月5万で契約彼女をしてもらった
「五万円。わたしと付き合うのに、支払うお金」
見栄を張るには金がいる。
彼女いない歴をさっさと終わらせたかった俺は、妹に紹介されたクラスで一番オタク受けがいい顔をしていると呼ばれた少女に告白したのだが……。
「毎月」
「年60万も払えるわけが……」
「咲希ちゃんに、もうもらったよ」
妹、お前、いつのまにか、兄より稼いで。まさか、パパ活とかしてないだろうな。
「ちょっと家族会議に行ってくる」
シュババババババッ。
ドゴーーーンッ!!
「咲希、お兄ちゃんに話すことないか」
「んー、最近スパチャが多くて、サイコーとか」
パソコンのモニターを見たまま答えるな。vtuberのアバターが動いているが、配信はしていないようだし。
「お前、そのスパチャをさらに貢いでないか」
「推しは推せる間に推せだよ。jkブランドはjkのうちしかないんだから」
「毎月5万で、クラスメイトを売買するなよ」
「え、ちゃんと、3600万円渡したよ」
おい、何年分だ。税金納めたか、ちゃんと。
今までのスパチャ全額入れてないよな。推しは、自分の生活費のできる範囲で、だぞ。
そして暗算を終えた。
「咲希、60年分買ったのか」
「まぁ、安い買い物だったかな」
さて、妹にリンカーンの自伝でも読ませてあげた方がいい気がしてきた。人身売買は、とうの昔に禁じられているんだよ。
「ちょっと解約手続きをしてくるな」
「そんなことしたら、税金がまたかかるよ。お兄ちゃん、諦めた方がいいよ」
「未成年者の契約をちょっと破棄してくるわ」
3600万も使って何をしとるんだか。
もう結婚しとけよ。
あ、俺、当事者か。
「かくかくしかじかで、契約彼女は無しの方向で」
「じゃあ、これ、3600万です」
持ってきていたアタッシュケースに札束が36個。ひと束100万円。何、持ち歩いちゃってるの。危険、危険だから。
「ん、これは、偽札だ。すごい精巧で俺じゃなき見逃しちゃうが。この聖徳太子はーー、ってなんだ、このオモチャ」
「お兄ちゃん、冗談に決まってるのに、何を焦ってるの」
ノコノコと仕掛け人が、現れた。
よくよく考えれば、累計スパチャでも3000万突破してないはずだった。
妹の金管理は兄の務め。
「だいたい、月五万なんて格安で済むわけないでしょ」
おい、妥当な金額を考えようとするな、俺が傷つく。
「初回限定で、3年間お試し無料です」
0を親指と人指し指で表現する少女。
「妹よ、実質無料の格安ケータイみたいなプランが提示されているんだが」
「デート代ぐらい払ってあげなよー」
「待て。俺は女子に対して割り勘と言える最近のーー」
「わたしの同級生だから。後輩なんだよ」
「月5万までデート代を払おう」
「それ、高校生のデート代としては全額にならない」
「ということで、咲希、頑張ってスパチャを増やすぞ」
「実質、わたしの財布から出てない、これ」
「配信準備、全部自分でやるか?」
「うーん、お兄ちゃんが困りそうならやりたいみが強み」
「いつから妹の育て方を間違ったのか」
もっと純粋で兄を敬いかしずき崇拝する妹にしたはずなのに。
それはキモいな。もう少し親しみがいるか。
「人は人の嫌がることに無駄な労力を避ける生き物なのだよ」
「そういえば無駄なドッキリをさせられたな」
「楽しいね」
さて、妹がいじめとか起こさないように、リンカーンの自伝でも買ってやろう。マイマネーから。
あれ、演説集か、伝記でもいいが……。
「ん、演説集。お兄ちゃんは、わたしのトーク力を上げろと。間接的に結婚情報誌を置くような陰湿さ。いったい、誰に学んだのか。わたしはお兄ちゃんをもっと妹の言うことに従順に従う心の広い何でもやってくれるお兄ちゃんにーー、いや、そこまでへりくだられてるとキモいか。お兄ちゃん、ジュースゥ」
「お兄ちゃんはジュースじゃありません。はい、これ」
「ありがとー」