捨てられた勇者と捨てた魔王
ベッドで眠るクーシュを眺める。
苦しむ姿、すがりつくように、救いを求める姿。
泣いたり吐いたり、絶望しきれていない姿がたまらなく愛おしい。
仲間の幻影に取り憑かれている。
リールとは真逆だ。仲間に先立たれて、国からは裏切られ捨てられた勇者と、全部裏切るつもりだったし、己の責任を全て捨てた魔王の息子。
魔王を倒したあとの人間の考えなんてわかってる。戦争を準備することも、邪魔な勇者を捨てることも。
そして拾えば自分に依存するか、全部終わらせるしかないことも。
全部全部、わかっている。
楽しみなのはこれからだ。
自分が何を好きになるのか、クーシュはいつ折れるのか。
クーシュに希望なんてない。
壊れた陶器を直す方法がないように、人の心はもろく、壊れれば歪んでいくしかない。
リールは静かに悪魔の笑みを浮かべる。
父親を、育て係を殺した勇者。それを花のように、手のひらで愛でる。その権利が自分にある。
あぁなんて素晴らしい人生だろう。
これから冒険者になって、各地を旅をして様々なことを学ぶだろう。つまらなければ別のことを探せばいいし、邪魔をする者がいれば壊せばいい。
それだけの力も全部手にしたし、準備もしてきた。
クーシュが人生のどん底に落ちてくれたおかげでリールは人生を謳歌できる。
これからクーシュの人生はどう崩れるだろう、どう歪むだろう。
「なぁ勇者の仲間たち。今どんな気分かな」
虚空へ向けてリールは呟く。
まるで子どもを殺した魔王のように。
壮大に何も始まらない感じですが同じような展開が繰り返されるだけになってしまいそうなのでこれで完結とさせてください