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修行をし始めてから1週間が経過した。


午前中は瞑想をし、午後は滝行をする。

1週間もすればだいぶ慣れ、滝行は5分は無理でもそれなりに入ることはできるようにはなった。

ただ、ヴィクトルに支えてもらわないと立っていることはできない状態ではあるが。


ヴィクトルのような王子様みたいな人と向かい合わせで手を繋いでそばに居られる滝行はシーラにとっては一日で一番好きな時間だった。


そして滝行の後は館に帰って、お菓子作りが得意なヘレナのケーキを食べるのが毎日の日課だ。



「今日もお疲れさまでした」


ふくよかな体型のヘレナがニコニコと笑いながら午後のお茶を出してくれる。


「ありがとうございます。わぁ、このケーキ可愛いですね!」


白いふかふかのスポンジに白い生クリーム、その上にバラの花びらが散らされていた。


「食べられるバラなんですのよ。今日はお茶にも浮かべてみました」


紅茶を見ると何枚かの花弁が浮いており素敵と感動しているシーラにヴィクトルは首をかしげる。


「花を食べるのが素敵ねぇ・・・」

「ロマンチックじゃないですか」


「そのロマンスが坊ちゃまにはわからないんですよ」


ケーキを出しながら言うヘレナにヴィクトルがばつの悪い顔をする。


「ロマンスねぇ・・。俺が一番嫌いな言葉だな。姉上からもロマンスやらなんやらうるさく言われたけど結局よくわからんまま終わったな」


「坊ちゃま、まだ終わっておりませんわよ。女性を喜ばせるにはロマンスは必要ですわよ。でないと飽きられて振られますわよ」


「わかったわかった、ヘレナも姉上も言いたいことはわかるけど、俺にはできないよ」


「まったく、坊ちゃまは・・・。シーラ様もこんなロマンスの欠片もない方でも愛想を尽かさないでくださいませね」


話を振られたシーラは婚約者候補と言っても、演技なんですとも言えず困惑しながら首を振る。


「ウチの父も兄も、ロマンスの欠片もないので男の方はみんなそうなんじゃないんですかね」


「・・・・そうでもないな」


ヴィクトルが浮いているバラをスプーンですくい取ってお皿に排除しながら言った。


「ジュリウス殿下はかなりロマンティストで、よく姉上にいろんな演出をしてプレゼントやら送っているし、ルーカス隊長も婚約者にはかなりいろいろやってたなぁ・・・」


「え、意外です」


無口そうなルーカスを思い出したが、とてもロマンスなことをしそうには見えない。

ジュリウス殿下は見た目も美しく、雰囲気もロマンスの塊みたいな人だったので理解はできた。

ルーカスが一体どういう顔で婚約者に甘い雰囲気を出しているのかを考えているのをヴィクトルへの不満だと感じたのか、あわててシーラに弁解をする。


「俺はロマンとかそういうものに疎いけど、決してワザとではないんだ。そういうのが苦手なだけで・・」

「わかってますよ」


いつも率直に言ってくれるヴィクトルにシーラは微笑んだ。



深夜二時。

いつもは疲れて朝までぐっすりのシーラだったがなぜか目が覚めた。

ベッドの上で何度も寝返りを打つが目が覚めてしまい寝れそうにない。

水でも飲もうと、そっとベッドから起きて、テーブルへと向かう。

部屋は真っ暗だったが、月の明かりが差し込み明かりを付けなくてもなんとか室内が見えた。


用意されていた水差しから水をコップに入れて飲む。

まだ真夏ではないが暑苦しくて窓を少し開けた。


「外の風は涼しいわね。今日は満月なのね・・」


まん丸な月が湖を照らしていてキラキラと輝いている。

幻想的な光景にしばらく窓から湖を眺める。

森から吹く風が心地よく、シーラは何度か新鮮な空気を吸い込んだ。


ここに来てまだ一週間だが、とても親切にしてもらい王命といえどもヴィクトルにも優しく接してもらえてシーラはすっかりヴィクトルに心を奪われていた。


恋や愛などわからないが、彼と恋人同士になったらうれしいと思うがそれは叶わぬ夢だとなんとか諦めなければと努力をするが恋心などそう簡単には無くせないようだ。

シーラはため息を吐いた。


「私がもう少し可愛ければなぁ」


平均的な顔で、美人でも可愛くもない。

今まで特に自分の容姿について思ったことはなかったが、ヴィクトルに気に入られるような姿だったらと思うがこればかりは努力してもどうしようもないのだ。


「うぁぁぁ!」


何度目かのため息を吐いていると、隣の部屋から叫び声が聞こえた。

隣の部屋はヴィクトルだ。

シーラは部屋を飛び出して隣の部屋へとノックをして返事を待たず飛び込んだ。


「ど、どうしたんですか?」

「で、出たんだ!」


ベッドの隅で震えているヴィクトルの姿が月明りに照らされて良く見えた。


「出たって・・・ネズミ?泥棒?」


きょろきょろと辺りを見回すが、それらしい気配はない。


「坊ちゃまいかがされました?」


ランタンを手にフーゴが部屋に入ってくると、ヴィクトルはランタンを奪い取って部屋を隈なく照らして何もいないことを確認しているようだ。


「‥‥坊ちゃま・・また出たんですか?」


部屋の明かりを付けながら言うフーゴにヴィクトルは震えながら頷いた。

美形が震えている姿にシーラは可愛いと思わず呟くと、フーゴだけに聞こえたらしく「そうでございましょう」と納得しているようだ。

そんな二人に関係なく、ヴィクトルは必死に部屋に何も居ないことを確認している。


「シーラ様、坊ちゃまをしばらくお願いします。私は、ちょっとお茶を用意してまいりますので」

「はい」


ヴィクトルは部屋の明かりがついたことによって少し落ち着いたようだ。

顔色は悪いが、辺りを見回してゆっくりと立ち上がってからベッドの下まで覗き込んで確認をしている。

「一体何があったんですか?」

「・・・・・誰にも言わないでほしいんだが…約束できるか」


真剣な顔をして言うヴィクトルにシーラは頷いた。


「は、はい。誰にも言いません」


ヴィクトルはしばらく考えて、青い顔をしたまま呟いた。


「出たんだ…女の霊が・・・」


「霊・・ですか?」

「そうだ、いつもそうなんだ。夜中に寝ている俺を覗き込む女の霊が出るんだ。幼少期の夢かと思っていたが違う!あれは絶対に居た」


青い顔をして震え出したヴィクトルの手を握ってソファに座らせる。


「怖いんですか?」


散々、侍女の霊が出たと騒いだのに今更かと思ったが顔には出さずシーラが尋ねるとヴィクトルは引きつった笑みを浮かべながら首を振った。


「ま、まさか怖いなんてあるわけないだろう。ちょっとトラウマなだけだ。ハハハッ」

「・・・・なるほど・・・」


怖いんですねという言葉を飲み込んで頷くシーラにヴィクトルは頭を抱えて落ち込み始めた。


「攻撃できないものはダメなんだ。物体がないのに居るみたいな、なんなんだあれは・・・。気配を消して俺のそばにいること自体ありえないだろう」

「確かにそういわれると、攻撃できないのは怖い・・・ですね」


頷くシーラにそうだろうと頷いている。


「坊ちゃまは、大きくなっても、よくわからない存在は怖いんですね」


戻ってきたフーゴはハーブティを入れながら昔を懐かしむように微笑んだ。


「怖くはない・・・が、苦手なだけだ」

「シーラ様、幼少期の坊ちゃまはそれは可愛くて、真夜中に泣きながら起きて怖いから一緒に寝てと私の所に来て朝まで一緒に寝たこともあるんですよ」


「可愛いですねぇ」


金髪の青い目の美少年が、夜中に幽霊が怖いと泣いている姿を想像してシーラが言うとヴィクトルは面白くなさそうにお茶を飲んでいる。


「男が可愛いって言われるのはかなりの屈辱だな。ハルが嫌がる理由がわかったよ」

「えーそうですか?」


「さて、もうそろそろ寝ませんと明日体力が持ちませんよ」

フーゴの言葉にヴィクトルが青い顔をする。


「一緒に寝ましょうか?」


一人で寝るのが怖いのかしらと思ったシーラに、ヴィクトルは今度は顔を赤くしてソファーから立ち上がった。


「いや、未婚の男女が一緒に寝るなどと・・・そんなことは口にしたらダメだからな!」

「わかってますよ!」


ヴィクトルだから言ったのにと頬を膨らますシーラ。

その膨らんだ頬をヴィクトルはギュッと摘まんだ。


「何するんでしゅか」


「別に何でもないよ」


じっとシーラを見つめていた青い目が不意に逸らされてそのままベッドから毛布を担いで歩き出した。

「シーラも、ありがとうな。早く寝てくれ」

「ヴィクトル様はどうするんですか?」


「フーゴの部屋で寝る。ベッドが二つあったよな?」


確認をするヴィクトルにフーゴは面白そうに笑った。


「もちろんでございますよ。いつ、ヴィクトル坊ちゃまが来てもいいようにベッドはお二つご用意しております」


恥ずかしいのかヴィクトルは振り返ることなくフーゴの部屋へと向かっていく。

それを見つめて、シーラとフーゴは二人で声を上げて笑ってしまった。


「可愛いですねぇ、ヴィクトル様」

「そうでございましょう。大きくなっても可愛いんですよ、坊ちゃまは」





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