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舞踏会当日、シーラはヴィクトルのエスコートで会場へと向かった。

用意されていたドレスはとても素敵で恐縮しっぱなしだったが、ヴィクトルは今回良く働いているからご褒美の一つと思って堂々と貰えばいいと言ってくれたため心が軽くなりありがたくシーラはドレスをもらうことにした。


「ものすごい緊張するんですけど」


姫様お付きの侍女たちに仕上げてもらったシーラはいつもより綺麗になったと自分でも思う。

隣にいるヴィクトルの微笑みの貴公子のごとくキラキラと輝く笑みを若い女性達は頬を赤らめて遠巻きに見て、隣にいるシーラに冷たい視線を送ってくる。

本当の婚約者でもないのにヴィクトルの隣はなんとなく居心地が悪い。

ヴィクトルは任務ではないため騎士服ではないが、きらびやかな礼服も素敵だ。


もう少し自分が綺麗だったら少しは違う気分でここに居られたのかなと思いつつ、シーラは少し遠くにいる姫様を見た。

姫様の後ろにはやはり今日も変わらず侍女の幽霊が後ろについている。

姫様の周りをさりげなく囲むように姫様付の護衛騎士達がついていた。

護衛騎士たちは、ヴィクトルとシーラをチラチラと見てはコソコソと話しており何か噂話をしている様子にヴィクトルはため息を吐く。


「あいつら、絶対後で絞める!」


ニコニコと微笑みながら呟いたヴィクトルに姫様の護衛騎士たちは遠く離れていても何を言ったのかわかったようで慌ててシーラ達から視線を逸らした。


「シーラ、第二王妃様がご登場だ」


ヴィクトルが視線を向けた先を見ると、人々がワルツを踊っている先に大きな男にエスコートされている美女が居た。

金色のサラサラの髪の毛は綺麗にまとめられており、透けるように白い肌に真っ赤な口紅を付けている。

それなのに儚げに見えるから不思議だ。

第二王妃の折れそうな細い腰を抱いてエスコートしている男は大柄で騎士の礼服にマントを付けている。

服の上からでもわかるぐらい筋肉で盛り上がっている腕は第二王妃の10倍はありそうだ。


「王妃の隣にいるのが、レオナルド将軍だ。軍部の一番上だな。王妃様に気に入られてよくお二人でいる姿を見る」


聞かれたくない話なのだろう、シーラの耳元でヴィクトルがささやくように言う。

ヴィクトルとの距離の近さに顔を赤らめながらシーラはレオナルド将軍を見た。

金色の髪の毛は短く刈られており、顔は整っているが右頬に大きな傷があった。

第二王妃とレオナルド将軍の距離感はとてもただエスコートしているだけとは思えないほど近い。


「まさかと思うのですが、あのお二人は・・・・」


シーラは扇子で口元を隠しながら呟くとヴィクトルは頷いてシーラに囁く。

「できてると思うよ。俺はね・・・。まぁ、誰も怖くて言えないけど」


ふと姫様の後ろの侍女の霊を見ると、ものすごい目で将軍と王妃を睨みつけていた。


「ヴィクトル様、あれ、姫様についている霊がすごい目で将軍を見てますよ」

「本当だ!こわっ!まさか・・・将軍が殺したのかな」

「ありえなくはないですよね、王妃様の侍女だったというし・・・」


ヴィクトルはさりげなくシーラの影に隠れながら呟いた。


「証拠もないのに将軍がやったともいえないよなぁ・・・ねぇ、シーラちょっと庭に行こう」


蒼い顔をしているヴィクトルにシーラは頷いた。

シーラでさえ、侍女の霊はかなりの恨みをもって睨んでおり少し怖い。

ヴィクトルも霊が見えないところに移動したいのだろうと思い、エスコートされながら庭へと向かった。


「夜になると、結構涼しいですね」


熱気に包まれた会場から庭へと出ると、涼しい風にシーラは息を吐いた。

ちらほらと外で話をしている人たちの姿が見えるが、少し薄暗いため顔はわからない。

ヴィクトルはシーラの手を取って歩き出した。


「この庭はバラが咲いてて綺麗なんだけどさ、ちょっと迷路みたいになっているんだ」


月明りに照らされて薄っすらとバラの花が咲いているのが見えた。

風に乗って、花の良い香にシーラは深呼吸した。


「いい匂いですね。迷路みたいにって、広いんですか?」

「そう、結構広い。この先に池があるんだ、ちょっと歩くけど大丈夫かな?」


微笑んでいるヴィクトルがあまりにもかっこよくてシーラは早まる鼓動を押さえつつ、ぎこちなく微笑んで頷いた。


「今日はマーロさんは姫様と一緒に居ないんですね」

「控室にはいるよ。毒・・というか薬の専門家だからね。何かあったらすぐに駆け付けられるようにはしてある。姫様も今日は顔出し程度ですぐ下がる予定だし。霊は特に動き無いしで俺たちももう仕事終わりでいいと思うよ」



ヴィクトルがそう言うのならそうなのだろう。

シーラは頷いた。


バラの生垣を超えると、月明りに照らされた池が広がっていた。


「ここは昼間でもあんまり人が来ないけど、すごい綺麗なんだ」


「池というより、湖ぐらい広いですね」

「そりゃ、王宮の庭園だからね」


キラキラと月明りに照らされて輝く池、少し遠くには明るく照らされた王宮が見えた。

風に乗ってバラの香りが匂い、かすかにパーティーの音楽も聞こえてくる。

シーラが隣を見ると、微笑んでいるヴィクトルと目が合った。


王宮の庭園を王子様のような顔をした騎士と二人で散策なんてこんなロマンスな場面、もう二度と来ないのではとシーラは必死に記憶しておこうと隣にいるヴィクトルを見上げた。


ヴィクトルはどこか緊張した表情をしつつシーラの手を取る。


「シーラ・・・あのさ、聞いてほしいことがあるっていうか・・・俺は霊とか苦手ですごい情けない奴なんだけどさ、シーラはそういう俺を見ても態度を変えないでいてくれてうれしかったんだ」


シーラは首を傾げた。

「別に、情けないとは思いませんけど・・・」


「俺は顔のせいで、完璧な王子様みたいに思われている節があるみたいで、よく言われるんだ。

そんな情けない人だとは思わなかったって。シーラは、そう言ってこなくてうれしかった」


「人には苦手なこともありますし。ヴィクトル様はいつも私に優しく接してくれて私の方こそ淑女らしくなくて呆れられていると思いますけど」


シーラが苦笑して言うと、ヴィクトルは驚くほど真面目な顔で首を横に振った。


「呆れるなんてことはないよ。俺は、淑女っていうのがよくわからないけど元気があっていいと思う!」

「あ、ありがとうございます」


元気をほめられたことなど親以外ないシーラは引き気味にお礼を言うと、取られていた手に力が込められた。


「えーっと、今は仮の婚約者とかだけどさ、できれば本当の婚約者になってほしいと思ってて・・・その、義務とかそういうのじゃなくて、俺はシーラのことを好ましく思ってて・・・」


どんどん小さくなるヴィクトルの声にシーラは胸がいっぱいになった。

まさかヴィクトルが自分を好ましく思ってくれていたという言葉がうれしくて涙が出そうになるがグッとこらえて、勇気をもって彼の手を握り返す。


「私もヴィクトル様のことを好ましく思っています」


恥ずかしくて俯きながら言うシーラに、ヴィクトルは嬉しそうに微笑んでそっとシーラを抱きしめた。


「ありがとう。こんな情けない俺でもいいって言ってくれて」

「情けなくなんてないですよ。幽霊を怖がっているヴィクトル様も好ましいです」

「・・・嬉しいような、嬉しくないような・・・」


シーラを抱きしめながらも複雑そうな顔をするヴィクトル。

それでもギュッと抱きしめられて呟かれた。


「シーラありがとう。うれしいよ」

「私こそうれしいです」


シーラが生まれてから、人生で一番幸せな瞬間ではないかとヴィクトルの胸に顔をうずめる。

お互いの存在を確認するように抱き合っていると、ガサリと少し離れた草むらが揺れた。


「誰だ!」


シーラを背に庇い振り返る。


「姫様・・・近すぎだって言ったじゃないですか」

「だって声が聞こえませんし・・・」


ガサガサとバラ園から顔を出したのは姫様と護衛騎士達。


「お前ら・・・・姫様も・・・なんで・・」


愕然として呟いているヴィクトルに姫様はかわいらしく微笑む。


「だって、見たかったんですもの」

「見たかったって・・・・警備の関係とかあるでしょう・・・」


「俺達がついているから大丈夫だ」


ルーカスも草むらから出てくるのを見てヴィクトルはワナワナと震えた。


「信じられない!こんな・・・こんな俺の大切な場面を覗き見なんて・・・」


今にも怒鳴りだしそうなヴィクトルにはお構いなしに騎士隊のメンバーは一斉に手を叩いた。


「おめでとうございます。副隊長、シーラさん」

「おめでとうー」


姫様もおめでとうと微笑みながら手を叩いている。

皆に祝ってもらえるなんてと、シーラは感動して頭を下げた。

「ありがとうございます。みんなに祝ってもらえるなんて嬉しいですね」

「う・・・・うん」


微笑んでいるシーラにヴィクトルは怒りが収まったのか頷いた。


「シーラがいいならいいけど、覗き見とかこれ限りにしてくださいよ!」


「はーい」


嘘くさい騎士隊の返事にヴィクトルはため息を吐いた。





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