の足で生きている彼女は、エリザベートにも眩しく見える。


 皆から蝶よ花よともてはやされて自惚れてきたが、エリザベート自身にはなんの力もない。極めつけに、エリザベートを利用して宣伝してきた染料には毒が含有されているとか。


 何も知らず、大勢の人を苦しめる染料を広めていたとは、あまりにも恐ろしく、そして自分の馬鹿さ加減に笑えてくる。


(こんな髪、わたくしは大嫌い………!)


 ぎり……と歯ぎしりしたあと、ディオンの腰に下げられている剣を勝手に引き抜く。


「それを貸してくださいまし!」

「わっ、エリザベートちゃん!? 何するつもり――」


 ――ザンッ。長く伸びた髪を、思いっきり切り落とす。ピンク色の毛束がぱらぱらと舞い落ちるさまを、ペイジュとディオンはかすかな星明かりを頼りに唖然と見つめていた。


 エリザベートは頭をゆすり、さっぱりした短い髪をなびかせた。エリザベートの髪は癖が強い方だが、宣伝のための商品だったため、いつも念入りな手入れが欠かせなかった。


 入浴に無駄な長い時間を費やすのも正直言って面倒だったし、そもそも長い髪を何度も煩わしいと思っていた。


「この頭を見たら……お父様は相当お怒りになるでしょうね。これではとても、宣伝になりませんもの」

「エリザベート……ちゃん?」


 俯きがちに小さな声でそう呟く彼女を、ふたりが心配そうに見つめる。すると次の瞬間エリザベートはばっと顔を上げ、清々しい様子で笑った。


「ざまぁみろ、ですわ!」


 この髪は、父親への反抗と覚悟の証しだ。大人しく言うことを聞いて生きていくのはやめた。逆らってやる。


 さあ行きましょう、とずかずか歩いて行くエリザベートに、ペイジュとディオンはまた顔を見合わせるのだった。

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