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今にも雨が降り出しそうな空を眺めながらシーラは小さくため息を吐いた。

ヴィクトルが操る馬に乗って移動中だ。

斜め後ろからはハルがやる気のない顔をしてシーラと同じように空を見上げている。

マーロの故郷は、シーラ達が居た館からそう離れてはいなかった。極秘での任務のため、ハルとヴィクトルとシーラのみの行動だ。


「雨降ってきそうですよー。なんでヴィクトル副隊長たちと一緒にマーロさんの故郷に行かないといけないんですかぁ」


まだ空を見上げているハルにヴィクトルがチラリと振り返った。


「仕方ないだろう、姫様の警護も手薄にするわけにはいかないし。俺達だけでやらないと」

「でも、私は必要なかったんじゃないですか?」


姫様から離れれば侍女の霊も見えなくなり、何かヒントをあげられることもないのだからとシーラが言うとヴィクトルは頷く。


「確かになぁ、でももしかしたら何かあるかもしれないだろ。王太子の命令だからなぁ」

「僕いやですよぉ。レオナルド将軍に目を付けられたくないですし、もし将軍が僕たちを殺しに来たらどうします?」


少し青い顔をして言うハルにヴィクトルは肩をすくめる。


「将軍がこんなところにくるわけないだろ。第二王妃の傍を離れないって有名じゃないか」

「あの二人できているから、知らないのは王様のみってね」


二人の会話にシーラは眉をひそめた。

王族のことなど噂程度にしかしらないが、美しすぎた第二王妃は自ら望んで第一王妃が亡くなってから後妻に入り王様と仲がよくかなり献身的に支えていると聞いていた。

それに、二人は子供が生まれ今まで以上に仲良く暮らしていると父親も言っていたはずなのに実際はそうではなかったようだ。


「王様は知らないんですか?」


シーラの疑問にヴィクトルが答えた。


「そりゃ、王様がお元気な時は二人は裏で会っていたようだからな。王が病気で倒れて寝込みがちになってから第二王妃の傍に将軍がつくようになったんだ」

「それに、すこしでも反発する貴族たちはすぐに左遷されたりしたからねぇ、あと謎の死とかもあったよね。王様も王妃様に毒盛られているんじゃないかって言われてたし」


ハルの言葉にもシーラは信じられない気持ちだ。


「いっそのこと、王様が死んでジュリウス殿下が王になれば、第二王妃をどこか遠くにやれるのにねぇ」

「本当だな。こんな物騒な話は、こんな森の中でもなければできないよな」

「本当ですよねぇ」


ヴィクトルとハルが声を出して笑っているが、シーラはちっとも笑えない。

いつ殺されるかわかったもんじゃないと青ざめるシーラにヴィクトルは微笑む。


「大丈夫だって。何かあったらちゃんと守るから」


微笑みの貴公子と呼ばれているヴィクトルにシーラの顔が赤くなる。

「う、嬉しいです」


そんな甘い二人をハルは冷たい目で見た。


「守るって言っても、将軍めっちゃ強いですよ。あの筋肉から振り下ろされる剣の重みを受けられた人はそうそう居ないですし。僕たちが数人でかかっても勝てると思えないんですけど」


「お前はー!せっかくのいい雰囲気が台無しだろうが」


ヴィクトルがハルを振り返って文句を言っていると、遠くで馬のいななきが聞こえた。

マーロの故郷である村まではまだ少しある、森の中の一本道ではあるがあえて人が通らないようなさびれた道を選んで進んでいたのだが、後ろからくる人の気配にハルとヴィクトルが反応する。


「どう思う?」

ヴィクトルがハルに問うとハルも嫌そうな顔をした。


「嫌な予感がしますけど、もしかしたら将軍の手のものですかね」

「かもしれないな」


ハルはため息を一つついた。

「ちょっと僕確かめてきます。副隊長たちは任務を遂行してください。最悪足止めしますんで」

「わかったよろしく頼む」


ヴィクトルが頷くのを見て、ハルは引き返していく。


「大丈夫でしょうか」

心配そうなシーラにヴィクトルは頷いた。

「あいつも強いから問題ないよ」


そう言いながらヴィクトルは馬を走らせる。


「確かここら辺に洞窟があるとマーロは言っていたんだがな」


ヴィクトルはマーロに説明された地図を頭で描きながら道を外れて森の中へと馬を進めていた。

森の中にポッコリと現れた洞窟が見えた。

「・・・あれか・・」


森の奥に囲まれて現れた穴にシーラとヴィクトルは顔を見合わせる。


「侍女の霊が見せてきた映像と似ているな」


ヴィクトルの言葉にシーラが頷いた。

「似ていますけど・・ここですかね」


いまいち自分たちの記憶が信じられず、首をかしげる。


「まぁ、仕方ない入るしかないだろう。この奥に穴があってその中に手紙があると思うんだが」


ヴィクトルは馬を降りるとシーラを抱き上げて降ろした。

馬を木に括り付けてから、シーラの手を握った。


「もし尾行されていたら厄介だから明かりは付けられないけど、暗くても平気?」

「はい大丈夫です」


シーラが頷くと、ヴィクトルは驚いた。


「え?大丈夫なの?洞窟だよ?虫がいるかもしれないんだよ」

「大丈夫ですよ。虫はふり払えばいいですし。逆に明かりを付けると虫が寄ってきそうですしね。

昔、裏の山の洞窟みたいなところを探検したことを思い出します」


明るく言うシーラにヴィクトルは引きつった笑みを浮かべたまま固まる。


「そ、そう、シーラは暗いところ大丈夫なんだ」


ぎこちない動きのヴィクトルにシーラは意味ありげに微笑んだ。

「もしかして、暗いところが苦手なんですか?」

「いや・・・う・・苦手というか・・・虫が苦手なんだ・・」


隠していても仕方ないとヴィクトルが白状するとシーラは微笑んだまま今度はヴィクトルの手を握り返す。


「虫は私が払ってあげることができるんで安心してください」

「シーラにそう言ってもらえると少し安心する。俺も頑張れる気がする」


そう言ってヴィクトルはシーラの唇に軽く口付けた。

驚くシーラの顔を見て声を上げてヴィクトルは笑った。

「シーラがあまりにも可愛くて・・・ごめんね」


「ちょっと驚いて・・・・別に嫌ではないですけど・・」


顔を真っ赤にしてボソボソと呟くシーラにヴィクトルはまた微笑んだ。

「さぁ、行こうか」

「はい」


しっかりと手を握り合ってシーラとヴィクトルは洞窟の中へと入った。


洞窟の中は、小さな入り口とは違い大きな空洞になっていた。

一本道を歩いていく。

洞窟の中は不思議な花が咲いており、ほのかに明かりを灯している。


「こんな植物初めて見ました」


虫が怖いのか、暗闇が怖いのか歩く速度が遅いヴィクトルを引っ張るようにシーラは歩いていたが、ところどころ咲いている明るい花の前で立ち止まってしげしげと眺める。


「かなり珍しい植物らしいよ。切ってしまうと明かりは失われるらしい。俺は昔訓練で洞窟の奥深くで見たことがある」


上から虫が降ってこないかとビクビクしているヴィクトルが説明をしてくれ、シーラは感心して頷いた。


「この植物があれば明かりはいらないですね。結構道見えますし」

「・・・・そうだね」


できれば明かりがほしいと思ったがヴィクトルは頷く。


「あの侍女の霊は川に流されてましたよね。とりあえず川まで出ないと・・」

「ここをあの侍女は走っていったのか。凄い体力だな」


ヴィクトルはシーラに引っ張られながら洞窟を進んでいく。

しばらく歩くと川の流れが聞こえてきた。


「ヴィクトル様川の音が聞こえますね」

「聞こえるな」


音を頼りに歩いていくと、大きな川にたどりついた。

川の流れは急でかなり深そうである。

シーラはヴィクトルを見上げた。


「ここじゃないですか?イレナさんが切り付けられたところ!」


見せられた映像と同じ景色にシーラが感激してヴィクトルを見上げる。

ヴィクトルも驚いて辺りを見回した。

「確かにここだな」

「記憶がたしかなら、ここから侍女の人は川へと落ちましたよね」

「・・・そうだな」


洞窟の中を流れる川、下流を見るが暗闇で見えない。


「真っ暗で深さがわかりませんね、でもイレナさんが流されて、流されながら壁に空いた穴に手紙を入れてましたよね」


シーラが言うと、ヴィクトルは顔をしかめる。


「どうやって回収するの・・・・。この川に飛び込んだら死ぬと思うんだよね俺」

「・・・ですよね」


シーラとヴィクトルは顔を合わせた。


「二人とも川に飛び込めばいいではないか」


後ろから低い声が聞こえた。

ヴィクトルは剣を抜きながら背にシーラを庇う。

「誰だ」


「俺に剣を向けるとはいい度胸だな」


レオナルド将軍が大剣を持ち立っていた。

ニヤニヤと笑っているが、目はヴィクトルを射殺しそうなほど睨みをきかせている。

オーラだけでも恐ろしく、シーラは震えた。


「なぜ、ここに居るんですか。レオナルド将軍閣下」


ヴィクトルは剣を構えながら言うと、レオナルドは鼻で笑う。


「なぜ・・か。お前らは何かを探しに来たのだろう。あの女中の死体か?この場所はお前の部下ハルから聞いたのだよ。俺の仲間だからな。裏切者は案外近くにいるものだよ。ヴィクトル君」


まさかハルが裏切者だったなんて、ますます震えるシーラにヴィクトルは肩をすくめた。


「まさかハルは俺が一番信用している部下だ。嘘を吐くのもたいがいにしろよ」

「ほう、俺にそんな口を利くとはな。死ぬ準備ができているようだ」


「そう簡単に殺させませんよ!」


足を引きずったハルが息を切らせながら走って、レオナルドの後ろで剣を構えた。

「ハル無事だったか」

「危うく、レオナルド将軍の密偵扱いにされて闇に葬られるところみたいでしたね」


軽口を叩いているが、ハルの顔は腫れており、騎士服が血で濡れていた。


「殺したと思ったんだがな」


ちらりと背後に視線を送ってハルを見たレオナルドが言う。


「僕も死んだと思いましたよ。意外と怪我が大したことなくてここまで来れましたけど。でも、ヴィクトル副隊長、僕左側が死んでます!」


「わかってる!」


ヴィクトルはそういうと、レオナルドに向かって剣を振り上げた。

ハルも同時に後ろから剣で襲い掛かった。


レオナルドは回転しながら二人の剣をはじき返す。

「グッ」


あまりの力の差にヴィクトルとハルは2・3歩後ろに下がり倒れるのを防いだ。

力の差がありすぎる。


ヴィクトルは冷や汗をかきながら剣を構えた。


「先にお前から片づけてやろう」


レオナルドがそう言うと同時にハルに向けて剣を振り下ろす。

ハルは剣で受けるが、レオナルドの力に負けて剣を弾き飛ばされた。

レオナルドの剣がハルの左の肩から胸を切りつける。


声を上げることなく倒れたハルから血が溢れている。

ピクリとも動かないハルに死んでしまったとシーラは足が震えてその場に座り込んだ。


震えて座り込んだシーラを庇うようにヴィクトルは前へと出て剣を構えた。


「お前の腕で俺が倒せるか?」


レオナルドの剣がヴィクトルへと向かう。

力の強さに剣を受けるのがやっとのヴィクトルにレオナルドはニヤリと笑った。


「姫様付の護衛騎士で副隊長のくせにその程度なのか?」


バカにされているが、レオナルドの強さは桁外れだ。

歯を食いしばりながらレオナルドの剣を何度か受けるヴィクトル。


「つまらん」


レオナルドはそういうと、ヴィクトルの剣を弾き飛ばした。

カラカラと剣は回りながら飛んでいく。



「さて、どうするか」


レオナルドは笑いながら一瞬でヴィクトルの肩を剣で貫いた。

「ウグッ」


痛みで顔をしかめるヴィクトルはそれでも倒れることなくレオナルドを睨みつけた。


「その女の前でお前の首を飛ばしてやろう、何すぐにあとを追わせてやるから安心しろ」


「止めて・・・・」


ヴィクトルの首を飛ばすなんて、シーラは呟くがレオナルドはそれが面白いらしくシーラをちらりと見て、良く見えるように剣を構えなおした。


「この位置から剣を振ればお前の首がその女の所に行くな」


面白そうにつぶやいてレオナルドが剣を振り上げた。

目をつぶることもできずシーラはレオナルドの剣を見つめていると、レオナルドの動きが止まった。


「グッ体が動かん!」


「イレナさん・・・」


シーラの目にはレオナルドの後ろから手にしがみついているイレナの姿が見えた。





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