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金平糖と転がった徳利

 気配に振り向けば千と万がそこにいた。二人共、いつもと変わらぬ様子だ。

 彼女たちは、自らの玉の欠片が盗まれたことをどう思っているのだろうか。こそぎ取った箇所を、犯行の跡を、慈しむように撫でている。


「家にあれば ()に盛る飯を 草枕 旅にしあれば (しい)の葉に盛る」


 澄んだ高い声が二重に響くと、欠落していた箇所がじわじわと満たされてゆく。千と万は自らを取り戻したのだ。それは並大抵で出来ることではなかった。今頃、茜坂斎王のもとにいる楓と紅葉という名の少女は原型を留めず消えていることだろう。


「千、万、貴方たち……」


 夕日とも金色ともとれる光景の中、双子の妹は未央に対してにこりと笑った。


「お姉様お一人に、私たちの失態を補っていただく訳には参りませんわ」

「そういうことです」


 何とも頼もしい妹たちの言葉に未央は一笑した。二人の身体を抱き寄せる。


「どこか苦しいところはない? 痛む場所とか」


 双子は揃って首を振る。良かった、と未央は吐息混じりに告げた。

 しかしこれは異例の出来事だった。本来であれば自らの玉に入ることは不可能。その中で術を施すのは更に不可能だ。しかし千と万は容易くそれを成し遂げた。対玉だと言った屴瑠の言葉を思い出す。頼もしい二人ではあるが、反面、茜坂のような輩に目をつけられやすいとも言える。

 ともかく未央は二人を連れて、九百合と撚り合わせた自分の髪を頼りに現実世界への帰還を果たしたのだった。

 最初に飛び込んできたのは昌太郎の心配顔だった。思えば自分は彼にこんな顔ばかりをさせている気がする。ボリボリと音のするほうを見れば九百合が金平糖を貪っている。綺麗な顔が台無しである。


「九百合、帰ったんじゃなかったの?」

「面白そうだったからさ。途中で思い直して戻って来た。花札強いね、昌太郎」

「あんたたちは人の妹の一大事に何をしてたの」

「未央たちの入った空間が、穏やかなものに変わったからさ」


 そう言う昌太郎は目を逸らし気味である。良心の呵責はあるらしい。千と万は姉以外には興味を示さず、ただ、金平糖には興味津々な様子が見て取れたので、九百合は袋に入っている金平糖を分けてやった。武士の情けだぞ、と言いながら。使い方がそれで合っているだろうかと未央は首を傾げつつ、昌太郎の渡してくれた梅昆布茶を飲んでほっとした。

 今夜、妹たちは陰陽歌人としての関門を一つ抜けたのだ。茜坂がこの件でどう出るかは解らないが、千と万は自衛の手段を持ったと思って良い。


 それまで自分の酌をしていた少女たちの姿が消えても、茜坂は大して不思議に思わなかった。逝ったのか、とそれだけ。感傷はない。ならば次は本丸を攻めてみようか。羽田未央を手中に入れれば、どれだけ波紋が生じるか。興味がある。転がった、白磁に青い絵付けのついた徳利を拾い、茜坂は手酌で吞み始めた。

 


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