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男は女を連れて実家に帰る

 「ねえ、お彼岸の連休何処かに行こうか。まだ紅葉は早いか。夏の盛りを惜しんで沖縄にする?それとも秋の気配を感じに東北か北海道に行く?近場の温泉もいいわね。もちろんお泊まりよ」

 男のアパートに遊びに来ていた女が男に聞いた。


 「ああ彼岸になるね。墓参りと実家の掃除に行こうと思うんだ」


 「私とお泊まりより掃除?怪しいわね。他に女が出来た?」


 「まさか。母が亡くなって実家に誰も居なくなったからだよ」


 「じゃついて行くわ」


 「掃除だよ。でも来てくれると嬉しいかな」


 「最後の'かな'は何よ。そこはちゃんと言い切りなさいよ」


 「ああ、嬉しいよ。一緒に来て下さい」


 「棒読みだわね」


 「本心だよ」

 男の手が女に伸びる。


 「また誤魔化す。そんな事で誤魔化されないんだから。駄目よ。あぁ」


 彼岸の入りになり、男と女は都内から電車に乗り継ぎ男の実家を目指した。


 「随分遠いわね。まだ?」


 「もうすぐだよ。この川を渡って二駅だ」


 電車が止まる。


 「ほら着いたよ。降りるよ」


 「田舎の駅ね。ビルが無い」


 「反対側にマンションがあるよ。二階建てのビルもある」


 「二階建てもビルって言うんだ。そうなんだ」


 「いいじゃないかそんな事。ほら歩くよ」


 「どのくらい?」


 「ゆっくり歩くと15分くらいだ」


 「えぇ遠いよ。タクシーにしようよ」


 「天気はいいし、タクシーは今居ないから歩くよ」


 「美味しいもの食べさせてよね」


 「そうだ。スーパーに寄って食材を買って行こう。実家には食べ物は何も無い」


 「ケーキ買おう。ケーキ」


 「都会じゃ無いんだからパティシエがいるような店は無いよ」


 「買ってくれば良かったな。じゃヤマ◯キのケーキでいいよ。スーパーに売っているでしょ。見栄をはらなければあれも美味しい」


 「すまないね。田舎で。スーパーの前に少し早いけどとりあえずお昼にしよう。回転寿司だってあるぞ」


 二人は回転寿司で食事をしてスーパーに寄り買い物をした。数日分の食材は流石に重いのでタクシーを呼んで実家に向かった。


 実家に着き、要冷蔵の食材は動かしていた冷蔵庫に入れ、縁側のサッシやあちこちの窓を開けた。


 「布団を干したら掃除を始めよう」


 「誰の布団?」


 「自分のだよ。時々帰って来てたからね」


 「ケーキ食べてからにしようよ。疲れたよ」


 「気がつかなくてごめんね。お茶入れるから座っていて」


 女が縁側で待っていると男がケーキとお茶を持って来た。


 「こういうのもいいわね。まったりして」


 「ああ、天気もいいし。眠くなるね。膝枕ーーー」


 「掃除よ。ケーキ食べたら掃除よ」


 「ああ、膝枕ーーー」


 男の尻を叩きながら片付けをして夕方になった。


 「ねえこれなあに」


 女は、スマホより一回り小さい大きさで、表紙と裏表紙に金襴生地がはられ蛇腹の様に折りたたまれ、折りたたまれた部分に墨で名前などが書いてあるものを手にして男に聞いた。


 「過去帳さ」


 「過去帳って」


 「ご先祖様が亡くなった年と戒名が書いてある。それに数え年で亡くなった時の年齢が書いてある。うちは日蓮宗だから戒名は法号、和尚さんの事は上人と呼ぶらしいけど面倒だから戒名と和尚さんと言うね。」


 「ふうん。ねえこれなあに」


 「またかい」


 「だって同じ月に亡くなっているよ。流行り病かしら」


  楓樹院大悟日守法師位 慶応三年八月

            仲造 二十八歳


  芙蓉院妙覺日照法尼位 慶応三年八月

            テル 十八歳


 「男の人の戒名は、楓だからメープルシロップでも作っていたのかな。慶応って明治の前?そしたら楓の盆栽が好きとか。女の人は、芙蓉の花のような人だったのかしらね。芙蓉の花ことばは、ええと物知りのスマホに聞くと、繊細な美、しとやかな恋人みたい。花は一日でしぼむそうだから、儚い繊細な美しい人だったのかしら」


 「ああそれね。流行り病じゃないよ。小さいとき聞いたことがある。こういう話だったと思う」


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