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薔薇が咲き乱れる庭園にテーブルがセットされてささやかな身内だけのお茶会が開かれた。

参加者は、王太子と、その婚約者ミーナリア、ミーナリアの弟であるヴィクトルとシーラそして姫様とマーロだ。

それぞれの護衛騎士もいるが、姫様付の護衛騎士達も今回の労を労うという名目で着席をしている。

城直属のパティシエが腕を振るった軽食とデザートにそれぞれ感動をしつつ食べた。

姫様付の騎士たちは王太子の手前大声を上げたりしないが、静かにおいしい軽食に感動していた。


「このサンドウィッチうめぇー。なんでウチで出るのと違うんだろう」

「このハーブティーもうめぇー。ハーブティーなんて初めて飲んだ」

「この紅茶もうめぇー。そもそも茶葉が違うんだな」


などコソコソ話しているが丸聞こえである。

ハルも瀕死の重体であったが、本格復帰は約3か月ほど先にはなるが事務作業ができるまでは復帰している。

左足の完治はしておらずまだ松葉杖が必要な状態ではあるが、元気に仕事をしているハルを見てシーラは一安心した。


シーラの隣では痛めた肩を動かさないように器用に右手だけで紅茶を飲んでいるヴィクトルが座っている。

見た目よりも怪我の傷は浅かったらしく2週間ほどで現場復帰ができるとのことでシーラは一安心していた。


あの事件から数日が経った。


第二王妃は拘束されて幽閉され、レオナルド将軍は尋問の上処刑が決定されたことをシーラは父親から聞いていた。

父親曰く、皆大騒ぎで噂もすごくどれが本当の話なのか分からないと、ため息を吐いているほどなのでかなり混乱しているのだろうと予想をしていた。

ヴィクトルも忙しいらしく、連絡も取れないまま王家主催の身内のみのお茶会が開かれたのだ。


穏やかな空気の中王太子が口を開いた。

「今回、シーラ嬢にはかなり協力をしてもらい苦労をかけたな」

「とんでもございません」


王太子は少し微笑んで隣に座るミーナリアを見る。

「本当、シーラさんが危険な目に遭ったって、無事でよかったわ」


ミーナリアが微笑んでシーラを見た。

「ありがとうございます」


シーラが頭を下げる。

「なんでも、シーラさんは飛んできた剣を掴み取ってヴィクトルに投げたとか・・・頼もしいわ」

「淑女として、お恥ずかしいです。飛んできたものを取るのは特技でして・・・」


家族以外ではおしとやかにしなさいと言われているシーラはまさか王太子達の前で飛んできたものを掴んでしまうという特技をほめられる日が来るとは思いもよらず恥ずかしくて顔を伏せた。

父親が知ったら相当怒りそうだと思ったが、まだ、知らないようでホッとしている。

そんなシーラの心中を知らず、他の騎士達も褒めだした。


「鍛え上げられた俺らでさえ飛んできた武器を取るとか無理だよなぁ」

「剣を投げ返すシーラさんも凄いけど・・・・・」


口々に言っている隊士たちにミーナリアも頷いてくれた。


「恥ずかしがることなんてないわ。弟の命の恩人ですもの。それにあのレオナルド将軍が剣を振るっている場所で剣を投げることができるなんてすごい勇気ね。そんな人が弟と結婚してくれるなんて嬉しいわ」


「結婚・・・・」


急に現実を思い出してシーラは顔を赤くしてヴィクトルを見た。

ヴィクトルも口元に笑みを浮かべて頷いている。


「えぇ、姉上。俺もうれしいです。シーラが俺を選んでくれて」

「えぇぇぇ」


ヴィクトルの爆弾発言にシーラはますます顔を赤くした。


「情けないヴィクトルの姿を見ても嫌にならない女性に出会い良かったな」

王太子がヴィクトルを見て鼻で笑った。

「俺は情けなくなんてないです」

「・・・・昔、山の中で虫が出ると大声を上げていたが、それは未だに治っておらんのだろう。

どうせ、洞窟に入るのもぐずぐずしている姿が目に浮かぶようだ」


王太子の言葉に、ハルが頷いた。

「確かに。副隊長は、訓練の時も虫を異様に嫌がってますしね。洞窟の訓練とか大声上げてることもありますしね」


他の騎士たちも思い当たる節があるのか、情けない目でヴィクトルを見た。

「誰だって虫は苦手だろう」

慌てて言うヴィクトルに、皆首を振る。

「苦手ですけど、大声上げたりしませんよねぇ」


グッと言葉に詰まったヴィクトルに、シーラは安心させるように彼の腕を叩く。

「大丈夫ですよ、私虫は苦手ではないので。もし、出た時は払ってあげますから」

「シーラ!やっぱり俺には君しかいないよ」


感激したように両手でシーラの手を取って、肩の痛みに顔をしかめたヴィクトル。


「可愛い弟の結婚も決まりめでたい限りだが、事件について少し報告したい」


王太子はそう言って一同を眺めた。

姫様付の騎士達はその言葉に一斉に口をつぐみじっと背を正した。


「皆のおかげで、第二王妃とレオナルドを罰することができた。以前より、あの二人は怪しかったが証拠がなくてな。侍女イレナが集めた証拠の手紙のおかげで奴らも罪を認めた。

第二王妃は、王族より追放となり幽閉された。レオナルドは尋問を受け終わり次第、処刑予定だ。

そして我が弟だと思っていたレオであるが王族の籍を外され、教育係を付けてこのまま城に留まることとなった。もう弟ではないがな・・・」


少し寂しそうに言う王太子にミーナリアが寄り添った。

王太子はミーナリアに微笑んでヴィクトルを見る。


「まぁ、可愛くない弟ができるからそちらを可愛がるとしよう」

「え、俺?」


驚くヴィクトルを面白そうに眺め、王太子は手紙を出した。


「やっと戻ってきたイレナの手紙だ。すべてでは無く申し訳ないが、証拠として保管させてもらっている。本日、マーロに読んでもらいたいと持ち出すことが許可された」


そう言って、差し出した手紙が侍従の手によってマーロに渡された。

戸惑いながらも手紙を受け取ったマーロはゆっくりと手紙を開いた。

横からは姫様が手紙を覗き込んでいる。


黙って手紙を読んでいるマーロは読み進めていくうちに目に涙が溜まりボロボロと泣きだした。


一体何が書かれていたのだろうかとシーラは隣のヴィクトルを見るが彼もわからないようで首を左右に振った。

泣いているマーロに姫様は優しく背を撫でて慰めている。

王太子がシーラとヴィクトルを見た。


「今日も我が妹の後ろに侍女の霊はいるのか?」


シーラは目を細めて見た。


「はっきりとは見えませんが見ようと思えば、黒い影のようなものが見えます」

「昨日、侍女の遺体を探すため大捜索が行われ無事発見された。検分が済み次第遺族に引き渡し予定だ」


王太子がそういうとマーロはぼろぼろ泣きながら心配そうにしている姫様の両手を取った。


「クリスティーナ姫様・・・僕はずっと言いたいことがあったんです」

「え?」


姫様は驚いて目を見開いていたが、周りで見ていたメンバーが驚いて声を出した。

今?姫様に言いたいことがあるとは・・・・。

心配そうに見守る一同の視線など気にならないのかマーロは姫様の両手を取ってギュッと握りこんだ。


「僕、ずっと姫様のことが可愛いなって思ってて、でも!ぼ、僕には姫様みたいな素敵な人なんて合わないじゃないか・・・だからずっと避けてたんだけど・・・・ぼ、僕も姫様のことが大好きなんだ」


「まぁ、嬉しいわ」


満面の笑みを浮かべた姫様がマーロに抱き着いた。

マーロは顔を真っ赤にして固まってしまったが、おずおずと姫様の肩に手を回す。


「い、イレナが僕に言ってくれたんだ。後悔無く生きてくれって・・・・ずっと姫様が好きだったことはバレてたみたいで・・・・男らしくしろって怒られたよ・・手紙でだけど・・・。姫様に告白したら結果を教えてくれって・・・・村で待っているからって書いてあった・・・・ごめんイレナ・・ごめん」


何に対してのゴメンなのだろうかとシーラは疑問に思っていると、姫様の後ろの影が少し濃くなった気がして、ヴィクトルの腕を叩いた。

ヴィクトルも気づいて姫様の後ろに視線を向ける。

「影が濃くなっているな・・・」


ヴィクトルの呟きにシーラが頷くと姫様の後ろの影が黒い色から白くなってくる。

白くなった影は徐々に人の形をしていき、微笑んでいるイレナの姿が見えた。


「ひ、姫様。マーロさん。イレナさんが微笑んで立っています!」


今まで憎しみの顔しか見たことがなかったが、微笑んで立っているイレナは美しかった。

侍女の服ではなく、紫色のワンピースを着ていた。

シーラの声に、一同が驚いて姫様の後ろを目を凝らしてみる。


「なんか、見える気がする!」

「俺も!女が立っているぞ!」


驚いて立ち上がる姫様の護衛騎士達。


「みんな見えているんですかね」


驚くシーラにヴィクトルも驚いているようで、口を開けて頷いた。

「俺にもはっきり見える。ちゃんと普通の女性だ・・・・」


「イレナ・・・・」


マーロもイレナの姿を見て涙を流しながら姫様の後ろを見た。

「マーロ。おめでとう!お幸せにね!」


イレナは微笑んで空に吸い込まれるように消えて行った。


「ありがとう。イレナ」


空に向かって呟くマーロに、姫様も空を見上げて微笑んだ。

「イレナさん・・・ありがとう」



「見た!」

「見た!すごい」

「空に吸い込まれていったぞ!」

姫様の護衛騎士たちも驚いて興奮して立ち上がって感想を言っている。


周りに控えていた、王太子達の護衛騎士達も興奮しながら手を叩いたり、侍女たちも空を見上げて大騒ぎをしていた。

「見た!私も見たわ!イレナさんだった!」

「あれは幽霊なの!?凄いわ!」


王太子も驚いて口に手を当てて呟いた。


「驚いたな・・・霊を見ることになるとは」

「・・・・天に昇ったのでしょうか」


ミーナリアが微笑んで言うと、王太子も微笑んだ。

「そうだといいな」


「・・・・今のは怖くなかった」


ヴィクトルが空を見たまま言うと、シーラはたまらず噴き出した。


「良かったですね。怖く無くて」


何となくヴィクトルと手を繋ぎたくなりシーラは怪我をしていない右手に手を伸ばしてそっと握ると驚いたヴィクトルと目が合った。

「・・・・すいません」

さすがに、はしたなかったかと思って手をひっこめようとするがヴィクトルにギュッと握られた。


「嫌じゃないよ」


微笑むヴィクトルがあまりにも微笑みの貴公子でシーラは顔を赤くして俯いた。


「え?なんで顔見てくれないの?」

不安そうなヴィクトルにシーラは呟いた。

「ヴィクトル様が、まぶしくて・・ちょっと恥ずかしいです」


「シーラは可愛いなぁ」


しみじみと言うヴィクトルにシーラはますます顔を赤くして俯いた。


「甘酸っぱい雰囲気だな」


ルーカスがそういうと、相手が居ない騎士達が一斉にうなずいた。




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