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戦え!!ジエイガー 怪獣迎撃大作戦

※この作品は執筆にAIのべりすとを使用しております。


恐怖の七大怪獣出現!

立ち上がれジエイガー、憧れのあのひとを守るため

挿絵(By みてみん)

戦え!!ジエイガー

怪獣迎撃大作戦



***



「なんだ!?」

「あれは………!」


ソナーには、巨大な黒い物体が映し出されていた。

やがて水飛沫とともに、ソレは姿を現した。


ブモォオオオオッ!


牛か豚のような咆哮と共に現れたそれは……ヌメヌメした緑色の皮膚をしており、膨れた鼻はゾウアザラシを思わせる。

顔つきはどこか人間的であり、腫れぼったい半開きの目をして、身体の各部にイボのようなブツブツのある、這うような体制の怪物だった。

否、その姿は岡田も親しんだ特撮番組に出てくる「怪獣」を思わせる。


「キモラス……!!」


岡田は震えながらもそう呟いた。







巨大怪生物出現!

挿絵(By みてみん)

巨大怪生物第1号を「古代怪獣キモラス」と命名。

想定を遥かに下回る小規模な被害。

米軍の介入によりキモラスを駆除。



再び巨大怪生物、中国・北京に出現。

挿絵(By みてみん)

巨大怪生物第2号、命名「怪植物マンモスリリー」。

国連科学陣の総力を上げ、マンモスリリーの弱点を発見。

ナパーム弾と炭酸ガスの両面攻撃により北京の大花を焼き落とすも、根は中国全土に拡散。

未だ駆除続行中。



三度巨大怪生物、日本・渋谷に出現。

巨大怪生物第3号、命名「古代いか怪獣デスビッチ」。

挿絵(By みてみん)

デスビッチは地下水脈を破壊。

渋谷沈没!

大パニック!

都市機能が麻痺!

未曾有の事態だがマスゴミはいつもどおり!

自衛隊の作戦によって復活したキモラスにより、デスビッチを駆除。



連続する怪獣出現に対し、政権により自衛隊内の対怪獣部隊設立法案が出される。



四度巨大怪生物、ロシア・モスクワに出現。

挿絵(By みてみん)

巨大怪生物第4号、命名「鎧蛾怪獣モフモラー」。

モフモラー、ロシア軍蹂躙の後逃亡!

現在も消息不明のまま。

怪獣にステルス機能か!?



対怪獣部隊設立案、野党及び諸外国の猛反対。

及び担当大臣が不倫騒動により失脚した事により棄却。

紆余曲折あり、ヒト型クレーン研究を行っていた民間企業「天馬重工」に怪獣駆除を依頼する形に落ち着く。

挿絵(By みてみん)

以下、所属人員。

名誉社長兼ヒト型クレーン一号パイロット・天馬修一(13歳)。

社長代理兼ヒト型クレーン一号整備班長・猿田信彦(55歳)。

社員兼ヒト型クレーン一号整備士・キム・ドギョン(25)。

経理兼ヒト型クレーン一号整備士・花芽知環奈(25)。

以下、社員兼整備士数名。



五度、巨大怪生物出現。

挿絵(By みてみん)

巨大怪生物5号、命名「両性怪獣サカナンガ」。

ヒト型クレーン一号、初出動。

自衛隊との連携によりオサカナンガ駆除に成功するも、ヒト型クレーン一号大破。

海外自然保護団体から「罪もない命を奪うな」と批難の声。



六度、巨大怪生物出現。

挿絵(By みてみん)

巨大怪生物第6号、命名「剛腕怪獣キリゴング」。

ヒト型クレーン一号改修機・ジエイガー完成。キリゴング戦に投入。

ジエイガーの予想以上の活躍により、キリゴング駆除に成功。




***




『怪獣警報発令、怪獣警報発令、住人の皆様は………』


本来は、異常事態を知らせるハズのそれも、すっかり日本国民の日常として収まってしまった。

出現した場所が地方の片田舎という事もあり、当事者を覗いて世間からの関心は薄い。


どっち道被害が出る事を考えるとなんとも不謹慎かつ薄情ではあるが、首都東京の一部が沈没するような事態を経験してしまったが故に、どうしても「まだマシ」という単語が頭から離れない。


「まま、きらきら」


年若い母親に抱かれ、人混みの中をゆっくりと進む幼児が、山を指さして言った。

山の遥か向こうに、キラキラと光るものが見える。


あれは炎だ。

踏み潰された車が爆発し、民家に引火。


それが幼子の目からは、ライトアップのようにキラキラと光っているのだ。

そう、あそこにいるのは巨大怪生物。

つまる所の、怪獣である。



***



所は変わり、ここは横浜。

海に面した場所にある中学校の教室にて、午後の授業が始まろうとした時、一人の生徒が手をあげた。


「先生、失礼します」

「おお「出撃」か、行って来い」


それも、もはや日常のワンシーンと化していた。

教師は、生徒が戦場に立つという以上行為を片手間で許可し、少年は自らの使命の為に午後の授業を免除される。

「また天馬かよ」「あいつだけ授業サボれていいよな」「流石、ブルジョワは社長ご令息のお家芸だな」という陰口が聞こえないように、少年が教室から出ようとした、その時。


「天馬くん、また怪獣を殺しに行くの?」


今すぐにでも逃げ出したい教室のドアに手をかけたその時、背後から声をかけられた。

少年をキッと睨みつけている少女は、直に立ち上がると、彼の方へと歩み寄る。


「ああ、そうだよ」


少年は、否定しなかった。

当然だ。自衛の為だの、命を守るためだのと耳障りのいい言葉を並べた所で、彼がこれからやるのは怪獣の駆除なのだから。


「………なんで、そんな事ができるの!?」


少女が叫んだ。

一応、彼女の名誉の為言っておくが、彼女は決して変な団体に所属しているとか、思考が偏っているとか、そういうワケではない。

いつも明るく、クラスの中心にいる、どこにでもいる模範的な女子中学生である。


「怪獣だって生きてるんだよ!?命なんだよ!?同じ地球に生きる仲間なのに、それをどうして平気で殺せるの!?」


ただ、ほんの少しだけ正義感が強すぎるだけである。

世間的にも正しいのは彼女の方であり、少年に冷ややかな視線を集中させるクラスや、それを止めようともしない教師は、その現れだろう。

だが。


「………だって、仕方ないじゃないか」


少年にも。

世間から後ろ指をさされる側にも、言い分はある。

銃後にいる彼らが、善良な市民として綺麗事を吐ける、その環境を守っている側からの言い分が。


「怪獣は、僕達の街を壊しに来るんだよ?理由はわからないけど、どういう訳か怪獣は人の多い場所に現れる………そうでなくても、存在するだけで社会を脅かす怪獣もいる」


少年の脳裏に浮かぶのは、渋谷を水没させたデスビッチや、単独でロシアを蹂躙したモフモラー。

怪獣が超常的な存在であり、人類の脅威になる場合は戦うしかないのだ。


「だから………戦うしかないんだ、それがどれだけ残酷な事かはわかってるつもりだけど、僕は怪獣を殺す事で、皆を守る為に……」


パシィン!!


言い終わるよりも早く、少女の平手打ちが飛んできた。

少年は、叩かれた頬を抑えながら、唖然とした表情を浮かべる。


「あなた……最低!!」


そう言うと、少女は教室から走り去っていった。

残されたのは、呆然自失とした少年ただ一人。

そして、クラスメイト達はヒソヒソと話し合う。


「…………どうとでも言うがいいさ」


少年は全てを無視して、教室から立ち去った。



***



少年は、名を「天馬修一」と言う。

天馬重工社長を父に持って「いた」13歳であるが、彼のそれまでの人生は、お世辞にもいい物とは言えなかった。


父は大企業の社長でありながら、家庭では横暴そのもの。

目に見えてわかる虐待こそしなかったが、家庭を顧みる事なく、さらに会社の利益の為に家族を巻き添えにした。

自社の目玉として開発していたヒト型クレーンのテストパイロットに、当時6歳であった修一を宛てがったのだ。

典型的なロボットアニメの真似事である事は、誰の眼から見ても明らかだった。


パイロットになる為の厳しい訓練を強いられた幼い修一は、そこで初めて、自分の置かれている状況を理解した。

自分は、パーツなのだと。

ヒト型クレーンの有効性をプレゼンする為のパーツの一つに過ぎないのだと。

パーツである自分は、父からすれば対等な人間ではないのだと。

彼の、ロボットアニメの真似事の為に用意された、玩具でしかないのだと。


母親が病気に倒れても、父は変わらずヒト型クレーン開発に熱中し、ついに両方が倒れた。

信頼できる人間が社長業を引き継いではくれたが、残ったのはヒト型クレーン開発の為に残った負債と、かつての大企業の姿からは考えられない程落ちぶれた天馬重工。

残った数名の社員と、ついに未完成のままになったヒト型クレーン一号のみ。


もし、国が怪獣退治の仕事を持ちかけて来なければ、どうなっていた事か。


「おお!待ってましたぞ若旦那!」

「お迎えありがとう、猿田じいちゃん」


自転車に乗って帰ってきた修一を出迎え、た、典型的な面白じいちゃんな外見の彼は、猿田信彦。

天馬家とは祖父=先々代社長からの付き合いであり、現在の天馬重工の業務の全てを担当している、実質的な代表取締役社長である。


が、あくまで社長は修一だとして、自身は社長代理だと譲らない頑固ジジイでもある。


「出撃準備は出来てますぞ!いざ、怪獣退治〜〜〜ッ!」


演技がかった口調は、修一を少しでも安心させたい、猿田なりの気遣いだ。

父親には心中で中指を立てる修一ではあるが、そんな父親がダメにした天馬重工をたった一人で守り切り、なおかつ自分の保護者もやってのける猿田には、感謝してもし切れない。

彼や、彼と同じく自分についてきてくれる社員達の為だと思うと、修一も戦える。


………それでも、胸は傷んだが。


「ジエイガーの準備は?」

「完了しています!」

「腕のモーターを交換しました、反応速度が上がってます」

「ありがとう」


整備士でもある社員達からの報告を聞きながら、学生服の上から防護プロテクターを纏い、ヘルメットを被る修一。


その視線の先。

そこには、天馬重工の工場の一角を改装した格納庫に収まる、一体の巨大な人型兵器があった。


それは一見すると、中世西洋の甲冑をそのまま50mサイズにまで巨大化させたようにも見える。

しかし、それにはきらびやかな装飾はなく、剣も持たず、頭の両サイドについたサーチライトのせいで顔はまるでカエルのようにも見える。


その名を、ヒト型クレーン一号改こと「ジエイガー」。


憎むべき父親のつけた、元のヒト型クレーン一号という名前を嫌った修一の意向により、猿田がジエイガーという名前を名付けた。

しかし、家族を犠牲にし会社をダメにした、あの父親の象徴でもあるヒト型クレーンが今や中小企業にまで落ちぶれた天馬重工の食い扶持を支えているとは、なんとも皮肉である。


「ジエイガー、リフトアップ!」


コックピットに座った修一の号令と共に、ジエイガーを固定しているアームが次々と取り外される。

改造された工場の屋根が開き、カタパルトが展開し、ジエイガーの巨体がゆっくりと立ち上がる。

太陽の元に晒す事で、その全身が鉛色に鈍く輝く装甲に包まれている事がわかった。

塗装もされていない、ネオセラミック合金そのままの装甲の姿は、どこか無骨な魅力も感じさせる。


「システムオールグリーン、行けますぜ若旦那」

「うん……行こうか」


直に、依頼主である陸上自衛隊から派遣されてきた、かのオスプレイの発展機である大出力VTOL機メスプレイが飛来し、その機体下部から牽引用のワイヤーを伸ばす。それがジエイガーと連結され、その2900tの巨体を宙に浮かす。


ジエイガーは空へと飛び立ち、その先には同じく空を飛ぶ、戦闘機の群れが待っていた。

怪獣退治の為の先発隊である。


「……今日も頼むよ、ジエイガー」


ジエイガーは何も答えない。

ロボットだから、マシンだから。

しかし、共に死線をくぐり抜けてきたジエイガーに、修一が愛着を感じつつあるのも、また事実である。



***



さて、怪獣の出現したとある地方の山岳部に視点を戻そう。

運良く怪獣は今まで市街地に入らなかったが、進行ルート上に街がある事が判明し、自衛隊による怪獣迎撃作戦が行われる事となった。

………の、だが。


「やめろ!怪獣を殺すな!」

「怪獣を殺すなんて身勝手だ!地球は人間だけの物じゃないんだぞ!」

「怪獣にも生きる権利はあるはずだ!殺すなぁっ!!」


……とまあ、こんな具合に、一部の市民達は怪獣保護を訴えていた。

最初にキモラスが現れた時こそ、怪獣は単なる脅威としかみなされていなかったが、時間が経ってある程度人々も慣れてくると、こういった具合の連中は現れるものだ。

怪獣を迎撃する為の湾岸要塞建設反対デモから始まり、果ては怪獣退治を行う自衛軍への抗議活動まで。

中には過激な手段に出る輩もいるらしく、今回もそういった者達の仕業だろうという事は想像に難くなかった。


「おかしいなぁ………俺達、平和を守っているハズなのに」


渋谷を救った功績から異例の出生となった前任の小柴に代わり、部隊指揮を取る事になった元部下の「鈴木虎太郎」は、怪獣の進路上に立ちふさがるデモ隊を見ながら首を傾げた。

怪獣を倒す為に戦う事と、それを邪魔される事は、彼にとって全く別次元の問題なのだ。


「鈴木隊長!どうします?」

「……今更やめられんだろ。地上部隊は住人の避難に集中しつつ、作戦領域にデモ隊が入らないように誘導しろ」

「了解です」

「それと、例のロボットはどうした?」

「は、現在、天馬重工の工場から発進し……」


報告を聞いた直後、彼等のいる司令部のはるか先にある山岳部より、ドゴォォン!という爆音が響く。

見れば、航空自衛隊による爆撃作戦が既に開始され、怪獣に攻撃を加えていた。


「……始まったか」


鈴木は呟いた。

戦闘機より投下されるミサイルや爆弾。それらが次々に怪獣に命中し、爆発を起こす。

次々に起きる爆発の中、その怪獣はついに人々の前に姿を表す。


グワッガアアアア!!


一見するとそれは、上半身のみが体毛に包まれ、他生物の髑髏を仮面のように被った50mのゴリラにも見える。

だが、鱗に覆われ尻尾の伸びた下半身が、それがルーツを獣脚類に持つ事を示唆し、仮面に見える部分も実は硬質化した体表だ。


名を、剛腕怪獣キリゴング。

恐竜の生き残りが地熱により進化したとされるその怪獣は、何を隠そうジエイガーの初陣を飾った怪獣、その同族である。


まるで霊長類のようにナックルウォークで歩く様は、もし恐竜が絶滅していなければ辿り着いたと云われる恐竜人間が、あながち空想や妄想の類いではないと思わせる。

例に習うなら、キリゴング二代目とでも言うべきか。


ズドン!ドゴン!


そんなキリゴングに降り注ぐのは、戦闘機が放った対怪獣ミサイルである。

対怪獣を目的に作られたその威力は、かつてキモラスを殺した米軍のバンカーバスターの比ではない。

キリゴングの巨体が、煙に包まれる。


「やったか!?」

「おい、やめろよそういうフラグ!」

「わかってる、わざとだよ」


しかし、爆煙の向こうから現れたキリゴングは、全くの無傷である。

しかし、それは鈴木を始めとする陸自からも、キリゴングを攻撃している空自のパイロット達からも、想定の範囲内。

当然だ、彼等の攻撃目的は、キリゴングを殺す事ではないのだから。


「キリゴング、進行ルート外れます」

「目標、想定された進行ルートに入りました!」

「よし!」


そう、彼等の攻撃の目的は、キリゴングの進行方向を逸らす事にあったのだ。

彼等の思惑通り、キリゴングは爆撃を嫌がって彼等の想定した方向へと歩を進める。

その先にあったのは、廃棄された採石場。

なるほど、ここならキリゴングがどれだけ暴れても被害はない。

で、あるからして。


『ジエイガー、着陸します』


アナウンスと共にワイヤーが切り離され、ズシィン!と大地を揺らして降り立つジエイガー。

ジエイガーとキリゴングが戦うには、これ程ぴったりなリングはない、というわけである。


「よし、行くぞ………ジエイガー」


コックピットに座る修一は、レバーをガチャガチャと動かして動作確認をする。

修一の指の動きに合わせて、ジエイガーの手が動く。

動作に問題はない。


グワッガアアア!!


なんだお前は!と、キリゴングが咆哮を上げて威嚇する。

ジエイガーはそれに答えるように、両の拳を構えてファイティングポーズを取る。

どこぞの進撃する巨人や、真っ赤な恒点観測員の取る、あのファイティングポーズだ。


「さあ、お仕事の時間だ!」


修一がペダルを踏むと、ジエイガーは拳を構えたままキリゴングへと突進していく。


グワッガア!!


それを迎撃しようと、キリゴングは腕を振り上げる。

そして、振り下ろされる剛腕に対し、ジエイガーも同じく腕を振るった。


「うおおぉ!!」

「頑張れーっ!負けるなぁ!」

「そこだ!行けぇ!パンチで押し返せ!」


まるでプロレスの試合でも見るかのような自衛隊からの声援を受けながら、両者の力は拮抗していた。

だが、キリゴングのパワーは凄まじく、ジエイガーは徐々に押され始める。


「うう、なめるなぁ!」


ジエイガーが、足を大きく上げた。

それはアッパーのようにキリゴングの顎を蹴り上げ、その巨体を宙に浮かせる。


「おお!今だ!」

「反撃だジエイガー!」


歓喜する自衛隊の皆様だが、対する修一の表情には反撃の喜びも余裕もない。


「パワーが足りないか……くそっ!」


そもそも、本来想定されていたジエイガーのスペックなら、キリゴング相手にパワー負けする事はないのだ。

しかし実際はこの通り、一度倒した相手でもあるキリゴング相手に苦戦している。

それは何故か?


「なんで民間企業に兵器があんだよ!?」


その理由は、自衛隊の次はジエイガーに標的を変えた、彼等市民団体を見ればよく解るだろう。


「九条はどうなってんだ九条は!」

「お前ら禁じられたロボット兵器を平気で使ってんじゃねえか!!」


自衛隊員と違い、市民団体がジエイガーに飛ばすのは、罵声と怒号である。

彼等が何故ジエイガーに文句を言うのかと言えば、その答えは非常に簡単である。

ジエイガーは怪獣と戦うために作られた、怪獣と戦えるだけの力を持った兵器。


「わかってんのか!?怪獣達が目を覚ましたのは人間が科学に甘えたからだろうが!!」


怪獣保護を訴える市民団体からすれば、恥ずべき人間の罪であり、それを政府の命令で平然と使う修一達天馬重工は、彼等にとって憎むべき敵なのだ。

そうでなくとも、民間企業である天馬重工が保有し、なおかつ未成年を乗せて戦わせるジエイガーを、彼等「善人」が許すハズもない。


「税金取るのかよ!くそったれ!」

「天馬のロボット遊び気持ち悪すぎだろ!!」


そんな状況が故に、ジエイガーを構成するパーツ等の調達も、なかなか困難を極めた。

元より流用できるパーツが少ない上に、こうした市民団体の妨害や、世間からの白い目という圧力まで受けるのだ。

パーツを売ってもらえないなんて事もザラである。


パワーアップ所か機体維持すら難しい現状において、ジエイガーの武装はその重装甲と格闘戦のみ。

市民団体は税金でパーツが賄われているというデマを信じているが、実際は僅かな謝礼金で騙し騙しの運用であり、むしろ日に日にパワーダウンしているのが現実である。


「何だよ………何なんだよ………!」


そして修一は、そんな状況でジエイガーに乗って怪獣と対峙し、市民団体の罵倒に耐えているのだ。

同じ日本人として、彼等の言い分はわかる。

修一だって、死ぬかも知れないのに戦うのは怖い。

けれど、ジエイガーが無ければもっと多くの人が死ぬ。

だから、耐えるしかないのだ。

………その、命をかけて守っている相手から、心無い罵詈雑言を浴びせられながら。


「うわああああ!!!」


怒り、憤り、悲しみ、苦しみ。

様々な負の感情の入り混じった修一の叫びと共に、ジエイガーは鋼鉄の拳をキリゴングに叩きつける。


「くっだらねえ!なんだよそれ!バカバカしい!ふざけやがって!ふざけやがって!!ふざけやがってぇ!!!」


ばき、どご、ぐしゃあ。

何発も何発も、キリゴングの頭にジエイガーの拳が叩き込まれ、その度にキリゴングの頭部は変形していく。

その、頭部を覆う硬質化した表皮はひび割れ、間から赤い血が滲み出ていた。


グワガッ……グガガガ………ッ


完全にグロッキー状態のキリゴング。

それをジエイガーは掴み上げ、振り回して勢いをつけ、採石場の岸壁に向けて叩きつけた。

ジャイアントスイングである。


グワガッ………!


どごぉぉ、と轟音と共に岸壁が崩れ、キリゴングは口から血の混ざった泡を吐きながら瓦礫の中に埋もれた。


「死ね……死ね……死ね……!」


動けないキリゴングにトドメを刺そうと、ジエイガーが崩れた岩の中から、一際大きな岩を持って持ち上げる。

その修一の目は、普段の大人しく物静かな姿からは信じられない程に殺気に満ちており、顔つきも鬼のように恐ろしかった。


グワワワ………ッ!


ジエイガーが何をしようとしているか、キリゴングは感づいた。

だが逃げようにも、脳はぐわんぐわんと揺れてまともに動かない。

見開かれた修一の眼球は、怒りに満ちた目で、眼前のキリゴングに狙いを定めていた。


「死ねぇエエエ!!!!」


負の感情の全てを込めて、ジエイガーが大岩を振り上げ、そのままキリゴングに向かって振り下ろす。


………ドグチャアッ!!


首の骨が折れる嫌な男と共に、岩を叩きつけられたキリゴングの頭は、亀のように身体へとめり込んだ。


「うわ……」


その、あまりにもの一方的かつ残虐な戦いを前に、自衛隊はおろか、市民団体でさえ言葉を失ってしまった。

現実の怪獣は、テレビの特撮ヒーローのように倒されれば爆発四散するワケではない。

それにジエイガーは武器が徒手空拳しか無い以上、修一が怒りのまま拳を振るわなかったとしても、どうしてもこういう決着の付け方になる。

それは不可抗力であり、仕方ないと言えた。


「フーッ………フーッ………」


しかしながら、コックピットに座る修一の胸中には、敵を倒したという達成感も清々しさもない。

怒りのままに力を振るった事への罪悪感と自責が彼の心を蝕み、また酷く凍えさせた。



***



それから二日。

原理は不明だが石化するように変質したキリゴングの死体は、未だ撤去作業が進められている。

その様は、キリゴングに対するジエイガーの残虐ファイトと合わせて、ピラニアがごとく食いついてきたマスコミ等各種メディアによって、連日のワイドショーの話題の種となっていた。


「おはよ〜」

「おはよ〜」


日本人とは、いい意味でも悪い意味でも環境適応能力が高い民族らしい。

怪獣の出現も、それに立ち向かうロボットも、その結果13歳の少年がマスコミによってパブリックエネミーに仕立て上げられるという異様な光景。

それすら、日常、そういう物として皆が飲み込んでしまっていた。


「昨日は本当疲れましたよー」

「ねー昨日練習きつかったねー」

「ふぁい……」

「まぁ大会近いからね、しょうがないね。」

「そぅですよね……」

「タァイムはどう?伸びた?伸びない?」


水泳部らしき女子高生二人組が、そう話しながら街頭テレビの前を歩いている。

出社途中のサラリーマンや、会社が倒産して途方に暮れている失業者。

この街は、全てを受け入れる。

勝者も敗者も、生者も死者も、人類も怪獣も。

そんな、怠慢と現状維持が生み出した魔都、日本の首都東京にて。


「お疲れ様」


その女性は、これから仕事が始まるという時に、逆に仕事を終えて、彼女の勤め先である外務省から出てきた。


タイトスーツに身を包んだその姿は、エロティックな大人の女性を演出しつつも、並の男性ではモノにはできないという「強さ」を放っている。

しかし、彼女の武器は美貌とスタイルだけではない。

それは、30の若さで日本の政治中枢に関わる官僚の地位に登りつめた才覚と実力から見ても明らかだ。

とはいえ、スーツの上からでも膨らみが解るバストや、スカートをぱつんと張らせるヒップ。

そして色香と愛らしさを併せ持つ俗に「たぬき顔」と呼ばれるフェイス等、女性として魅力的なルックスの持ち主である事もまた事実。

その証拠に今彼女は、駐車場に向かう道中ですれ違う男達の視線を独り占めしていた。


「政治に無関心な善人は、悪人に支配されるだろう……か」


その一方で、彼女の感情はブルーであった。

古代ギリシャの哲学者であるプラトンの名言を漏らした理由は、自家用車に乗り込もうとした所に、獲物を見つけた飢獣がごとく駆け寄ってくる新聞記者の一団を見れば、明らかだろう。


「鹿ノ子律子さん!今回のキリゴング戦について一言お願いします!」

「諸外国からはやりすぎだと批判の声が出ていますが!」

「キリゴングにトドメを刺したのは誰ですか!?あなたの婚約者という噂もありますが………」


口々に質問を浴びせてくる記者達に、彼女、「鹿ノ子律子」はため息混じりで応えた。


「記者会見ならニ時間前にやりましたよね?もう答える事なんてありませんし、プライベートの噂についてはノーコメントです」


そう言って律子は車のドアに手をかけたが、それを閉めるよりも早く一人の男が割り込んできた。


「そこをなんとか!!それとも政治家ともあろう立場が、国民が知る権利を突っぱねるのですか!?」


男の必死の形相に、律子は露骨に嫌そうな顔をした。

男はこの手のマスコミによくあるタイプで、誤魔化しや詭弁を駆使し、あたかも自分達が政府の影を暴く正義の使者のように見せかけ、その実、ただ騒ぎたいだけの迷惑集団だった。

いや、見せかけているのではなく、彼等自身も自分達が正義の使者だと思い込んでいるのかも知れない。

でなければ、仕事も記者会見も終えた相手に対して、こんな出待ちのような真似はしないだろう。


………三流のゴシップ誌ならともかく、発行部数も購読者もそれなりにいる国民的な大手新聞社の記者がこれをやっていると思うと、律子は頭が痛くなった。


「とにかく、答えられる事は全部話しました。これ以上の問答は無意味でしょう」


そう言い捨てて、律子は車に乗り込み、エンジンをふかした。


「お待ちください!!」


だが、まだ諦めきれないのか、記者達はしつこく食い下がる。

だが、律子はその一切を無視する。

何を答えようと、どう弁明しようと、悪意のある解釈と曲解によって、自分の都合の良いように歪められる事は目に見えていたからだ。

律子はさっさと車に乗り込むと、サイドブレーキを解除した。


「おい待て!!」

「何か!何か一言!」


記者達が追いかけようとするより先に、律子の車は急発進し、そのまま勢いよく走り去っていった。

律子は、遠くなってゆくマスコミの喧騒をバックに、窓から見える霞が関の町並みに目をやる。


彼女からすれば、ここもやはりいつも通りの光景にしか見えない。

そりゃそうだ。代々政治家の家系である律子からすれば、ここは父や母が戦った戦場でもあり、彼女も今まさにこの霞が関で、日本という国を守るために戦っているのだから。


「…………うわ」


だから、霞が関を抜けた先で出くわした街頭テレビの内容に、自然と顔をしかめた。


『このジエイガーでしたっけ?一方的にキリゴングを殴ってますね』

『うわあ、酷い……』

『ほんともう、キリゴングが可愛そうです……グス』


そこでは、先日のジエイガーとキリゴングの戦いを、まるで罪もない野生動物を痛めつける心無い殺戮兵器であるかのような偏向を加えた報道が流れていたのだ。


『こいつが出撃する度に飛んでゆく金があれば、もっと充実した福祉が受けられるんですよ。それを今のオオコウチ政権は利益のために……』


そこに、ありもしない政治家の利権だとか、SDナントカだの動物愛護だの綺麗事を加え、政府や怪獣と戦っている側を腐敗した組織であるかのように雛壇のコメンテーターという名の何も知らない素人に語らせる。

そうすれば、暇人と情弱が大好きなお昼のワイドショーの出来上がりである。


「…………ほんと、いい加減にしてよ」


律子は小さく呟いた。

彼女は、別に右翼でも愛国主義者ではない。

むしろ、今の日本という国は、彼女のような若い世代にとっては、悪しき風習がまかり通る地獄に等しい場所だ。


しかしながら、そんな国の中枢にいる美紗には、こんな恩を仇で返すような国民でも守らなければならないという責任がある。

それが、外務省に所属する官僚たる自分の責任でもあるし、前線で怪獣と戦う人々に課せられた使命でもあるのだ。

何より。


「今日は月一の"デート"だっていうのに………」


その、前線で怪獣と対峙している人々。

何度もリピートされている、キリゴングを殴りつけるジエイガー。

そのコックピットに座っているのは、律子と将来を誓いあった相手なのだから。



***



所は変わり、横浜の天馬重工社屋。

先代社長のご令息である修一からすれば自宅も兼ねているその場所は、どこぞの地上最強の生物の息子の自宅がごとく落書きこそされていないが、それを見る近隣住民の目は冷たい。

政府から依頼と謝礼金を貰っての怪獣退治という名の害獣駆除という、善良な市民の皆様の感情の逆撫でフルコースをやっている事を考えれば、理不尽であるがそれも当然だろう。


そんなだから、ここに用があってわざわざ車を飛ばしてきた律子も、社屋の駐車場ではなく離れた場所にある有料駐車場に車を駐めてから向かうという、二度手間を踏む事になるのだった。


「ん?あ、こんにちは鹿ノ子さん」

「こんにちは、キムさん」


社屋の前で掃き掃除をしていた天馬重工の社員の一人「キム・ドギョム」が、訪れた律子を出迎える。

在日三世である彼は、日本語もペラペラの美丈夫なのだ。


「シュウくんはどうしてます?」

「出撃からずっと部屋に籠もりきりですよ、学校も休んでて………まあ、あんな報道をされれば、こうもなるでしょう」


近況を含めた世間話と無理解な世間への愚痴に花を咲かせながら、キムの案内で律子が案内された先は、修一の部屋の前だった。


「じゃあ、ワタシはこれで」

「はい、ありがとうございます」


キムに別れを告げ、律子は部屋の前に立つと、軽くノックをした。

返事はない。


「………シュウくん、入るわよ」


律子はそう言うと、ドアノブに手をかけ扉を開いた。

キィ、とドアが開く。

そこには、殺風景という言葉すら生ぬるい部屋があった。

ベッドと机と本棚しかない、生活感のない部屋。

唯一、その窓辺に置かれたサボテンだけが、唯一の私物のように思えた。


「あ……」


そして、彼女がここを訪れた理由である天馬修一少年は、そんなサボテンに水をやっている最中であった。


「久しぶり、シュウくん」

「律子さん……ゴメン、僕……」


律子の呼びかけに、修一は振り向くと、泣きそうな顔で頭を下げた。


「……うん、大丈夫。分かってるから」


律子は、そんな修一の頭を優しく撫でた。

そして身を屈めて視線を合わせ、にっこりと微笑みかける。


「ねえ、お姉さんとデートしよっか」


このまま、この薄暗い部屋に引きこもらせるなど、律子は許さなかった。

婚約者として、この17歳年下のフィアンセの笑顔を、どうにかして取り戻したかったから。



***



天馬修一と鹿ノ子律子。

結論から言うとこの二人の関係は、将来修一が結婚適齢になると同時に結ばれる、ようは婚約者同士である。

最もおとぎ話のようなロマンチックな物ではなく、当時大企業であった天馬重工と鹿ノ子家の間にパイプを作る為の、いわゆる政略結婚である。

でなければ、13歳も年の差がある少年と女性が、結婚の約束など結ばない。


結果的に天馬重工は失墜し、結婚によるメリットは無くなったワケではあるが、律子は婚約を解消する事はなかった。

周囲は、中小企業の跡取りの子供と結婚させられる律子を哀れんだが、律子は気にも止めなかった。

上手くは説明できないが、なんだかんだいいつつ律子は修一を愛していたから。

そして、修一も。


「シュウくん、こっちこっち」

「待ってくださいよぉ……」


無邪気な少女のように手招きする律子に、修一は苦笑しつつ、彼女についていく。

今日は、互いの仕事と都合の合間を縫って月一で会合する特別な日。

律子の言うとおり、これは世間一般的な恋人達のする「デート」というやつなのだろうと、修一は手を引かれながら考えていた。


さて、修一と律子がデートをしている場所ではあるが、驚く事なかれ、なんとここは秋葉原。

デスビッチによって一度水没した渋谷は、勇敢な自衛官の活躍によって水こそ引いたが、都市機能の受けたダメージは大きく、未だ復興の最中。

当然、観光客向けの施設なども壊滅状態であり、そんな中で奇跡的に無事かつ若者が好むアニメやゲームといったコンテンツの集まる秋葉原に人が集まるのは当然の帰結だった。

よって、この電気街は、以前と変わらぬ賑わいを見せている。


「あー!見てみてシュウくん!」

「え?なんです?」


律子の指差す方を見てみれば、そこには等身大のフィギュアが飾られていた。

それは、修一も知っている作品の主人公で、確か名前は……。


「ああ、あの有名なヒーローですね」

「そう、それそれ。すごいね、こんなのもあるんだ」


具体名は察してほしい、あの怪獣と戦う巨大なヒーローだ。

律子は、幼子のような笑顔になる修一を見て、少しだけホッとした。


そしてよく見れば、そのヒーローが飾られている施設は地下に続くイベント会場であり、今日はプロレスの試合をやっているらしい。

そういえば、このヒーローの戦い方もプロレスのそれに近かったよう記憶している。


「プロレスですって、面白そうね」

「行きます?」

「折角だし見ていきましょ!」


二人は、地下に続く階段を降りてゆく。

受付で入場料を払った後、地下室に並べられた座席であるパイプ椅子に、二人は隣り合って座った。


プロレスと聞いて、よくあるマットにロープを張ったリングを想像していた二人だったが、そこにあったのはビルの立ち並ぶミニチュアの町並み。

その足元であるマットにも道路のようなペイントが施されており、さながら特撮のセットのよう。


「どんなプロレスが始まるんだろう……」

「うーん……検討もつかないわね」


期待と不安が入り混じった表情を浮かべる律子と修一。

パンフレットも配られておらず、二人にはこれからどんなプロレスが展開されるのか検討すらつかない。

二人以外の観客は和気あいあいに盛り上がっている所を見ると、どうやら知っている人は知っている、いわゆる内輪向けのイベントのようだ。


「……あ、始まるみたいですよ」


照明が落とされ、暗闇に包まれた舞台の上に、スポットライトが当てられる。

まるで劇か映画のようだと思っていると、スポットライトに当てられて一人の人影が姿を現した。


『やあやあ地球人の皆さん、今日は私のステージにお越しいただきありがとうございます。満員御礼、私の好きな言葉です』

「へ!?」


ライトに照らされた先に立っていたのは、いかにもチープな宇宙人の着ぐるみ。

場内のスピーカーから聞こえる音声は、この宇宙人が喋っていると言う設定なのだろう。


『では、皆様にはこれから私の世界征服の様子を………』

『待てヤマモト星人!お前の好きにはさせないぞ!』


すると今度は反対側の舞台袖から、今度はヒーローコスチュームに身を包んだレスラーが現れ、ポーズを決めた。


『おや?これはこれは、宇宙防衛隊のエリート隊員、カミナガマンではありませんか?』

『その通り、俺はカミナガマン!今日こそは貴様を倒し、地球を守るのだ!』

『はっはっは、ご冗談を。あなた如きが私を倒すなど100年早いですよ。無謀な挑戦、私の苦手な言葉です』

「……これ、まさか」

「うん、多分……」


二人の予想は的中した。

これは、プロレス団体が企画した、所属レスラーを題材にしたヒーロー物プロレスであった。


つまり、あのヒーローはプロレスラーが演じているわけで、相手の宇宙人もきっと、別のプロレスラーが演じているに違いない。

まあ、プロレスという競技自体が筋書きありきのヒーローショーの一面もあるという事を考えれば、理にかなった興行と言えるだろう。

それに。


「行けー!カミナガマーン!」

「ヤマモト星人も気張りなさーい!お尻叩くわよー?!」


ミニチュアとはいえ、ビルを破壊しながら繰り広げられるプロレスは大迫力であり、いつしか修一と律子も最初の微妙なリアクションから一転して、夢中になって応援するようになっていた。 



***



「ふぅ、いい試合だった……」

「そうね、なんだかんだ面白かったし……」


すっかり満足した様子で、二人はイベント会場を後にする。

見れば、街道に置かれた時計の針は既に正午近くの11時を指しており、二人の小腹が空く頃合いだった。


「さっきのプロレス、結構面白かったですね」

「ね、シュウくんはどのキャラが好きだった?」

「僕はやっぱりカミナガマンかなぁ。必殺技がカッコよかったです」

「あー分かる!私も主人公の技が一番好きだな」


興奮冷めやらぬと言った感じの二人は、そのまま近くにあったカフェテリアに入る。

そこでは秋葉原らしく、メイドの格好をしたウエイトレスが接客をしている。

最もメイドカフェやコンカフェではないので、あくまでそういう格好なだけである。


「ご注文はいかがいたしますか?お客様」

「えっと、じゃあ門永総理の税金搾取バーガーセット二つで、あとデザートにユウコのミルクアイスも」

「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」


ウェイトレスは、公開中の映画とのコラボメニューの書かれたメニュー表をを下げた後、店内の奥へと下がっていった。

その背中を見送った後、修一は律子に向き直る。


「そういえば律子さん、この後予定とかあります?」

「そうねぇ」


律子は、顎に手を当てて考える仕草を取る。

その際、腕と腕に挟まれた彼女の乳房がむにゅんと変形した様を見て、13歳という思春期真っ只中の修一は、目を反らしてしまう。


……が、相手は大人の女性・律子。

チラチラと胸に目をやる修一に気づかぬワケもなく、口角をニヤリと上げ、ピンクのルージュを怪しく光らせる。


「………ねえ、少し早いけどさ」


ハンバーガーのコラボ先の映画を見に行く予定を立てていたが、いい噂は聞かなかったし、律子は予定の映前倒しを選んだ。


「………「休憩」、いこっか♡」

「っっ…………ッ!」


かああ、と修一の顔が耳まで赤くなった。

そこに運ばれてきたハンバーガーは、さながら「肉をつけて精をつけろ」と言っているようでもある。



***



秋葉原から車を少し走らせると、ビジネスホテルが立ち並ぶエリアに出る。

その中の一つに、二人は部屋を取っていた。

普通の一般人には、まさか律子のような「一見ちゃんとした大人に見える女性」が、未成年の修一と事に及ぶとは思わなかったのだろう。

姉弟の旅行者か何かと思われたのか、すんなり部屋を取る事ができた。


………そういう、「一見ちゃんとした大人に見える大人」こそが危ないのだと言う事は、大怪獣時代を迎えたこちら側の地球でもあまり広まってはいないのだ。


「はー、気持ち良かったぁ」


シャワーを浴びて、バスローブに身を包んだ律子がベッドの上で伸びをする。

修一はというと、緊張のあまりガッチガチになりながら、部屋の隅っこで縮こまるように正座していた。


「ほら、そんなところにいないで、もっとこっち来て」

「う……は、はい……」


修一はおずおずと立ち上がると、律子のいるベッドの方へと向かう。

そして、恐る恐るといった様子で、律子と向かい合うように腰を下ろした。


「もう、なに今更緊張してるのよ」

「だ、だって……」

「ふふ、可愛い」


律子は、そっと修一の手を握る。

風呂上がりだからか、その手は温かく、修一は思わずドキリとしてしまった。


「そんな童貞クンみたいな態度取らなくても、何も今回がハジメテじゃないでしょう?」

「そ、そうですけど………」


倫理観に真っ向から反する設定で申し訳がないが、修一と律子が身体を重ねるのは、今回が初めてではない。

デートの最後は、いつもこうしている。

もっとも、律子にリードされっぱなしである事を考えると、ある意味修一は童貞と大差ないだろう。


「……シュウくんは、どうしてほしい?」

「えっ」


だから、こんな風にたまに主導権を握らせるような事を言われても、修一は何も答えられない。

しかし、律子はクスリと微笑み、ゆっくりと顔を近づけてくる。


「キス、したいんでしょ?それともおっぱい触りたい?」

「あ、あの……」

「それとも、やっぱり私からして欲しい?♡」


修一は、少し黙る。

そして顔を赤くしたまま、小さな声で答えた。


「………頭、を」

「頭を?」

「……なでて……ください」


男が、これから身体を重ねる相手にする要求としては、落第もいい所だろう。

だが、それすらも律子からは愛おしく思えてしまう。


「……うん、分かったわ」


律子は、優しく修一の頭に手を添えると、そのまま撫で始める。


「よし、よし」

「……」

「シュウくんは、良い子ね」


律子はまるで子供をあやす母親のように、優しい声音で言う。

修一はというと、先程までの緊張が嘘かのように和らぎ、安心しきった表情を浮かべていた。


(……ああ)


修一にとって、律子は全てだった。

幼い頃、母を亡くしてからずっと、この人に支えられてきたのだ。


「………ッ」


ぽふん。

いつしか修一は、バスローブ越しに彼女の胸に飛び込み、顔を埋めていた。

性的興奮で飛びかかった………と、いうワケではない。


「よしよし、よしよし………」

「………ッ、スッ、………ううっ………」


修一は、泣いていた。

嗚咽と、肌を濡らす涙の感触で、律子は察したようだ。


「……いい子、いい子……」


律子は、修一の背中をさする。

修一は、小さく震えながら泣き続けた。


本来、13歳といったらまだ大人に守られている年齢である。

修一はその年齢で、恐ろしい大怪獣達と戦う事を強いられているのだ。

守っているハズの市民から、罵声を浴びせられながら。

まともな精神でいられるハズもなく、故に修一がこんな事になってしまうのは仕方がないと言える。

そして。


「シュウくん」


するり、と律子の手が修一に絡みついた。


「あなたに涙は似合わない」


修一の熱った眼差しに、律子はぞくりと体が熱くなるのを感じた。


「り、律子さ……」


だが、それ以上修一はなにも言えなかった。

修一の唇を律子の唇が塞いでいた。

Tシャツの下に律子の手が入ってくる。

シャツのボタンがそっと外され、華奢な身体があらわになった。


「律子、さ………!」

「大丈夫、心配しないで」


修一のパンツは一気に膝の下まで下され、律子は手の中に脈打つ若い情欲に笑みを浮かべた。


「お姉さんが教えてあげる」


修一は必死にしがみつき、激しく腰を振った。

律子の手を握り、身体を重ねた。

溶けて結合し、離れないように。



***



太陽が沈む頃、彼ら底辺労働者の仕事は始まる。

狭く、資源のない日本は、自ずと海外からの輸入に頼った経済体制を築いてきた。

それは同時に、国内の雇用環境を悪化させる事と同義であった。


「おい、そっちは終わったか?」

「ああ、今行くよ」

「今日は忙しいぞ、何せ……」


その日も、彼らは汗水垂らして働いていた。

彼等の仕事は、そんな輸入品の入った積荷の運搬である。

輸送船に乗せられて海の向こうからやってきた荷物を運ぶのだ。

当然、仕事内容は過酷を極める。


「ん」


普段、彼等は荷物の中身に対して興味を示す事はない。

だが今日は、偶然コンテナに書かれた文字から、今自分達が運搬しているのが何なのかを知った。


「どうした?」

「見ろよこれ、代用ミートだぜ」


呆れたように、男は言う。


「また政府は、まだこんなモン輸入してるのかよ……」

「まったくだよ、高いくせにまずい肉モドキなんざよ」


代用ミートというのは、読んで字のごとく「本物の牛肉や豚肉の代わりになる肉」の事である。

大豆を原料としたそれは、動物を傷つけない代わりに味も悪い。

しかも、加工に手間がかかる為に値段が高い。


主要大国が怪獣被害によって経済に打撃を受けた今、あらゆる輸入品の物価はうなぎのぼりだ。

にも関わらず、高い、まずい、そもそも動物性タンパク質も取れないという、食品としても嗜好品の域を出ないそれを、安価な本物の肉の代わりに大量輸入する理由。


「ったく、金持ち様の道徳ごっこにゃ付き合い切れねーぜ!割りを食って給料下げられんのは俺達だってのによ!」


それは彼等の言った通り、地球環境保護を名目に富裕層が始めた「ええかっこしい」という娯楽への需要を満たすため。


怪獣災害という未曾有の危機を前にしても、彼等は外面をよくする事にこだわり続けている。

その為に、この代用ミートの大量輸入の為に、彼等のような末端の労働者の賃金を圧迫しながら。


「さあ……わめいていても始まらん、仕事を続けるぞ」

「へーい……せめてちゃんとした肉買えってんだよ、くそが」


ぶつくさと言いつつも、男達は仕事を続ける。

富裕層がいくら地球環境や菜食主義を掲げた所で、彼等のような底辺労働者からすれば、ただの圧政か遊びにしか見えない。

意識が低いと言われるだろうが、明日の生活もままならない彼等には、地球の未来を考える余裕などないのだ。

だから、彼は気づかなかった。


『痛いカメ〜苦しいカメ〜』


自分達に迫りつつある、「大自然の叫び」に。



***



乱れたベッドの横には、アフターピルの箱と空になったミネラルウォーターのペットボトルが置かれていた。

未だ残る下腹部の熱い感覚を味わいながら、ベッドの上で身体を重ねたまま、律子はそもそもの本題に入る。


「あのキリゴングだけど、元々あそこにいた個体じゃないみたいなの」

「誰かに持ち込まれた、って事ですか?」


ピロートーク、と言うには色気が足りない話をしながら、修一は律子の胸の感覚を楽しんでいた。

………キリゴングは、確かに50m級の大怪獣である。

しかし、長期休眠状態に入ると、バスケットボール程の大きさの虹の卵のような姿になる。

恐らく、その特性を利用して密かに日本に持ち込まれたのだろう。


「そう。それで持ち込んだとされるのが、この男よ」


そう言って律子が枕元のスマートフォンを見せてきた。

そこには、監視カメラの映像を一部切り取り拡大した、解像度の荒い一枚の画像。

サングラスをかけてコートを着た、老いた西洋人と思われる男が一人。


「誰です?この人」

「カラスマって呼ばれてる、勿論本名ではないでしょうね」

「まあどう見ても西洋人ですもんね」


修一は律子の胸から顔を上げ、彼女の横顔を眺める。


「で、何者なんですか?このカラスマってヤツは」

「端的に言うとテロリスト、それもエコテロリストと呼ばれる連中……その中でも、重鎮とも言える男よ」


ここで、エコテロリストという言葉を初めて聞いた読者諸君の為に、少し説明しよう。


彼等の行動理念は自然保護や動物愛護等、一般的な価値観からしても是とされる物だ。

しかし、多くの場合彼等はそれを盲信しており、家畜や合法伐採といった人類文明の営みですら環境破壊だと決めつけている。

そしてそれらに対して、テロという形で攻撃を行う。

言ってみれば、武力を手に入れた過激な自然保護団体といった所だ。


そしてこの「カラスマ」という呼び名だけが明かされている男は、そんなエコテロリストの中でも一際名が知れており、同業者からもカリスマを持って崇められている、エコテロリスト界の重鎮だ。

マウンテンドーナッツ。

池の家。

パパラッチ。

ビクトリー団。

そして少し前に日本の調査捕鯨に対して反省を促すと称して妨害を仕掛けてきたマナティー等、有名所の環境テロリストには、必ずカラスマが関わっている。


「つまり、今回の件は……」

「ええ、彼の指示による可能性が高いわ」


律子は、ため息をついて頭を抱えた。


……アメリカが度重なる軍の愚行により権威が失墜し、中国はマンモスリリーにより地下ライフラインを滅茶苦茶にされ、ロシアはモフモラーによって一方的に蹂躙された。


どういう訳か力を持った大国が全て怪獣によって深刻なダメージを受け、国際的な監視とバランスが崩れた今、彼らのようなテロリストや犯罪組織が活動しやすい状況にあるのだろう。


「……まさか、また怪獣が現れるんですか?」


修一の言葉に、律子は再びため息をつく。

上記のマナティーの件を考えると、日本がまたエコテロリストの標的にされる可能性は十分にある。

あくまで調査だった調査捕鯨と違い、自衛の為とはいえジエイガーで怪獣を駆除しているのだから。


「可能性は高いと思う。でも、それならまだいいんだけどね」

「?」

「もっと悪いのは、もし怪獣が現れた時、彼等がもう一つ、何か仕掛けてくるかも知れないって事よ」


なんせ、相手は意志と知性を持った同じ人間なのだから。

そう付け加えようとした時、律子のスマートフォンに着信が入る。


「あ、ちょっと待ってね」


律子は修一に軽く会釈すると、着信に答える。


「もしもし、鹿ノ子です………ええっ!?」


そして、着信の内容を聞いている律子の表情は、途端に険しくなっていった。


「はい……はい、わかりました、それでは……」


通話を終えた律子に、修一が尋ねる。


「どうしたんですか?律子さん」

「……大変よ。大阪に怪獣が現れたわ」


その言葉を聞いた瞬間、修一の背筋が凍りついた。

嫌な予感ほど、よく当たるものだ。



***



時刻は、既に夜中。

大阪の港。

その、海外から届く輸入品を一時保管している倉庫が立ち並ぶ一角に、巨大な影があった。


その、破壊された倉庫から立つ炎に照らされたシルエットは、巨大な一本角の怪物に見えた。

しかし、角に見えるのは実は甲羅の一部であり、よく見ればその下に嘴を持った顔が見える。

テリジノサウルスのように伸びた爪と、二足歩行で立っているが、その怪獣はどことなく亀を思わせる姿をしている。


『若、政府から通達です。あの怪獣のコードネームは「装甲怪獣ガメロン」との事』

「ガメロンか、まんまだね」


律子の車で急いで戻ってきた修一は、本社からオペレーターを担当するキムの通信を聞きながら、メスプレイ空輸されるジエイガーのコックピット越しに怪獣・ガメロンを睨む。


『ジエイガー、着陸します』


やがて、アナウンスと共にワイヤーが切り離され、ジエイガーが大阪の大地に降り立つ。


「さて、お仕事の時間だ……!」


折角のデートを台無しにされてムッとしていた修一だったが、すぐに頭をお仕事モードに切り替える。

まずは、被害を抑えるためにガメロンを海の方へと押しやる必要がある。

大阪の街を守るため、ジエイガーが突撃しようとした。

その時だ。


『カメェ〜〜〜〜』


ガメロンから、妙な「声」がした。

鳴き声ではない。

人間が「カメー」と喋っているような、明らかに人の声としか思えない咆哮が。


『痛いカメ〜〜苦しいカメカメ〜〜』

「な……ッ!?」


気の所為だと思った修一であったが、そうではなかった。

なんとガメロンは、口を聞いたのだ。

人間と同じ言葉を、日本語で、しかも意味のわかる内容を。


『カメカメ~、ボクは元々普通の海ガメだったカメ~』


呆然とする修一の前で、ガメロンは話を続ける。

どうやら、身の上話をしているらしい。


『でも、君達人間の環境破壊によって、こんな姿になってしまったカメ~苦しいカメ~助けて欲しいカメ~』


話の内容以前に、怪獣が口をきくという前代未聞の事態に、修一はただ唖然として聞いていた。


「なんで怪獣が人間の言葉を……あっ」


そして、修一が困惑している間に、事態はさらなる咆哮へと転がり落ちてゆく。

気がつけば、ガメロンの周りに市民が集まってきているではないか。


「俺達人間の環境破壊が、ガメロンをあんな姿にしてしまったんだ!」

「そうだ、地球は人間だけの物じゃないんだ!」

「科学の発展や利益だけじゃない、もっと大切なものがあるんだ……!」

「俺達が、文明と科学を優先したばっかりに、罪もない海ガメがこんな姿に………!」

「僕たちは………考え直さなきゃいけないんだ………」


集まった人々は、まるで自分達が加害者であるかのように、ガメロンに向かって反省と懇願を始めた。

まるで、よくある特撮番組の自然破壊を題材にしたエピソードのラストシーンのような雰囲気が流れているが、それを傍から見つめる修一には、それがひどく不気味な物に見えてしまう。


『若!これは……』

「……キムさん、自衛隊に連絡して。ジエイガーはこのまま帰投する」

『えっ、しかしガメロンは……』

「もし、あの怪獣に攻撃でもしてみろ……」


キムとの通信の最中、修一はジエイガーのカメラをズームにしてガメロンの姿を見る。

表情筋がないのか、ガメロンの表情は変わらない。

しかし修一には、どうもガメロンがほくそ笑んでいるようにしか見えなかった。


「………僕達は世間の鼻つまみ者だ」


まるで用意されていたかのように集まった報道ヘリが、いつの間にかガメロンとジエイガーの周りを飛んでいた。



***



あの後ガメロンは、暴れるワケでもなく海に消えた。

世論は、ガメロンに対する同情。

そして人間の自然破壊への非難で一色に染まった。

怪獣は人類の罪の証、人類は反省しなくてはならないという論調が幅を利かせ、怪獣災害で破壊された街の復興よりも環境保護を訴えるデモ行進の方がニュースになる始末であった。


自然保護団体は喚き散らし、バカな政治家はセクシーにプラスチック規制法案を提案し、いつかのように経済がガタガタになりつつあった頃、横浜は天馬重工ではこの事件のウラが明かされようとしていた。


『痛いカメ〜〜苦しいカメカメ〜〜』


事務所のパソコンでは、ジエイガーのカメラに記録されたガメロンの映像が流れている。

これに、様々な角度から解析をかけ、分析。

して、結果は。


「これ、声じゃない」

「ガメロンが喋っているワケじゃないって事?」

「うん、これはスピーカー越しの音声だよ」


ガメロンの化けの皮を剥がしたのは、キムや猿田と同じく天馬重工で働いている「花芽知環奈」。

メガネにお下げの地味な女性だが、キモラス事件にも関わった田丸博士の教え子でもあり、怪獣生物学に関しては天才的な才能を持つ才女だ。


………最も、コミュ障が故にこんな中小企業で燻ってはいるが。


彼女は今、ガメロンの声を再生していた。

ガメロンが喋っているように聞こえたその声は、音の波長から声帯ではなく、スピーカー越しの声である事が明らかになった。


「それに動きも変だよ、ああいう生き物って言うよりは、むしろ……」

「むしろ?」


ここには、専用の機材も施設もない。

けれど、田丸博士の元で培った環奈の観察眼は、あの自然破壊の犠牲者を騙るガメロンの正体を、瞬く間に導き出した。


「あれは、多分メカだ……カメだけに」



***



「なんとも杜撰なシナリオね」


防衛省に出向いていた律子は、以前よりパイプのあった鈴木から渡された調査報告書を見てため息をついた。

そこには、かの怪獣ガメロスを多角的に調査した上で、それが生物でない事を示す結果が記されていた。

彼等もまた、あれが人為的に作られ、仕向けられた怪獣ロボである事にたどり着いていたのだ。


………まあ、誰が仕向けたかは律子にも大方の予想はついているが。


「政府はこの事を、何者かのテロとして正式に発表する予定ですが……国民が信じてくれるかどうか」

「無理でしょうねぇ。何せ世論は『愚かな人間の自然破壊がガメロンを生んだ』の一色ですし、そもそもあの怪獣が本当に自然破壊の被害者だとしても、日本だけに責任を押し付けるのはどうかと思うわ」


外務省にいる事もそうだが、インテリである律子だから、日本がどれだけ自然破壊を抑えているかは知っている。

そして、これ以上抑えれば経済破綻にもなりかねない事も。


「とにかく、やれるだけの事はやりましょうか」


そうでなかったとしても、ロボ怪獣を使ってテロを仕掛けてくる相手の要求など、たとえエコな主張だとしても受け入れるつもりはない。

法治国家として、それは許されないからだ。


「ええ、お願いします」

「ふふん、まっかせなさい」


鈴木との話を終え、律子は防衛省を後にする。

その際、何故か自分の尻をパァン!と叩いたのだが、鈴木にはそれが気合を入れる行為である事は解らなかった。

防衛省を出た律子は、目立たない通路に止めていた自身の車に乗り込む。

出来る限り、あのガメロンの真実について広める為だ。

だが、レバーを引こうとした、その時。


「まったく、日本の官僚は嗅ぎ回るのが得意だな」

「ッ!?」


突如聴こえた、見知らぬ大人の声。

それと同時に、レバーを引こうとした律子の手が、何者かに掴まれる感触が走る。

やがて、カメレオンのように風景に溶け込んでいたそいつは、車の助手席に座っていたその姿を現す。


「………現れたわね、カラスマ」

「知っていたとは、私も有名になったものだ」


カラスマは、律子が持っていた資料の通りの姿をしていた。

ただ至近が故に感じる、その深海よりも冷たい殺気は、写真で見るのとは比べ物にならない。


「光学迷彩ね、どこで手に入れたのかしら?」

「アメリカの混乱に乗じてな。愚かな科学の産物だが、この通り活用させて貰っているよ」

「……こそドロめ」


カラスマに侮蔑の表情を向けつつ、律子は周囲に気をやる。

わざわざ人通りの少ない通路に停めたのが仇となったか、恐らくカラスマの仲間と思われる気配を数名感じた。


「興味本位だけど聞かせて頂戴、あなたの目的は何?何の目的であのガメロンを日本に差し向けたの」

「決まっているだろう?この国、日本の破滅だ」

「本気で言ってんなら、正気じゃないわよ、アンタ」

「ああ、勿論だ。私は狂っているからな」


自覚があるのか、それとも演技のつもりかは解らない。

が、どの道彼が狂人である事には変わらないだろう。


そも、カラスマという偽名も、世界的に有名な児童文学小説「ホロウアース」の主人公である生物学者兼冒険家・芹沢博士から取った物だ。

古代の浪漫を追い求め未知の世界を冒険するヒーローの名前を騙り、何人もの人々を殺すような奴が、まともなワケがない。


「考えてもみろ、人類が文明を手にし、科学に倒錯してから何をしてきた?自然を破壊し、汚染を広げ、自分達の生活圏を守る為に他の生命を殺す。挙句の果てには同族同士で殺し合い、結果更に自然を壊し、ついにはキモラスやデスビッチのような怪獣を呼び覚ました………どこまでも醜く、欲深く、愚かで汚い。挙げ句それすら自覚しようとしない白痴な種族、それが人間だ。滅ぼすに値するよ」

「……随分、テンプレート通りの台詞を言うのね」


カラスマに握られた手とは逆の手を、気づかれないように車のシートの下に伸ばす律子。

彼女も立場が立場だし、そもそも家系が家系故に、こういった事態の対策は心得ている。


「悪いけれど、この国を貴方達の勝手な贖罪に巻き込ませるつもりは……」


シートの下に隠した拳銃を掴み、それを勢いよく引き抜くと、律子はそれをカラスマに突きつける。


「無い!」


国を護る者として、この男は生かしてはおけぬ。律子はそう判断すると、躊躇なくカラスマに向けて発砲……する、ハズだった。


バスンッ!


律子が引き金を引くより早く、彼女の下腹部に衝撃が走る。

見れば、カラスマの手の中には拳銃サイズの針撃銃……弾丸の代わりに麻酔針を撃ち出す、小型麻酔銃が。


(しまった!麻酔……!)


途端に、律子の全身が痺れ始める。

それはやがて強烈な眠気に変わり、彼女の視界と意識を遠くさせる。


「貴様のような、婚約者の立場を利用して未成年と陰交するような小児性愛者など、本来なら今すぐにでも殺してやりたいが、今は利用されてもらおう。我々の役に立つ事で、せいぜい己の罪を償うがいい……ミス・リツコ・カノコ」


こいつ、そんな所まで知ってるのか。

と、ドン引きしつつのツッコミを心中でしつつ、律子は意識を手放した。

……こんな事もあろうかと仕込んでおいた、緊急手段を起動させて。



***



ガメロン出現より二日。

大阪湾に去っていったガメロンは、あれ以来姿を眩ませたまま音沙汰なしだ。


天馬重工では、既に次の戦闘に備えて、ジエイガーの整備が進められていた。

いつものようにパーツの調達に苦労しつつも、ようやく戦える程度にはなった頃、自衛隊の鈴木虎太郎が天馬重工を訪れた。


「律子さんが誘拐された?!」


修一は鈴木から聞かされた事実に驚く。

曰く、律子とは昨日から連絡が取れなくなり、不審に思った鈴木が調査を始めようとした所、犯行声明が防衛省に送られてきたという。


「えぇ、しかも犯人はカラスマと名乗っておりまして」

「カラスマって、あのエコテロリストの?」

「そのカラスマです」


鈴木は、電子データとして防衛省に送られた犯行声明を、自身のスマホの画面から見せる。

そこには、どこかの一室にてパイプ椅子に拘束されて眠っている律子の姿。

そして、カラスマからの物と思われる犯行声明文が添付されていた。

そこには、こう記されていた。


『私は、君達がエコテロリストと呼ぶ者達の一人だ。』

『自衛隊、及び天馬重工の、愚かにも自然からの裁きたる怪獣を殺し続けている愚かな人間に告ぐ』

『君達の同志である鹿ノ子律子女史の身柄は預かった。返してもらいたければ、私達の要求に従って貰いたい。要求は二つ。一つ、君達が保有している、対怪獣兵器・ジエイガーの放棄、もしくは凍結。もう一つは、以降の怪獣災害に対する一切の反撃の禁止だ』

『我々も鬼ではない、一週間のみ執行猶予をやろう。ただしその間ジエイガーや自衛隊を動かしたり、我々の要求を飲めない場合は、鹿ノ子女史の命はない』

『愚かな日本人よ、審判の時だ。大いなる巨神たる怪獣によって滅ぼされるがいい。カラスマ。』


以上が、犯行声明文の内容である。


「そんな……律子さんが……そんな……そんな…………!」


この文章を見た瞬間、天馬重工一同はもちろんの事、まるでこの世の終わりかのように、修一は絶句した。


「テロリストごときが裁定者のつもりか!調子に乗りおって!」


人質を取るという卑怯なやり方と、それでいてあたかも自分達が正義のように振る舞うカラスマのやり口に、怒りを露にする猿田。


「でも……これでハッキリしましたね」

「うん、今回の事件の黒幕は、そのカラスマっていうエコテロリストだね」


キムと環奈も憤りを感じつつ、状況から冷静に推理する。

タイミングを見ても、ガメロンを巡る一連の騒動の裏にカラスマ率いるエコテロリスト達がいるのは確定だろう。


「だったら、だったら律子さんを助けないと!でも、どこに………!」

「落ち着いてください若。焦った所でどうなるわけでもないし、そもそも私達は警察じゃないんですよ?」

「それは……そうだけど……!」


確かにそうだ。

ましてや相手が国際的に名の知れたテロ組織。

一市民に過ぎない自分達が警察に頼らずに動くのは無理がある。

しかし修一からすれば、それでも黙っている事などできなかった。


「僕だって……僕だって律子さんの婚約者なんだ……!それなのに……僕は……何もできないなんて……!」

「気持ちは分かりますけどねぇ……」


悔しさで拳を握る修一に、キムはため息をつく。

実際、彼らには打つ手はない………かに、思われた。


「あの、実はその事で話があるんです」


そこに割って入ったのは、他ならぬ鈴木。

今にも泣きそうな修一に対し、鈴木が出した情報は……。


「鹿ノ子さんは、ある手がかりを残しています。それを辿れば、囚われている場所が解るハズです」

「なんだって!?」


驚き、身を乗り出す修一。

律子が残した手がかり、それは………。



***



約3時間後。

新幹線を乗り継いで、修一と鈴木は、ある場所へと向かっていた。

その場所は、東京から遥か離れて神戸。

ガメロンが初めて現れた大阪に近い、港町である。


「ここが、その、律子さんが残してくれた手がかりの場所なんですか?」

「えぇ、間違いありません」


鈴木の案内の元たどり着いた場所は、港の一角にある倉庫街であった。

時刻は既に夕方を過ぎて夜が近づいており、周囲には人気がない。

そこで修一が取り出したのは、古ぼけた小さなラジオ。

乾電池式のそれを起動すると、修一は周波数をあるナンバーに従い、合わせる。

すると……。


『Dvarapala……RauUpala……Prithvi……』


ノイズの混ざった歌が、ラジオから流れてくる。


「よし!ビンゴだ!」


修一と鈴木は、ラジオから流れてくる歌を頼りに、より強くはっきりと聞こえる=発信元の電波が強い場所を目指して進む。

そして、遂に見つけた。


「あそこだ!」


修一と鈴木が見たのは、倉庫街に立つビル。

電波は、そこから発せられていた。


「さあ、行きましょう」

「待ってください」


早速乗り込もうとした時、修一が鈴木を静止した。


「二人同時に乗り込むのは危険です。鈴木さんは、万が一僕が戻らなかった時のために、ここで待機していて下さい。もし何かあったら連絡します」

「一人で行くと言うのか!?危険すぎる!」

「僕だって、ジエイガーのパイロットです!」


そう言うと修一は、制止を振り切り、単身でビルの中へ入っていった。

持ってきた荷物の中にある、エンジンカッターを手に持って。


「ちょっと!………ああ、行っちゃった」


ぽつんと一人、ビルの外に取り残された鈴木。

その時、彼のスマホに着信が入る。

着信は、自衛隊からだった。


「ハイもしもし………えっ!?神戸にガメロンが上陸!?」



***



その部屋には、当然ながら今拘束されている律子以外に何もない。

殺風景なコンクリートの部屋に、窓すらない。

唯一ある扉は、厳重にロックされており、外から鍵がかけられている。

当然、その扉を開ける手段もない。

つまり、律子は軟禁されていた。


「…………上手く動いてくれてるようね」


律子は、なんとか奴等に押収されずに住んだ自身の携帯から僅かに聞こえる歌を聞き、緊急手段が無事発動した事に気づく。


実は、律子は生まれてから体内に特殊なナノマシンを注入されていた。

別にミュータントになるワケではなく、緊急時のSOS信号を発する為の物。

これは、彼女の思考に反応し、彼女の身に何か起きた場合……今回のように拘束される、誘拐されるといった場合に、ラジオ等で拾う事のできる周波数で、音楽を流し続けるのだ。


アメリカから流出した最新装備で武装したテロリスト達であるが故に、アナログなラジオの周波数で放たれるSOS信号には気づかなかったようだ。

彼女を置いて、どこかへと消えたらしい。

恐らく、またあのガメロンを動かそうとしているのだと察した律子は、自身を縛る拘束をなんとか外そうとする。

しかし……。


「……やっぱり駄目かぁ……」


やはりというべきか、両手両足を縛られており、立ち上がる事すら出来ない。

丸一日以上シャワーも浴びれていないせいで汗臭い匂いがする中、彼女はただひたすら、助けが来る事を祈るしかなかった。

助けを待つ最中、律子はカラスマに言われたある言葉を思い出していた。


『貴様のような、婚約者の立場を利用して未成年と陰交するような小児性愛者など、本来なら今すぐにでも殺してやりたいが……』


言われなくとも、自分のやっている事が倫理的にタブーなのはわかっている。

子供と身体を重ねている自分が狂っているという自覚もある。


「………知ってるわよ、自分が子供に股開くような死んでもいい人間だってぐらい」


だが、それでも求めてしまうのだ。

母親を亡くし、父親からは道具とされ、愛情を求めている、性欲を持て余した思春期の少年。

30の寂しい身体を持て余し、そんな少年に母性を感じてしまう女。

法治国家の官僚としてはアウトであるが、誰にも迷惑をかけず、互いに寂しさを感じる者同士が求め合う事の何が悪いのだろうか?


それに、法や秩序や倫理の話は置いておいて、そもそもテロリストが常識を語るな。と、どうしても律子は思ってしまう。

その時。


………がぎゃっ!ギギギギギギッ!


突如、律子の眼前のドアから火花が散った。

電子ロックのかかった扉が、外側からエンジンカッターによって切断されたのだ。

そしてロックが破壊された扉を蹴破り、その小さな助けが現れる。


「大丈夫ですか!?鹿ノ子さん!」

「シュウくん……」


現れたのは、エンジンカッターを片手に持った修一。

彼は、急いで律子に駆け寄ると、縛る縄を持っていたナイフで切る。

縄自体は特に何の仕掛けもされておらず、あっさりと解けた。


「あなた……意外と大胆なのね」


開放された律子は、まさか修一がエンジンカッター片手にドアを蹴破るようなワイルドな事をするキャラとは思っていなかった為に、少し驚いていた。


「律子さん……ああ、無事だ、よかった………」


そして、自身の無事を確認して半泣きで安心している修一の顔を見て、思わずドキッとする。


(ふふ……やっぱり甘えん坊さんなのね)


たしかにワイルドな所もあるが、それでいて、そんな母性を刺激するような所が、律子も好きだった。

修一に対して改めて惚れ直していたその時、律子が拘束されていた部屋の壁が突然爆発。

瓦礫と共に巨大な腕が、部屋の中に飛び込んでくる。


「きゃあっ!?」

「律子さん!!」


感動の再開も束の間。

いきなり壁を突き破られたかと思うと、今度は巨大な鉄の腕が律子を捕らえ、持ち去ってしまった。


『痛いカメ〜苦しいカメカメ〜』

「ガメロン……!!」


律子は、自身を掴む腕の向こうから聴こえた、もはや白々しい怨嗟の声を聞き、その腕の主があのハリボテ怪獣・ガメロンである事を知る。

おそらく、律子を奪還される事に感づいたカラスマ一派が、差し向けたのだろう。


「律子さん……!」


再び、律子を奪われて狼狽える修一。

その時、念の為に持ってきた通信機から、鈴木の声が響く。


『聞こえるか修一君!』

「鈴木さん!」

『今猿田さんから連絡が入った!ジエイガーを出撃させたって!』

「なんだって!?」


驚く修一。


『なんでも、人質を助けたならもう奴等に従うつもりはないって!』


おそらく、猿田は律子が再び捕まってしまった事を知らなかったのだろう。

だが、今の状況から見るに、これはナイスな判断だ。


「今からマーカーを出します!そこの側に投下するようお願いします!」

『解った、報告しておく!』


通信が切られると共に、修一はポケットから一本のスティックを取り出した。

これは、自衛隊で使われている、支援部隊等に自分の位置を知らせるマーカーだ。

修一はそれを頭上に掲げると、それを起動する。


「来い!ジエイガーッ!!」


気合を入れるため、ヒーロー物を真似して叫ぶ。

赤い光と共に赤外線が発せられ、修一のいるビルの眼前向けて、上空に待機していたその巨体が落下してくる。


『ジエイガー、着陸いたします』


ズドォォン!!


轟音。振動。

ガメロンの手の中にいた律子も、自身の眼前に土埃を立てて降り立つ、その巨体を見た。

でっかい図体キメてる、メガトン級の対怪獣ロボット。

ジエイガーが、今度は神戸を舞台に再びガメロンと相まみえる。


「ッ!!」


既にコックピットに座る修一の判断は早かった。

間髪入れず、ジエイガーは律子を捉えたガメロンの手を、バシィッ!と蹴り上げた。


「うわっ……!!」


ガメロンの手を離れ、天高く飛び上がる律子。

そして落下してきた所をジエイガーがすかさずキャッチし、自らのコックピットに招き入れた。


「律子さん!」

「シュウくん!」


ジエイガーのコックピット内で、二度目の再開を果たす二人。

修一は、律子の無事を確認すると、ホッとした表情を見せた。

さて、律子はもう奪還した。

なら、もう眼前のガメロンに対して容赦してやる必要はない。


「こいつ、今までよくも……!」


ましてや、律子を誘拐した相手には容赦する必要もない。

修一が怒りのままにジエイガーを突撃させようとした、その時。


「待ってシュウくん!」


それに待ったをかけたのは、他ならぬ律子。


「律子さん!どうして止めるんです!?」

「怒りのまま拳を振るってはダメよ、それも奴等の作戦なんだから!」


律子の言う通りだ。

現にガメロンは、自然破壊による犠牲者を騙って出現し、世間を味方につけた。

そのガメロンをジエイガーが怒りのまま叩き潰してしまえば、ジエイガーは余計に世間からの反感に晒される。

そうなってしまえば奴らの思う壺。

律子の言葉を聞いて、修一も冷静になった。


「でも、どうしたら……」

「そうねぇ……」


しかし、ガメロンを放ってはおけないのもまた事実。

律子は考えた後、先日の修一とのデートを思い出し、ある答えにたどり着く。


「そうだわ、プロレスよ!」

「え!?」

「プロレスをすればいいの、ヒーローステージみたいな感じで、ね?」

「……なるほど!」


律子の提案に、修一間をおいて納得。

要するに、ジエイガーがこのままガメロンを叩きのめせば、それはそれで世論から叩かれるだろう。

だが、こちらが正しいように演出し、なおかつガメロンの本性を暴き、その上でカッコよく倒す。

そうすれば、あの考えの浅い世間の連中だ。すぐに目を覚ますハズである。


「よし……じゃあ!」


修一が操縦桿を握る。

心を落ち着け、ジエイガーをガメロンに突撃させる!

バシィッ!!

ジエイガーの拳が、ガメロンの頭を殴りつける。


『痛いカメ〜苦しいカメカメ〜』

「こいつまだ言うか!」


それが助けを呼ぶ声でなく、スピーカーから再生されるだけの音声である事は、もう修一には解っていた。

故に容赦せず、それこそプロレスのようにガメロンに何発もチョップを叩きつける。


「やめろぉ!野蛮な殺戮兵器め!」


そこに飛ぶ、何時ものような市民団体からの罵声。


「出たな怪獣殺しのジエイガー!」

「愚か人間の代表!人類の恥め!」

「科学の暴走が生んだ殺戮マシーン!」

「正義の心振りかざして牙を向くヤツ!」

「人類には過ぎた力!早すぎる力!」

「地球を守る為なら何をしてもいいんですか!」

「これだから人間は!愚かなり地球人類!!」


何処かで聞いたような、バカの一つ覚えのようなフレーズをこれでもか!とぶつけられるジエイガー。

いつもなら、守るべき相手から飛ばされる、平和ボケの極みである罵声に心を痛めていた修一だが、既に彼等の罵倒など気にも留めない。


見れば、報道ヘリも飛んできていた。恐らくいつものネガティブキャンペーンが目的だろう。

だが、プロレスをやるには、ギャラリーがここまで集まった今、絶好のチャンスである。


「よし、マイクパフォーマンスだ!」


修一は、ジエイガーの外部スピーカーを起動。

市民団体や報道ヘリに向け、大声で叫んだ!


『うるさいぞおっ!!黙って聞いてりゃ好き放題言いやがってぇ!!この平和ボケカルト共がぁ!!』


ジエイガーの叫びに、一瞬静まり返る市民達。

まさか、言い換えしてくるとは思っていなかったから。

そして、修一は続ける。


『それともお前達は……まだこいつが自然破壊の犠牲者の可哀想なカメに見えるのか!?』

「何!?」


そう言うと修一は、ジエイガーの剛腕でガメロンの上半身に掴みかかる。

その、ガメロンを包む化けの皮は耐火性こそあったが耐久力はそこまで無かったらしく、ブチブチブチッ!!と音を立てて引き千切られてゆく。


『痛いカメ〜苦しいカメカメ〜』

『これが自然破壊による犠牲者の姿だって言うんなら……!』


ガメロンの悲鳴を無視し、ジエイガーは更に強く握り締めた。


『お前ら眼科いけぇ!!』


やがて、ガメロンの上半身……もとい、上半身部分を覆っていた化けの皮、つまり外装が剥がれ落ちる。


「アレは……ロボット!?」

「ガメロンは生き物じゃなかったのか!」

「なんてこった!俺達騙されていたのか?!」


現れたのは、やはりと言うべきか、無骨な巨大ロボットだった。

挿絵(By みてみん)

ガメロンの頭があった場所にはカメラがあり、その上には発音スピーカー。

律子を捕らえた右腕はハサミ状のアームに、左腕には銃口のような筒。

全身至る所に錆があり、それがいかに古い機体であるかを物語る。


「あれは……クレンジゴン!?」

「クレンジゴンって、あの巨大クレーン!?」


そして修一は、そのロボット……「クレンジゴン」の事を知っていた。

クレンジゴンは、かの超巨大重機バケットホイールエクスカベーターの流れを組む機体として開発が進んでいた超巨大クレーンであり、ジエイガーのベースと同じく、ヒト二足歩行型クレーンとしてこの世に生まれ落ちた。


たしかにパット見は二足歩行を実現したロボットに見えるが、その実態は足の裏に付けられた履帯によってブリキのおもちゃのようにすり足での二足歩行に見せているだけの代物だ。

結局、コストばかりがかかるだけで使い道が見つからずプロトジエイガー=ヒト型クレーン一号と同じく開発は中断された。

制作会社が倒産したと同時に行方が解らなくなっていたが、まさかテロリストに使われていたとは……。


「これで化けの皮は剥がれたな!覚悟しろよ……!」


化けの皮も、同情の後ろ盾も失ったクレンジゴンは、もはやジエイガーに叩き潰されるサンドバッグでしかない。

今のジエイガーの性能でも、単なるクレーンの粋を出ないクレンジゴンを叩き潰す事など、赤子の手を捻るようなものだ。


「行くぞ!ジエイガー!!」


修一の指令を受け、ジエイガーはクレンジゴンに向けて突進する! だがその時、思わぬ事態が起きた!


「……ええっ!?」


ゴウウッ!と、突然クレンジゴンの巨体が空に舞い上がった。

無論、あくまでクレーンであるクレンジゴンにそんな機能はついていない。

だが、クレンジゴンの背中には左手の銃口のように追加されたバックパックがあった。

恐らくテロリスト達の手により追加されたのであろうそれは、巨大なロケットブースターのようなもので、クレンジゴンはそのロケットを点火し、空を飛んだのである。


「あいつ、空まで飛べるのか?!」


ジエイガーがいくら強くとも、相手が飛べば話は別だ。

ジエイガーに飛行能力はなく、そのままクレンジゴンが悠々と空に逃げ去る様を眺める事しか出来ない。


「………なんて、ね!」


……というワケではない。

飛び去ろうとするクレンジゴンに対し、ジエイガーは右手を構える。


「裏コード発動!ナンバー、LM314V21!」

『アンリミテッドモードに移行します』


音声入力と基盤の操作により、ジエイガーに隠された文字通りの「奥の手」が起動する。

本来、猿田が「最後の手段」としてジエイガーに搭載した武装であるが、正義とされていた怪獣ガメロンの真実が露呈し、なおかつこれだけギャラリーの見つめる中、今以上の使い時はないだろう。


逃走する目標クレンジゴンを、照準センターに入れて、スイッチ。

ジエイガーに隠された秘密兵器が、ついに起動した!


「飛ばせ鉄拳ッ!ショットナックル!!」


ジエイガーの右腕の保護カバーがブチブチと破れ、分離した右腕前腕部がまるで弾道ミサイルのようにジェットを吹いて射出される。

これが、ジエイガーの文字通りの「奥の手」こと「ショットナックル」。

………身も蓋もない事を言うと、スーパーロボット伝統と浪漫の所謂ロケットパンチである。


「いけぇぇぇぇええーーーッッ!!」


今までのフラストレーションを全力で吐き出すような修一の叫びに答え、発射されたミサイルのような右前腕部は、真っ直ぐ飛んでゆく!

そして、クレンジゴンにボグシャアッ!!と命中!


『ガガガガガガ!カメメメメメ!!』


クレンジゴンは、ジエイガーの特殊合金の右腕に貫かれ、まるで断末魔のように狂った録音音声を撒き散らす。


『破壊破壊破壊破壊破壊!苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい……』


胴体に大穴の開いたクレンジゴンは、そのまま火花を散らしながら落下。

その先には、神戸の海が広がっている。

ざばぁん!!

クレンジゴンはそのまま海に墜落。

派手な水柱を上げて海中に沈んでいった。

そして、しばらくするとクレンジゴンの動力炉とジェットエンジンが爆発を起こし、ズドゴォォン!!と、海底火山のような大噴火を引き起こした。


「やった……!」


修一は、ガッツポーズを決める。

律子も、勝利を確信し笑みを浮かべる。

彼等は、勝ったのだ。



***



やがて、夜は開けて朝日が登る。

朝焼けに照らされた神戸は、ジエイガーの奮戦により倉庫街以外の被害はほぼ無かった。

結果的に一晩を戦い抜いたワケだが、ジエイガーはまだ帰るワケにはいかない。


ショットナックルによって飛んでいった右腕もそうだが、神戸港に沈んだクレンジゴンの引き上げ作業も手伝わなくてはならない。

後始末もちゃんとしてこそ、一流のヒーローなのだ。


「……綺麗、ですね」


しかし今は、一先ずの一息。

ジエイガーの肩に乗る修一は、律子と共に夜明けの神戸を眺めていた。


「ええ。……私達の守った光景よ」

「そうですね」


修一は、しみじみと呟く。


「……これで、ようやく終わったんですね」

「ええ、今回の事件はね」


律子は、微笑む。


「…………ふふっ」

「どうしたの?律子さん」

「ねえ、シュウくん」

「はい?」

「これって、なんだか映画のラストシーンみたいじゃない?」


突然何を言い出すのか?ときょとんとする修一。

そこに、隙あり!と、律子は修一の唇に自分のそれをちゅむっ、と重ねた。


「!?り、りつこさ……」

「ふふっ、こういう時はキスシーンで〆る物でしょう?」

「もう………っ」


イタズラっぽく笑う律子に怒る修一だが、その表情も満更でもないように見えなくもない。

そんな二人を祝福するように、空では鳥達が鳴いていた。







『……の事件では、国際指名手配されている過激派エコテロリストのカラスマが関与しているという情報があり、現在警察ではカラスマの行方を捜索しつつ、潜伏中の怪獣がいないか調査しております』

『それでは次のニュースです』

『南極深海にて、氷漬けにされたミティサウルスの死体が発見されました。調査によりますと、この個体は妊娠しており……』





おわり

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