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仲造 新妻のテルに拒絶され、手籠にしようとする

 江戸の末期の慶応三年、明治に改元したのが慶応四年だから、明治の前年、この家に男がいたそうだ。名前は聞いてないが過去帳には仲造と書いてあるね。その仲造に嫁さんを世話する話があった。


 昔のことだからほぼ強制的に縁談が進められたんだろう。相手は若く美しい人だったそうだ。戒名が芙蓉院とあるから、やっぱり美しい人だったんだろうね。ここから聞いた話をもとに語るね。子供の頃聞いたから閨房の話は多少の想像と妄想だけどね。大筋はあっていると思うよ。


 さて、嫁入りの日になって、祝言をあげればお待ちかねの床入りだ。ところがテルさんは何を思ったか、仲造のいうことを聞かない。同衾を拒んだ。古い表現だが、一緒に寝てくれないわけだ。その日は仲造も我慢した。


 翌朝になって仲造が起きるとすでにテルの布団は畳んであってテルは寝間にいなかった。台所に行くとテルは隅にすわっていた。仲造がテルを見ても、テルは顔を仲造に向けなかった。一言も口をきかなかった。ただ、ご飯は炊いてあり、釜からお櫃に移してあった。味噌汁も出来ていた。しかし、膳の上に茶碗と箸は並べてあったが、給仕をしてくれることはなく、黙って座っているだけであった。


 仲造は食事を済ませ、「畑仕事だ、行くぞ」とテルに声をかけたがテルは返事をしなかった。


 八月だから畑も田も農作業は休む間もなくある。農家の嫁は働き手でもある。夫と共に農作業をすることが求められている。仲造はテルが一緒に畑に出るものだと思っていた。しかし、テルは返事もしない、支度もしなかった。もう一度声をかけるもテルは微動だにしなかった。


 仲造はやむなくチッと舌打ちして畑に出て行った。


 昼に畑仕事から帰ってくると、丸い結びが作ってあり、結びの脇に青菜の煮浸しが置いてあった。結びも煮浸しも美味しかった。


 仲造は少し休んで、「午後の仕事に行くぞ、支度をしろ」と言ったが、テルは支度をしなかった。


 クソッと言って仲造は午後の畑仕事に向かった。


 夕方仲造が畑から帰って来るとすでに夕飯ができていた。夕飯はうどんであった。この地方は田に比べて畑が多く、また米は年貢になるので夕食は小麦を使ったうどんと決まっていた。

 うどんに茄子を煮たものが添えてあった。薬味はネギが刻んであった。美味しかった。


 井戸端に行き行水と思っていたが風呂が沸かしてあった。水を井戸で汲んで風呂桶にいっぱいにするのは重労働であり、さらに薪で風呂を沸かすのにも時間がかかり風呂は贅沢であった。


 仲造は風呂に入りながら、風呂の排水を溜める穴はそろそろ目詰まりする頃だな、穴を新しく掘るようだ。それにしてもよく水を汲み入れたな。風呂に入りたかったのか。風呂で体を綺麗にし、夜は待ちに待った床入りだろう。風呂に入ったら覗いてやろうか、風呂を用意したくらいだから嫌とは言うまい。昨日は祝言で疲れていたのだろう。今日はやるぞと妄想し、滾り、今夜に期待する仲造ではあった。


 風呂から出た仲造は、すぐテルが風呂に入ると思って期待していたが、テルは風呂に入らなかった。仲造の期待はすぐしぼんだ。


 夜になって仲造は当たり前のようにテルに近寄り、テルの体に触れようとした。テルは、冴え冴えと美しいが表情が全く無い顔を仲造に向け、仲造の手を払い「嫌です」と言った。手を払いのけられて仲造は怒り、テルを押し倒し寝間着の裾を掻き分け赤い腰巻を捲って太腿の間に手を入れようとした。力ずくで手籠めにしようとした。テルは激しくあがらった。仲造は、なんでだと詰問したが、テルは冷たい顔を仲造に向け、「あなたが嫌だからです」と言った。


 仲造はかっとなって、首を絞めながらおのれ自身をテルに押し込もうとした。ところがテルは、足をしっかり閉じて仲造を受け入れなかった。仲造はさらに力を込めて首を絞めた。急にテルの力が抜け、それではと思ったが、テルは何の感情も伺えない目を見開いたままだった。くそっとテルの頬を一発、二発、三発と殴り続けたが、テルは無抵抗に殴られるままだった。仲造は立ち上がりテルを全力でけ飛ばした。テルは布団から板敷の上に転げ落ちた。テルの首はあらぬ方向に曲がっていた。その時になって仲造は、テルが死んでいることに気が付いた。

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