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ディアリール

「ぐっ、バカな。本当に魔王の息子だというのか」

「隠し子、だけどね。魔王を継ぐ気もない」


 ギルバーンが苦悶の表情を浮かべる


「魔を極めるとディア、魔王になればグランディアだったかな。だから嫌いなんだよねディアリールって名前」


『リール、って呼んでほしいかな』


 頭の中で腑に落ちなかった言葉が、かちりとハマる。

 リールは余裕たっぷりにギルバーンに近づいていく。


「くだらない。魔王なんて。魔族なんて縛られた生き方」


 冷たい声で吐き捨てる。


「ボクはボクのやりたいように生きるさ。父が死んで、自由になれたし」


『親とか』

『死んでるよ』


 死んでる親。


「ちなみにオーラクラッドの使い方は黒騎士、メリアの直伝さ。世話役だったからね、彼女。だからさ、魔王の魔法に、黒騎士の剣技を相手にしてたわけだ、キミは」


『そっか。ちなみに黒騎士っていうのは』

『金色の装飾が施された黒い鎧に身を包んだ魔族だった。オーラクラッドっていう魔力を体に纏わせて、全身を剣みたいに扱える魔法を使うの。魔剣も持っていて、凄く強かった』

『へぇ、メリア(・・・)って(・・)そう(・・)呼ばれてたんだ(・・・・・・・)


 聞こえなかった(記憶を拒否した)言葉。

 全てが、クーシュの頭でパチパチと、ハマっていく。時々感じていた恐怖も、その正体を知る。

 魔王の血を引いているから、だ。


 年相応に見えない態度も、見た目が実際の年齢に伴っていないからだ。


 魔王は滅びていない(息子がいる)

 なら魔王を倒した自分の苦労は、仲間の死はなんだったのか。

 そんな疑問に身を震わせた。


「勝てるのは勇者くらいなもんさ。裏切るの、早すぎたね」


 ギルバーンを見下す、リール。


「……何が望みだ」

「勇者は殺したことにして報告してほしい。部下の記憶はいじってやるからさ」

「許すとでも」

「それ以外に選択肢があるとでも?」


 苦虫を噛み潰したようにギルバーンは表情を歪める。


「化け物め」

「化け物にするのは人間さ」

「……勇者、こやつを殺せ! 仲間の死が無駄になってもいいのか!」


 藁に縋る想いだったのか、ギルバーンが叫ぶ。どの口で、と思わなくもないが、確かにそうだ。


 どうする。


 そんな疑問がクーシュの脳裏に浮かぶ。

 魔王の息子。生かしておいていい存在ではない。今なら背中を向けている、油断したリールなら倒せるのではないか。

 不安要素は断たねばなるまい。でなければ仲間の死も無駄になる。


「勇者サマ」


 振り返ってリールがクーシュを睨む。

 それだけで体が震えあがった。


「キミが望むのならバルザン王国だっけ? 滅ぼしてあげてもいいけど」

「……え」


 何を言ってる。


「どうして」

「裏切った国だ、憎いだろ?」


 確かに。罪をかぶせて、クーシュを裏切ったのは間違いない。

 でも、と。

 クーシュは首を横に振る。なぜなら国が裏切ったからといって滅ぼしていい理由にはならない。


「……憎くない。ティッツァが生きていた国だから。私の母国でもあるから」


 己の魔力を解放する。


 一つだけ。


 聖剣がなくとも、魔王級でも滅ぼしうる魔法がある。

 死ぬつもりでその魔法の準備を始める。


 リールは心底冷めた、といった表情でクーシュを見る。

 油断しているうちに、仕留める。


「そっか。良かった」

「……え」


 予想外の言葉に、魔力が霧散してしまった。


「キミが望むならって言ったろ? 望んでないならする意味がない。面倒事がなくていいよ」

「どうして。魔王の息子なんでしょ」

「そうだよ。何度も言うけどボクは魔王にはならない。あんなくだらないモノには、なりたくもない」


 温度を感じさせない瞳が、光を反射する。


「やっとボクの人生が始まるんだ、誰にも邪魔させないさ」

「何をするつもり」

「何も。料理を学んでもいいし、裁縫だっていい。本を読んでみたいし、絵だって描いてみたい。冒険者も悪くない」


 両手を大きく広げて、ディアリールは目をかがやかせる。


「魔王の血筋なんて言う拘束具は外れたんだ。同族なんざ知ったことじゃない。ボクはボクの好きなことをして好きなものを集めて、好き勝手してやる」


 自分勝手で利己的で、とてもじゃないが魔王の息子とは思えなかった。

 少なくとも人間の世界を脅かす存在になる様子はなさそうだった。


「キミはどうするんだい」


 目を細めて、リールが問う。


『クーシュは全部終わったらどうするんだ』


 なぜか、リールの言葉が、かつてのティッツァの言葉と重なる。

 そしてクーシュの答えはあのときと変わらないまま。


「わから、ない」

「そ」


 リールが手刀を振り下ろす。


「がはっ」


 そばにいたギルバーンの首にそれが落とされて、気絶させた。


「一人くらい事情知ったままで返した方が上手く立ち回ってくれるんじゃないかなと思ったんだけど、やめだ。面倒だから全員に勇者が死んだ記憶を植えつけて返してやる」

「生かすの、人間を」

「魔族だから人間を殺すべきって? 冗談、殺すのに種族なんか理由にならないね」


 リールは手をかざして魔力の渦に聖騎士部隊を包む。


 魔法が行使される。彼の言葉を信じるのならば、記憶操作の魔法だろう。

 強い意志と魔力があれば抵抗できるが、気絶させられた人間に魔王相当の魔力に抗う力はないだろう。


 そして紫色の魔力の渦が止むと、聖騎士部隊はリールの風魔法によってどこかに運ばれて行った。

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