戦闘力ゼロなので〜ギルドのバイト諦めます。〜
でっかいブレードソードとか大楯とか超かっこいい。
何よりスマホをお供に生きていた私からすると、夢溢れる魔法使いなんて憧れの頂点よ!
こう、手のひらに水を浮かべてパキパキって氷にしたりね。
とは言っても、ここは先天的な才能がものをいうシビアな世界だったわけだけど。
腕力だって全然なくって、振り回せるのはせいぜい果物ナイフくらい。
小柄な体で盗賊や暗殺者、みたいなジョブも体育の単位だけ無難に取っているだけの女子高生にはアクロバットなセンスも皆無なわけです。
そんな回避力あったら、キッチンの濡れた床ですっ転んで、すっぽ抜けた包丁が降ってきて--なんてピタゴラな死に方はしません。
小腹を空かせたからって、ちょっと本格的なサンドイッチなんて作るんじゃなかったわ。
気づいたらどっかの森で行き倒れていた。
身元不明な女子高生を拾ってくれた中年のおっさんには感謝しかない。
冒険者を無駄に憧れはしても、そんな方向性は一切期待しないでくれたおかげで、この世界の一般常識が身につくまでのんびりさせてくれたのも大きい。
いやあ、初対面に斧片手で、熊の毛皮引っ掛けたおっさんを山姥扱いして悪かったよ。
わたしも色々混乱してたんだ。
そして今日、とうとうデビューの日!
なんのデビューかっていうと、ギルドのバイトのだ。
おっさんが後見人になってくれたおかげで、わたしもようやく地に足がつく仕事ができるようになったのだ。
前世でコンビニとか飲食店のバイト経験を活かせるかもと考えたのが最初。
どうせなら憧れの冒険者を間近で観察出来たらいいなーなんて、下心もあったり。
そう思うと、目の前にある入口の木の扉もなかなか味がある気がする。
依頼を受けた冒険者たちがこの扉を出入りするんだろうな。
素材採取とか、魔物退治とか。果ては、指名依頼なんかされて大冒険に繰り出すとか。
そんな背中を見送るバイトAのわたし。
有名になる前のスターの卵発見!みたいな感覚だ。
うわー、ゲームみたい!想像するだけでもワクワクする!
「ふぅ……よし!最初が肝心だよね。頑張るぞー!」
冒険者という平民憧れの職業は皆此処からスタートする。
その総本山……ではないけれど、駆け出し冒険者を多く送り出している村一大きい施設へ期待の第一歩!
しかしそれも、扉を開けた瞬間に心を挫かれた。
「なに此処、くっさ!無理!ありえない!動物園の方がマシ!」
鼻を直撃した男子運動部部室よりもひっどい男臭さと獣臭さ。
とにかく、めっちゃくちゃくっさい!
あまりに正直すぎる悲鳴に、後見人のおっさんの鉄拳が落とされたのはその直後。
そしてわたしは、おっさんに散々怒られ泣かされ、決意した。
ギルドのバイト諦めます。
冒険どころじゃない。
わたし:(元)花の女子高生。ピタゴラ死。
おっさん:「わたし」を拾った中年の男。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
雨砂木