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32_皇妃候補お披露目パーティー(1)


 その翌日。ルシャンテ宮殿の大広間で、盛大なパーティーが開かれた。


 国中の上位貴族の家長とその子ども、夫人たちが数百人集められ、最も人気のあるオーケストラ楽団が音楽を奏でた。


 そして、今夜のパーティーの主役は――ふたりの皇妃候補だ。


「ご覧になって? エリザベート様だわ。今日もなんて優美なのかしら。さすがは国一番の皇妃候補ね」

「国随一の権勢を誇るレイン公爵家のご令嬢にして、容姿端麗、頭脳明晰。勉強だけじゃなくて他にもなんでもできちゃうんだから、もう非の打ち所がないわよね。憧れるわ……!」


 令嬢や婦人たちは、広間に入ってきたばかりのエリザベートに憧憬の眼差しを向けた。


 国王が認める、たったふたりの皇妃選定最終候補のうちのひとり。大勢の侍女と騎士を付き従え、凛と佇む。侍女たちは仕える立場にもかかわらず、華やかに着飾っていた。それは紛れもなく、レイン公爵家の豊かさの証しである。


「皆様、今日はわたくしのために集まってくださり、心から感謝申し上げますわ。皇妃候補お披露目というわたくしにとってとても大切な一夜にこうしてお目にかかれて、大変嬉しく思いますわ。どうぞ、ごゆるりとお過ごしくださいまし」


 エリザベートは美しい微笑みを浮かべて一同に挨拶し、スカートを摘んで片膝を引き、お辞儀をした。そんな彼女に、羨望の眼差しと惜しみのない拍手が注がれる。


 すると、また広間の入り口の方が騒がしくなる。誰かがやってきたのだろうと、人々は扉に視線を向けた。開け放たれた扉の奥から、もうひとりの皇妃候補――ウェスタレアが現れる。


「ご機嫌麗しゅう。エリザベート様にアルチティス皇国の皆さん?」


 ウェスタレアはにこりと微笑みながら可憐に挨拶する。人々はこちらの姿を見て、はっと息を飲んだ。


 絹糸のように艶めく白銀の髪に、宝石のような紫の瞳。


 平均的な女性より頭ひとつ分背が高く、おまけにヒールを履いているため、より長身が際立って存在感がある。


 加えて、ウェスタレアが連れている騎士ペイジュも、飛び抜けた美丈夫として人々の目に映った。……実際、彼女の性別は生物学的に女なのだが。


(すっかり自分が主役気分ね? 皇妃候補はあなただけじゃないのよ。エリザベート)


 ウェスタレアはちらりと彼女を見たあと、先ほど彼女がしたようにカーテシーを披露する。


「はじめましての方が多いですね。私はルムゼア王国から参りました、皇妃候補のひとり、ウェスタレア・ルジェーンと申します。本日は、()()、エリザベート様のために足をお運びいただきまして、誠にありがとうございます。以後、お見知り置きを」

「「…………」」


 この夜会はあくまで、自分とエリザベートふたりのためなのだと言う主張を込めて、『私と』という言葉の語気を強める。


 しん……。ウェスタレアの挨拶に、歓迎の言葉も、拍手も、ざわめきもない。直前までの賑わいがまるで嘘のように、広間に静寂が広がる


 皆、ウェスタレアが一歩踏み出すごとに、さっと潮が引くかのように身を引き道を開ける。そしてなぜか目を合わせようとしないので、斜め後方に立つペイジュに小声で問う。


「あらあら。次期皇妃候補の威厳に、皆して恐縮しているのかしらね?」

「いえ、単に避けられているだけかと」

「――ペイジュ」


 違うわよね、と視線で威圧すれば、ペイジュはこほんと咳払いし、「主が眩しすぎるからでしょう」と明らかに心にもなさそうな賛辞を述べた。


 先ほど、『以後、お見知り置きを』などと言いはしたものの、この国にウェスタレアを知らない者などいない。


 アルチティス皇国の休戦中の敵国、ルムゼア王国の公爵令嬢にして、元王妃候補。


 王女リリーと前王妃の陰謀により、毒杯を賜り死んだかと思われていた。だが、実際は冤罪で、生き延びて大国アルチティスに渡って皇妃選定に参加し、更には自身の力で潔白も証明した。


 ウェスタレアの大逆転ストーリーに両国の民衆は湧き立っていたが、この広間にいる貴族たちは少々違う。


 ――自分も足をすくわれるのではないか、ルムゼア王国の前王妃と王女のように。


 ウェスタレアの目には、彼らがそんな風に警戒しているように見えた。権力を持った者は往々にして、欲望にまみれた後暗い生き方に流されていくものだ。生意気にも刃向かってくるかもしれない異分子を見るかのような視線を、ウェスタレアは四方から感じた。


(何、この国の貴族はそんなに後ろめたいことを抱えているの?)


 もしこの貴族の中で、そのような者がいるのなら。悪をもって悪を制すことをいとわないつもりだ。謁見の間で、皇帝にそう宣言した通りに。悪人から弱い者を救い、守ることが、皇妃を目指す者としての責務だから。


 ウェスタレアはまっすぐ歩き、エリザベートと対峙した。自分より少し背が低い彼女を静かに見下ろせば、彼女はこちらを挑発するような目で見上げた。


「まぁまぁ。歩けば勝手に道ができるとは、素晴らしい才能ではなくって? アルチティス皇国にはまだ舗装されていない場所が多くございますわ。皇妃を目指すのはやめにして、道路工事の仕事をなさってはいかが?」


 まるで皇妃には向いていないと言わんばかりの彼女の嫌味に、額にピクリと怒筋が浮かぶ。仕事を斡旋しますよ、と付け加えた彼女に努めて冷静を装いながら言い返す。


「道を作るということは、物や人の移動が可能になり、地域、ひいては国の発展に繋がる素晴らしいことだわ。皇妃になったあかつきにはぜひ、道路の整備に力を入れましょう。――ご助言どうも」

「〜〜〜〜っ」


 あくまで皇妃になるのは自分だという態度に、エリザベートは歯ぎしりする。


 ふたりの皇妃候補の間に、バチバチと火花が散った。


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