夏祭③
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アフターストーリー夏祭り編、3話目(全4回)です!
「あー……ダメだった……」
桜さんが破れたポイを見つめながら、がっくりとうなだれた。
「ハハハ、嬢ちゃん残念だったな! ホラ、残念賞!」
そう言って、露店のオヤジさんが金魚が二匹入った袋を桜さんに手渡した。
「おじさんありがとう。でも、できれば自分ですくいたかった……」
「ハハハ、毎度!」
俺達は金魚すくいの露店を離れ、また別の露店へと目移りしている。
「桜さん、次はどこに行く?」
「うーん、もう結構いろんなもの食べてお腹いっぱいだし、金魚すくいで私の才能の無さを凛くんに知られちゃったし……」
「や、別にそこまで落ち込まなくても……」
「だって、凛くんにいいところ見せたかったんだもん……」
アレ? こういう場合、いいところ見せるのは俺の役目じゃなくて?
そういえばさっきの金魚すくいも桜さんがやるって言って、俺にさせてくれなかったんだよなあ。
「ええと……なんで?」
「だって、デキるところを見せて凛くんをメロメロにして、ボクから一生離れられなくしようと思ったんだもん……」
ええー……金魚すくいにそこまで求めるの?
大体。
「俺は既に桜さんにメロメロで、一生離れたくないんだけど」
「ふあ!? ……ホラもう、そういうことさらっと言うんだから……大好き」
うん、モジモジしてる桜さんカワユス。
「……あら? ひょっとしてだけど……凛ちゃん?」
突然後ろから女の人が声を掛けてきた。
俺は慌てて振り返ると、そこにいたのは……。
「……巴、さん……」
そこにいたのは、“反町巴”さん……五年前まで大輔兄の喫茶店でバイトしていて、そして……大輔兄の好きだった人。
「あ、やっぱり凛ちゃんだったんだ! わー、久しぶり! あの頃はまだ小学生だったのに、いつの間にか私よりも大きくなっちゃって!」
巴さんは昔と変わらず屈託のない笑みを浮かべ、俺の背中をバシバシと叩いた。
こういうところはあの頃と変わってない。
「え、ええと、凛くん……?」
チョイチョイ、と俺の服の裾を引っ張られるので見ると、桜さんが不安そうな表情で俺を見つめていた。
「あ、ああ、桜さんは分からないよね。こちらの女性は反町巴さん。巴さんが大学生の時、大輔兄の喫茶店でバイトしてた人なんだ」
「そ、そうなんだ……」
「そそ。ところであなた、ひょっとして、凛ちゃんの彼女かな?」
巴さんがニヤニヤしながら桜さんに尋ねる。
だから。
「そうだよ。こちらは北条桜さん、俺の世界一大切な彼女だ」
そう言って、俺は桜さんの手を握った。
「あ……凛くん……」
「へえ、そうだったんだ。いやー、あの凛ちゃんが彼女作る歳になっただなんて、時間が経つのって早いわね!」
巴さんは腕組みしながらしみじみとした表情でウンウンと頷く。
「そういえば、巴さんはどうしてここに? ていうか、突然バイトも辞めちゃって、その……大輔兄もすごく心配してたよ……?」
「ああー……うん、あの時は私も若かったということで。で、私がこの街に来た理由だけど……」
「ああ居た! 探したぞ姉貴!」
長身の男が巴さんに指差しながら近づいてくる……って、コイツたしか、昼間ぶつかった……。
「全く……勝手にいなくなるなよな……アレ? 君は昼間の……?」
「あ、やっぱり。昼間はゴメン、よそ見してて」
「ああいや、それはこちらも同じで……」
「凛くん、知ってる人?」
「ああ、昼間桜さんを迎えに駅に向かってる途中で、よそ見しちゃってぶつかったんだ」
「あらあ、既に二人とも面識があったのね。そういえば二人とも、たしか同い年のはずね」
桜さんに昼間の経緯を説明していたら、巴さんがそんなことを言ってきた。
「同い年?」
「そ。ああそういえばまだ紹介してなかったわね。コイツは“史郎”といって、私の愚弟よ」
「ええと、史郎です。うちの姉が申し訳ない……」
「あ、ああいや。俺は立花凛太郎、よろしく」
「あ、ボクは北条桜」
「あ、よろしく」
何だか微妙な空気の中、お互い自己紹介を済ませると。
「そうそう、私達、隣町の富士見に引っ越してきたの。で、私と史郎はこの近くの砂川高校に二学期から通うことになるから」
「はあ!?」
え? え? どういうこと?
いや、史郎くんだっけ? 彼は転校ってことなんだろうけど、巴さんは!?
「うっふっふー! 実は私、砂川高校に教師として採用されたの!」
「ええ!? 巴さんって先生だったんですか!?」
「そうなの!」
ええー、まさか巴さんが高校教師だったなんて……分からないもんだなあ。
「じゃ、じゃあ俺達と……」
「あ、そうなの? だったら、二学期からよろしくね! ホラ! 史郎も!」
「はあ……メンドクサイ姉貴ともども、どうぞよろしく……」
「ああ……よろしく。大変そうだね……」
「察してくれてありがとう……」
「じゃ、そういうことだから、またね!」
「ああもう! 勝手に行くなよ!」
巴さんは嵐のように去っていき、弟の史郎くんは辟易した顔でその後を追った。
「ね、ねえ、凛くん。その、巴さんって……」
桜さんがおずおずと尋ねる。
そうだよな……ちゃんと説明しないと。
「……さっきも言った通り、巴さんは五年前まで喫茶店でバイトしてたんだ。そして……」
うん、桜さんには知っていてもらったほうがいい。
だから、俺は桜さんに伝える。
「……そして、大輔兄が好きだった人、だよ」
お読みいただき、ありがとうございました!
明日も夜更新予定です!
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