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「昨日の夜の出来事は夢じゃないわよね」


昨夜はいろいろなことがあり、クタクタになって王太子達が療養しているという屋敷に帰宅してすぐ寝てしまった。

ヴィクトルが自分を好きだと言ってくれたのは現実とは思えず、目が覚めて思わずつぶやいてしまう。

手が届かないと思っていた人に告白されるなんてと一人ジタバタとベッドで転がっているが今日はカルメルダ夫人と面会をする日だったことを思い出し慌ててベッドから飛び降りた。


「おはようシーラ」


シーラの支度が終わって、迎えに来たのは侍女ではなくヴィクトルだった。


「わざわざ、すいません」

シーラが頭を下げると、ヴィクトルは顔を少し赤くして頬をかいた。


「シーラに会いたかったから・・・・」

「・・・私も会いたかったです」


シーラも呟いてお互い微笑み合った。

すると後ろから冷たい声が。


「お二人さん、そういうことは休暇の時にお願いします。ほら、行きますよ」


ハルが不機嫌そうに二人の間に入り込んだ。


「なんで邪魔するんだ」

「王太子様がご心配されていますよ。ヴィクトル副隊長が手を出すんじゃないかって。

シーラさんと上手くいって舞い上がっているから。僕は副隊長が暴走しないように見張りです」


そう言って、ヴィクトルの手を引っ張って歩き出した。


「ほらほら、行きますよ。カルメルダ夫人はすでにこちらに来てますので。シーラさんも早く来てください」


ハルに連れられて、王太子付の騎士達が警護しているドアをノックして入る。

すでに、王太子とヴィクトルの姉であり王太子の婚約者のミーナリアが奥に座っており、囲むように姫様とマーロが座っていた。

違うテーブルにカルメルダ夫人が座っている。


豪華なメンバーにシーラは気後れしそうになるが、微笑んで挨拶をした。


「遅くなりまして申し訳ございません」


「遅くなんてないわよ。今日は私も体調がいいから参加させていただくわね」


ミーナリアが微笑みながら言う横で王太子も訳ありに笑っている。


「昨晩は面白いものを見逃してしまったので、報告を受けていたんだ」

「良かったわね。ヴィクトル。あなたの情けない姿でもいいって言ってくれる人がいて」


王太子とミーナリアにからかわれてヴィクトルは姫様の後ろに立っているルーカスとハルを睨みつけた。

「告げ口したな!」

「報告ですよ」


王太子の前なので礼儀正しく立っているハルはヴィクトルと視線を合わさずに答える。


「シーラさん。弟は本当に昔から情けなくて・・・どうかよろしくね」

「は、はい私の方こそよろしくお願いします」


頭を下げたシーラをミーナリアが微笑んで見つめた。


「さて、今日も侍女の霊はいるのかな?」


王太子の言葉にシーラが姫様の後ろに視線を向ける。

いつもなら、睨んでいるはずの侍女の霊はぼんやりとしか見えない。

全く見えないわけではないが、かなり薄くよく見ないと見えない状態だ。


「あれ?今日は凄く薄ーいです。何でですかね。もしかして成仏しそうとかですかね?」

隣のヴィクトルを見上げると、彼も目を細めている。


「たしかに、私もはっきりとは見えません。黒い靄みたいな感じですね」


二人の言葉に、カルメルダ夫人が少し考えて口を開いた。


「あくまで憶測なのですが、今まで報告があったことを検証しますと、まず私には初めからはっきりとは見えない霊でした。シーラさんにははっきり見えていたのは波長が合っていたからだと思います。

ですので、今は波長が合わなくなってきているのではないでしょうか・・・」


「波長が合わなくなった・・・」


呟くシーラの顔色は悪い。

もう協力できなくなるのではないかと思うと、心苦しい。


「ということは、もう俺は霊が見えなくなったということですか?」


シーラとは対照的にヴィクトルが笑顔で聞くと、カルメルダ夫人が首を振った。


「波長が合えば見える霊は居ると思いますよ」

「なるほど、姫様に憑いている侍女の霊はたぶんマーロ君に片思いしていたようだから、片思い同士で波長が合っていたのかもしれないな」


王太子の言葉にシーラは目を見開いた。


「片思いって・・・」

「特に、恋人や婚約者などが居ない年頃の女性として波長が合ったのかもしれないな」


まさか、ヴィクトルに憧れていたことを知っていたのかとシーラは内心ほっとして息を吐いた。

カルメルダ夫人が頷いた。


「それはありそうですね。お二人は昨日の夜、お互いの気持ちを打ち明けられて侍女の霊とは波長が合わなくなったのでしょうね」


ここにいるみんなが事情を知っていると思うとシーラは恥ずかしくて俯いたがヴィクトルはうれしそうだ。

「と、いうことは侍女の霊はもう見えないということか」


「でも、それだと困るな。行方不明の侍女がもし死んでいると仮定してその死体を見つけたいのだがな」


王太子の言葉に、ルーカスもうなずく。


「なにかしらの証拠があるかもしれませんしね。その侍女が何を見て、どうして殺されたのか」


期待を込めた目をして一同がシーラを見た。


「いえ、私は素人ですし・・・・修行をしたけどご協力できるほどではないかと・・・・もう霊も薄くしか見えなくなってしまいましたし」


小さい声で言うシーラに、珍しくマーロが立ち上がった。


「あ、あの。僕がこんなこと言うのはおかしいと思うんだけど、幼馴染のイレナがもし死んでいたとしたら・・・せめて体だけでも見つけてあげたいと思うんだ。だって、可哀想じゃないか。

それに、姫様を恨むなんておかしなことだし・・・・・姫様が命を狙われているのも何かわかるかもしれないし・・・・。だから、お願いします。もう少し協力してください」


マーロの願いに隣に居た姫様が感動して目を輝かせて微笑んだ。


「マーロ・・・私のためにそんな風に思ってくれているなんて嬉しいわ」

「ぼ、僕も、姫様のことが心配なんだよ・・・」

「うれしい」


王太子は、盛り上がっている姫様とマーロを見て、シーラを見た。

「と、言うことだ。もう少しだけ、霊とコンタクトを取ってほしい」


王太子にそう言われては断ることなどできるはずもない。

シーラは頷いた。


「では、少し霊とコンタクトを取りやすい状況を作りましょうか」


カルメルダ夫人が微笑んだ。




カルメルダ夫人の指導のもと、室内にはカーテンが引かれ机の上には蝋燭が灯された。

ミーナリアは体調がすぐれないということで退出したため、王太子とマーロが席に着き、姫様の護衛騎士達は部屋の隅で経過を見守っている。

姫様とシーラは向かい合った状態で椅子に座っており、シーラの後ろにカルメルダ夫人が立った。


「心を落ち着けてください。体の力を抜いて、目を軽く閉じてください、深く深呼吸を・・」


カルメルダ夫人の静かな声が室内に響く。


「姫様の手を取ってください」


シーラは言われた通り姫様の手を取りまた軽く目をつぶった。


「姫様に憑いている侍女の霊イレナさんにいいます、あなたは今どこに居るのでしょうか。どうして殺されたのか教えてください」


カルメルダ夫人が告げる。

目をつぶっているシーラは全く変化はなく、眠りにつく一歩手前のようなリラックスした状態で椅子に座っていた。


「ダメですね。一向に変化ありません」


10分ほど頑張ったが全く変化がなくシーラは目を開けた。

カルメルダ夫人は少し考えて、部屋の隅で気配を消して立っているヴィクトルを振り返った。


「ヴィクトル様も協力お願いします」

「え?俺ですか?」


霊とは関わり合いたくないヴィクトルが嫌な顔をする。


「シーラさんの後ろに立って少し能力のサポートをしてもらいましょう」

「はぁ・・」


意味が分からなかったがヴィクトルは仕方なくカルメルダ夫人に言われるままシーラの後ろに立って両手をシーラの肩に置いた。


「二人とも目をつぶってください」


またカルメルダ夫人の声に導かれるまま、目をつぶる。

シーラは後ろにヴィクトルがいると思うだけで安心し息を大きく吐いた。


「お二人とも、何か見えませんか?」


カルメルダ夫人が静かに問いかけた。

シーラは肩に置かれたヴィクトルの手の温かみを感じながら意識を集中させる。

目をつぶっている瞼の裏に、姫様に取り憑いている侍女の霊が走っている姿が一瞬見えた。

侍女の制服ではなく、紫色の簡素なワンピースを着ているが間違いなくイレナだ。

また場面が変わり、第二王妃が妖美に微笑んでイレナに手紙を渡した。

『あの人に渡して。内密によ。いつものように誰にも見られず渡しなさい』

『畏まりました』


イレナが第二王妃に頭を下げて手紙を受け取る。

『あぁ、そういえばあのマーロという男はあなたの幼馴染だったそうね。残念だけどあの男、王太子に毒を盛ったらしいわよ』


驚くイレナに第二王妃は扇子を広げて口元を隠した。


『あぁ、まだ公表はされていないようだけど、あのマーロとかいう男は目障りだったもの。毒に敏感すぎたわよね。幼馴染とは付き合い方を変えなさいね。あのような男とは関係を切りなさい。邪魔だわ』

『マーロは無関係です』


イレナが必死に言うと第二王妃は妖美に微笑んだ。

『それはそうよ。だって毒は私の侍女が入れるのですもの。マーロとかいう男は邪魔だから犯人になってもらうの。あの男、毒のエキスパートなんですってね。邪魔なのよ』

『そ、そんな』


顔を青くするイレナに王妃は微笑んだままだ。

『あなた私に口答えするのね。次はないわよ』


また場面が変わる。

第二王妃とレオナルド将軍が抱き合って口づけを交わしている。

イレナはドアの影から中を覗いているようだ。


また場面が変わり、紫色の服を着たイレナが暗い森を走っている。

馬の足音が遠くから聞こえる。

『逃げないと、この手紙を王太子の側近に渡せばマーロは助かるかもしれない』


また場面が変わる、洞窟のようなところでイレナが肩を剣で斬られた瞬間だ。

血が飛び散りイレナは悲鳴を上げた。


『手紙を出せ』


剣を握っているのは、レオナルドだ。

イレナは肩から血を流しながらもレオナルドから逃げようと走った。

子猫をいたぶる様に、レオナルドは薄く笑って剣を振り下ろす。

背中を切られ痛みで叫ぶイレナはそれでも立ち上がり、レオナルドから逃げるように走ろうとするが足がもつれて川の中へと落ちた。

流れが急な川にイレナの体が水中へと飲み込まれていった。

何度か頭を出すが、見える景色は洞窟の暗い景色。

体が思うように動かず苦しみながらも川の流れに身をまかせると出っ張っている岩に体が引っ掛かった。

朦朧とする意識の中洋服のポケットから油紙に包まれた紙の束らしきものを取りだすと洞窟の壁の小さな穴に詰め込む。


「私の死体が見つかればこれも取られるわ・・・これがあいつら以外に見つかればマーロは助かる・・・」


イレナは朦朧とする意識の中呟くとまた水に流された。

洞窟を流れる川は意識のないイレナの体を流していく。


そこでシーラは目が覚めた。


「なんか見えた!」


シーラの肩に手を置いていたヴィクトルが興奮気味に声を上げるとシーラもうなずいた。

「すごい秘密を知ってしまいました」


まさか、第二王妃とレオナルドが黒幕だったとはと青ざめるシーラにヴィクトルは嬉しそうだ。

「まさか俺とシーラが同じものを見るとは・・・俺って実はすごいってことですか?」


キラキラして言うヴィクトルにカルメルダ夫人は首を傾げた。


「ヴィクトル様自身はそんなに霊力が高いようには見えませんので。シーラさんのサポートというか、影響でしょうね」

「そ、そうですか。霊を見られなくてよかったけど、特殊能力が開花したかとぬか喜びだったか・・・」


少し残念そうなヴィクトルに遠巻きに見ていた護衛騎士たちがコソコソと話し出した。

「うわー、副隊長随分自分に都合良いように能力開花とか言い出したよ。幽霊にビビっているくせに」


ギロリとヴィクトルに睨まれて慌てて口をつぐむ。

王太子がため息を吐いた。


「ヴィクトル、シーラ何が見えた?」


ヴィクトルとシーラは見えたものを伝えると、マーロは俯いて唇を噛んだ。


「イレナは、一人で死んでしまったのだろうか・・・・可哀そうだ」

「マーロ・・・」


姫様がマーロの手を握って慰めているが、王太子は構わずに少し考えてシーラの顔を見た。


「私とミーナリアに毒を盛られたことは知っていると思うが、すぐにこの館に退避しマーロの助力により解毒と、毒の解明がされた。よって、マーロが犯人であるとは我々は思ってはいない。箝口令が敷かれたため我々が毒を飲んだことを知る者は少ないはずだ。だが、なぜか第二王妃は、お見舞いとマーロが犯人ではないかと言ってきてはいた。はじめから第二王妃は怪しいと思っていたがどうやら証拠があるらしいな」


王太子はにやりと笑うと、ヴィクトルを見る。


「どの洞窟か探せ、手紙らしきものを回収しろ」


「えー・・・視えたのって一部なんであの情報だけで分かる訳ないじゃないですか」


口を尖らせていうヴィクトルを王太子は睨んだ。

「探せ」

「・・・・はぁ、わかりましたよ」


ヴィクトルは嫌そうな顔をしながらもシーラを振り返った。

「シーラと見たものは一緒だと思うんだけど、もう少しよく考えよう。どこの洞窟か調べないとね」


王太子の後ろに控えていたルーカスもうなずく。


「早く行動をしないと、第二王妃に悟られるな。それにレオナルド将軍がまさかの主犯だったとはこれは厄介だぞ」


どう厄介なのかと首をかしげているシーラにヴィクトルが説明をした。


「将軍っていうからには俺たちの最高責任者だ。いくら王太子が俺達の上についてても、将軍が言えば俺たちを馘にもできるだろうし、なにか事情をつけて俺達の配置換えも可能だ。第二王妃がバックについているし、あの二人ができているってことは本気で王太子の座を狙っている。

シーラの命も危ないし俺達だって危ないってことだ」


「マーロのように冤罪を掛けられて処刑ってパターンもあるよね」


いつもニコニコしているハルも顔をしかめて言うと一同が頷いた。

蒼い顔をして俯いていたマーロがハッとしたように立ち上がる。


「ぼ、僕、イレナが行きそうな洞窟、知っているような気がするんだ。僕たちの故郷の森だと思う。

僕が良く鉱石とか植物とかを採取しているところでたまに行くところなんだけど、そこかもしれない」


「なるほど、まずはそこを調査するか」


ヴィクトルはため息を吐いて頷くと、シーラの前に跪いて椅子に座ったままのシーラの手を握る。

「ごめんね、いろいろ巻き込んで。情報が少ないけどあの洞穴を探して手紙を見つけて事件を解決させたら結婚しようね」


「え?は、はい?」


話が飛躍しすぎて思考がついていけないシーラが首を傾げながら返事をするとヴィクトルは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう、早く結婚しようね」


「うわぁ、副隊長どさくさに紛れて結婚を約束させてるよ」

「そういうトコだよね女にもてないの」


護衛騎士たちがコソコソ話すがヴィクトルは知らないふりをしてシーラに笑いかけた。





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