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幽霊事件から数日後、修行も残すところあと3日となった。
毎日の日課である、瞑想は30分は雑念無く行うことができるようになった。
後ろで見守るヴィクトルもなぜか、瞑想の達人になりつつある。
滝行も5分間を3セット行うことができるようになった。
ヴィクトルの補助付きではあるが。
今日もヴィクトルに両手を掴んで向かい合って滝に打たれていた。
はじめは気恥ずかしかったが、瞑想を極めた今は滝に当たっている間はヴィクトルの気配を忘れ無になることができた。
泉の畔で休憩しているときは水着ということもあり気恥ずかしさを感じてしまうが頑張って平静を装うのが大変だ。
ちらりと横を見れば、水に濡れたヴィクトルの金色の髪の毛が太陽に当たってキラキラと輝いており艶めかしい。
「もっと良く拭かないと風邪ひくよ」
シーラの手からタオルを奪い取って、シーラの濡れた髪の毛をヴィクトルが拭いていく。
毎日、シーラの髪の毛を拭いてくれる。
ヴィクトルに髪の毛を拭かれている時もシーラが好きな時間だった。
そんな毎日が後少しで終わってしまうのかと残念になってしまう。
「あーヴィクトル副隊長のエッチー!」
二人だけの空間に、第三者の声に振り返ると馬に乗っているハルの姿。
ハルは、私服の上にかぶっていたフードを取りながらヴィクトルを指さしている。
「いくら、婚約者とはいえあんまりエッチなことしたらダメですよ。めっちゃいい感じじゃないですかお二人」
馬から飛び降りて言うハルに二人は顔を赤くしてバッと離れた。
「エッチなことなんてなんにもしてないけど」
しどろもどろに言うヴィクトルを無視して、ハルは首を回してシーラの隣に腰を降ろした。
「疲れましたよー、城を出てここまで来るのに尾行居ないか確認しながら来たんですから。
ほめてください」
ハルの顔があまりにも可愛らしく、思わず可愛いという言葉を言いそうになりシーラは一呼吸する。
「本当に、誰にもつけられてないんだろうな」
「まぁ、つけてこられてもお二人の様子を見に来ただけって思われるだけですけどね。はい、これをお届けに来ました」
ハルは、二人に豪華な封筒に入った手紙をそれぞれに手渡した。
「舞踏会のお誘いです」
「舞踏会~?」
王室の舞踏会のお誘いなど受けたことがないシーラは震える手で封筒を開いた。
確かに、招待状だ。
「なんでまた・・・しかも、明後日じゃないか」
「はい、前から決まっていたんですけど王様が体調不良で急遽欠席されるそうで。
第二王妃が主催に変わったんですよ。王太子は出るそうですけど、副隊長の姉君は体調不良で欠席予定です。で、姫様も出る予定なので、念のためにシーラさんも出てほしいと。もしかしたら、姫様の後ろの霊がまたなんか教えてくれるかもしれませんしね」
「なるほど、で、なんで俺も?警備じゃダメなのか?」
「シーラさんをエスコートしてくださいよ。婚約者として」
「・・・・・俺がエスコートしたら婚約確定してしまうんじゃないのか?シーラには良くない噂が立ってしまうかもしれないじゃないか」
心配そうなヴィクトルにハルは冷たい視線を向ける。
「だから気が利かない人ねって裏で女性たちに言われるんですよ」
「俺はそんな風に言われていたのか?」
ショックを受けているヴィクトルにハルは頷いてシーラに向き合った。
「もしこの縁談がダメになってもちゃんと王太子がいい縁談を用意してくれるらしいのでご心配には及ばないってことでしたので安心して今回は、ヴィクトル副隊長にエスコートされてください」
「はい。でも王室主催の舞踏会用のドレスがありません」
頭の中で持っているドレスを思い出すが、王室主催のパーティーにいくドレスなどない。
後三日しかない状態でドレスを仕立てるのは無理だと青ざめるシーラにハルは天使のような笑みを浮かべる。
「それなら大丈夫です。王太子が仕立ててくれるそうです。細かいサイズ調整は戻ってからになりますけど」
「そんな恐れ多いです」
「姫様を毒から救った報酬って考えれば安いものじゃないの」
「確かに、シーラ貰っておいて損はないぞ」
ヴィクトルとハルに言われてドレスの当てもないしとシーラは頷いた。
私ではなく霊のおかげなんだけどと、困惑したがありがたくドレスは頂くことに決めた。
「しかし、第二王妃が出てきたか」
呟くヴィクトルにシーラは首をかしげる。
「第二王妃はカロリーネ様ですよね。何か問題でもあるんですか?」
王太子と姫様は第一王妃のお子様で、その母である第一王妃が8年ほど前に亡くなった。
その3年後他国より、第二王妃という形で新しい王妃が嫁いできたのだ。
そしてすぐに、王子が誕生した。
姫様達とは腹違いではあるが仲は良好だと聞いている。
「問題大ありだよねー」
ハルは腕を組んで空を見上げる。
「シーラさんだから言うけどさぁ。僕が思うに姫様達に毒入れたの第二王妃であるカロリーネ様じゃない?」
「えぇぇぇぇ?」
まさかの毒殺を狙っているのは王妃様?と驚くシーラにヴィクトルもうなずいた。
「誰でもそう思うよな。俺もそう思っていた」
「スパイが居るか分からないから言えないよねぇ。でもみんなそう思っているよね」
「スパイ?しかも、なんで第二王妃様が毒なんて・・・。ドロドロの王家の争いみたいですね」
二人ともシーラの言葉にうなずいた。
「まさにその王家の争いが行われているんだよねぇ。絶対、カロリーネ王妃自分の子供を王太子にしたいんだよね」
「でも、まだ5歳ぐらいじゃありませんでした?」
「甘いよ、シーラさん。ジュリウス殿下は第一王位継承者で、カロリーネ王妃のお子様は4歳だけど第二王位継承者。一番上を殺せば自分の子供が王位を継ぐんだよ。早めに安心したいんじゃない?自分の血を引く者が王位に就けるように」
ハルは王位争いって怖いよねーと言いながらブーツを脱いで泉に足を入れた。
「うわっ、結構冷たいねぇ。シーラさん頑張ってるね。しかもあの滝に打たれているんでしょ。
結構水量多いし・・・僕、あの滝の中入れないもん」
頑張っていると褒められてシーラはうれしくなった。
「ありがとうございます。滝はやっぱり一人だと水量がすごくて立っているのが辛いので、ヴィクトル様に支えてもらってますけど・・・」
「へぇ・・・・支えているんだ・・・」
横目で見られてヴィクトルは両手を振った。
「変な目で見てないぞ俺は、シーラの水着姿とか・・・・」
「絶対いやらしい目で見ていますよね、ヴィクトル副隊長のエッチ」
「お前なぁ、舞踏会には出席するってことで。お前もう帰れ」
犬を追い払うようにシッシッと手で追い払うようなヴィクトルにハルはにっこりと笑ってその手を取って握り締めた。
「可愛い部下が訪ねてきたのにすぐ返すなんて酷いですよぉ。今晩は一晩お世話になりますね。
部屋もいっぱいありそうだったし。ヘレナさんのおいしいお菓子も食べてみたいし、フーゴさんのハーブティーも飲んでみたいし。よろしくお願いしまーす」
そう言って可愛く頭を下げた。
「だめだ、帰れ!」
なんとしても泊まらせたくないヴィクトルにシーラは笑いをこらえるのが辛かった。
きっと、彼は幽霊が怖いことを知られたくないのだ。
幽霊騒動からヴィクトルは毎晩、フーゴと一緒の部屋で寝ている。
そのおかげで彼が悲鳴を上げることは無いが、霊が出たかどうか毎朝シーラに確認をするあたりかなりの恐怖なのだろう。
もし、ハルが泊まればフーゴと一緒に寝れないだろうし幽霊を怖がっているのがバレて恥ずかしいのだろう。
「僕は絶対に帰りません!館に帰ります!行きましょうシーラさん」
ハルに手を掴まれて、立たされる。
ぐいぐいとハルの馬の所に連れていかれるシーラを慌ててヴィクトルが追いかけてきた。
「待て待て、わかった!今晩は泊まっていいから」
「早くそういえばいいんですよ」
そう言ってパッとシーラの手をハルは放した。
「じゃ、帰りましょうか。ヴィクトル副隊長は婚約者のシーラさんと同じ馬にどうぞ」
「えっ?何だったんですか?今のは」
ハルの馬に乗せられて帰るのかと思ったが、もう乗せてくれる気配すらない。
「何でもない」
珍しく不機嫌なヴィクトルの馬に乗ってシーラは館へと帰った。