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温かい絶望

 盛者必衰。

 どんなに勢いがある者でも、必ず衰えが来る。

 東のほうの国、守人族(エルフ)の国で使われていた言葉だという。


 土砂降りの、血だまりの中で、クーシュは静かに倒れ伏していた。その瞳に生気はない。

 ついこの間まで、勇者として称えられていた者の末路だった。


「……げほっ」


 血反吐を吐く。

 水色の髪も、血で赤く染まっていた。

 背中から、大剣で胸を貫かれていた。それでも勇者としての超人的な肉体ゆえか、まだ死んでいなかった。

 爪に泥が入るのを構わずに、拳を握りしめる。

 

 クーシュに故郷はない。仲間もいない。愛する人も場所も全て失った。

 それでも生きてきたのは、死んでいった人たちに生きろと、そう言われて意志を託されてきたからだ。


 人生の全ては魔王討伐の為に。


 脳裏に死んだ仲間の声が再生される。


『後は任せた、クーシュ』

『クーシュ。未来を、頼んだよ』


 仲間の命も、好きな人の命も犠牲にして、クーシュは魔王討伐を成し遂げた。勇者に、なったのだ。


『生きて。俺の分も生きて、幸せになるんだ』


 仲間でも、好きだった男、ティッツァの最期を思い出す。


 ――あぁ、こんな世界(ひとりぼっち)で何が満たされようか。


 適当な国家反逆罪をでっちあげられ、国の聖騎士どもに追われ、背中を貫かれて崖から落ちて……そんな末路でも、安堵せずにはいられない。

 仲間のところに逝けるのだ。


(ちょっと早いかも。でも、いいよね)


 生きていく自信なんてなかった。魔王を倒す為の力はもう世界から必要とされていない。だが、クーシュが積み上げてきたのは魔王を倒す為の力だけだった。

 平民で、旅をしていた者に、城での暮らしは合わないだろう。かといって平民として生きて、仲間の死を抱えたまま生きるのも辛いだろう。


 どうせ当てもなく旅をして野垂れ死ぬか、こうなるかしかないのだ。


「……あった、かいな」


 体温が下がってきたのか、雨の温度が温かく感じてきた。湯にでも浸かっている気分だ。

 致命傷のせいか感覚がマヒしていた。痛みなんて感じていない。


 心地よいくらいだった。


 (しあわせ)が迫ってくる。それを受け入れるように瞳を閉じる。

 ゆっくりと土に埋めるように、意識を沈めていく。


「あいたい、みんな。あいたい……な……」


 ゆりかごで眠る赤子のように、穏やかな表情で、クーシュは眠りにつく。


「――おやおや」


 意識が完全に途切れる前に、少年の声が聞こえた。

 ただ、クーシュの意識はそちらには向かなかった。


 この後のことなんてわかりきっていて、考えなくていいのだから。


 そのはずだった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  この冒頭だけで涙が出るのは私だけではないでしょうね。英雄なんていつの時代も平和になれば用済みとなる悲しさが伝わってきます。
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