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夏祭④

ご覧いただき、ありがとうございます!

アフターストーリー夏祭り編、ラストです!

■楓視点


「いやー! 盛況だったね!」


 喫茶店の前に設置していたブースを片づけながら、大輔さんが嬉しそうに話し掛ける。


「ええ、全部売れて良かったですね!」


 今日のお祭りに合わせて用意した軽食やコーヒーなどは全て完売し、残っているのはゴミと余りのプラスチックカップなどの小物だけだった。


「うん、だけど楓さんのおかげで本当に助かったよ! 今回の分のバイト代、うんとはずむからね!」

「い、いえ! そんな! 私はその……」


 私は、ただ大輔さんの傍にいたかっただけですから……。


「さ、さあて、あらかた片づけも終わったし……その、ちょっと休憩しようか」

「あ、はい」


 そう言うと、大輔さんは私に椅子を差し出してくれた。


「そ、そうだ、楓さんお腹空いちゃってるよね。その、それで……」


 すると、大輔さんはおもむろにサンドイッチを詰め合わせた紙のランチボックスを広げた。

 これって、ひょっとして私のために……?


「そ、その……一緒に食べようか」

「は、はい!」


 大輔さんが恥ずかしそうにしながらも、私のために用意してくれたサンドイッチを前に、思わず胸が熱くなる。


 やっぱり、大輔さんだなあ……。


「そ、そうだ! 私、飲み物を用意しますね!」

「あ、う、うん、それなんだけど、もしよかったらさ……コーヒー、楓さんが淹れてみない? も、もちろん俺が淹れ方を教えるからさ」


 そう言いながら、大輔さんは顔を赤くして恥ずかしそうに頭を掻いた。


「……どうして、ですか?」


 私はどうしても知りたかった。


 大輔さんがどんな気持ちで私にコーヒーの淹れ方を教えようとしてくれたのか。


「あ、うん……そ、それは…てん」

「あー! 大ちゃん久しぶり!」


 するとその時、大輔さんの答えを遮るように、女の人が大声で叫んだ。


「いやー! 大ちゃんもすっかり大人の男になって! お姉さんは嬉しいよ!」


 そう言って、その女の人は大輔さんの背中をバシバシと叩いた。


「あ……巴、さん……」


 その女の人を見た大輔さんの表情が変わった。


 それは、待ち焦がれていた人に出逢ったかのような、それでいて、遭いたくなかったような、そんな顔。


 そして、私が今まで見たことがないそんな大輔さんの表情を引き出した、この女の人は一体……。


「ねー! 本当に久しぶりだね! うんうん、元気してた?」

「げ、元気してたって!? 急に現れて何なんですか!」


 突然、大輔さんが叫ぶ。

 女の人を責めるかのように、女の人に縋るかのように。


「いや、ゴメンゴメン! あの時は色々あってね!」


 そんな二人を見ながら、私は消えてしまいたくなった。


 この二人には私が入り込むことができない何かがあって、私の居場所はなくて。


 私は……。


「ねえねえ、そういえば彼女は誰?」

「あ……か、彼女は中原楓さんといって、うちの喫茶店にバイトで来てもらっていて……」

「ふうん……そう……」


 そう言うと、女の人は私をまじまじと見つめる。


「へえ、可愛い女の子ね」


 そして女の人は大輔さんへと向き直り、ニヤニヤとした表情でからかうように話し掛ける。


 ……もう帰ろう。


 そう思ったその時――大輔さんが、隣に来て、私の手を握った。


「はい……立ち止まって、いつまでも昔の事にしがみついていた、そんなダメな俺の背中を押して、そして、前に進ませてくれた、大切な女性です……」

「だ、大輔さん……!」

「へえー……そっか」


 そう呟くと、女の人は踵を返す。


「なんだか私、大ちゃんの邪魔みたいだから、今日は(・・・)帰るわ」


 そう言って、手をヒラヒラさせながら立ち去ろうとして。


「あ、そうそう。私、隣町に引っ越したの」


 そう言い残し、そして、今度こそ彼女はいなくなった。


「だ、大輔さん……その……」

「楓さん、聞いて欲しい……」


 大輔さんが、真剣な表情で私の瞳を見つめる。


「巴さん……彼女への想いを引きずって、ただ彼女との思い出に縋っていた俺なんかのために、君はいつも傍にいてくれて、支えてくれて……だから……」


 私の胸が高鳴る。


「俺は……俺は、楓さんのことが好きだ。これからも、俺の傍にいて欲しい」


 息が止まるかと思った。


 だって、大輔さんが私のこと、好きって言ってくれたなんて!


 私……私……!


「はい……私も大輔さんが好きです……大輔さんが、大輔さんが……!」

「わ!?」


 私は気持ちを抑えることができなくて、大輔さんの胸に飛び込んだ。


「大輔さん……大輔さん……!」

「楓さん……」


 そんな私に、大輔さんが優しく抱き締めてくれた。


 私もそんな大輔さんの胸に顔をうずめる。


 遠くのお祭り会場からにぎやかな声がわずかに聞こえてくる中、私の想いは成就した。


 ◇


■凛太郎視点


「先輩……良かった……」


 桜さんが二人の姿を遠巻きに眺めながら涙ぐむ。


 二人にお祭りのお土産を届けようと、俺と桜さんが喫茶店に来たら、ちょうど大輔兄が先輩に告白する場面に遭遇しちゃった。


 だけど。


「大輔兄……やっと前に進むことを選んだんだね……二人とも、おめでとう」


 俺は、誰にも聞こえないような小さな声で、そう呟いた。


「桜さん、今日のところは……」

「ぐす……ん、そうだね。二人には、また明日にでも……」


 その時、俺の視界に彼女……巴さんが映った。


 巴さんは俺達に気づかないのか、ブツブツと呟きながら俺達の傍を通り過ぎる。


 そして。


「……コワシテヤル」


 思わず自分の耳を疑った。


「凛くん?」


 桜さんが不思議そうな顔をして俺を見つめる。


「あ、ああ、ごめん……そ、それじゃ行こうか」

「? うん……」


 俺は巴さんが歩いていった先を見つめながら、自分の背中に悪寒を感じた。


挿絵(By みてみん)

お読みいただき、ありがとうございました!


中途半端な終わり方となってしまいましたが、アフターストーリー夏祭り編はこれにて終わりです!

なお、この続きについては、第二部として中編程度の長さで、秋頃に本編再開を予定しております!

お楽しみに!

※現在連載中の「戦隊ヒロインのこよみさん」が落ち着けば、となりますが……。


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!


また、「戦隊ヒロインのこよみさんは、いつもごはんを邪魔される! ~僕の料理は、彼女の心と胃袋をつかみます!~」も絶賛連載中ですので、そちらもぜひ!

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【俺の理解者は、神待ちギャルのアイツだけ】
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の周りにはやばい奴しか現れないのか...(困惑)
[一言] 凛太郎の家系はあたおかを引いちゃうみたいで大変そうw
[良い点] おお! 男を見せた!! だが、これで終わりとは生殺しもいいところですよ涙
感想一覧
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