最後の一人-01
この作品は足りない部分を脳内変換で十分に補ってからお読みください。
目が覚めると見知らぬ天井が視界に映った。
私は大きな部屋の中に置かれたドラマや大型家具店でしか見たことのないような大きさのベッドの上にいた。
どうやらしばらく眠っていたらしい。
確か私はゲームをして、よくわからないことに巻き込まれて、助けられて、そしたら地面が崩れ落ちて…。
それからの記憶がない。
それより、ここは何処なのだろうか?他の皆は?
ベッドから立とうとした時、部屋のドアが開き一人の女性が入ってきた。
「お目覚めになっていましたか。」
シックな衣装が印象的な見覚えのあるメイドだ。
「貴方は、森の中にいた…。」
「申し遅れてすみません。私の名はリンドブルレイアといいます。先日は皆様方に対しての非礼の数々にお詫びを。そして、助けて頂きましたことに大変に感謝申し上げます。」
「わ、私は何も…。それより、他の皆さんは?」
「他の方々は食堂に集まっていると思います。歩けるようでしたら案内致しましょう。」
長い廊下をリンドブルレイアと名乗った彼女の後に続く。
「あの、身体の方は大丈夫なんですか?」
「はい、御連れの方に治療をしてもらい、負傷前よりも調子が良いくらいです。それにしても魔法とも魔晶とも異なる技術。長年生きてきましたが、一度も見たことも聞いたこともない。一体、貴方様方は何者なのですか?」
「私の口からはちょっと…。」
「恩義ある身でありながら出過ぎた事を申しました。申し訳ありません。」
「いえっ‼︎そういう訳ではなくてですね‼︎その…、私の知識だと説明しづらいといいますか…。」
リンドブルレイアさんは納得してくれたみたいだったが、他の人だったらもっと上手く会話が出来たのだろう。
気まずさに廊下の窓から見える景色に目を移した。
広い敷地には綺麗に選定された花壇や植木が広る。
その真ん中に銀髪の女の人が立っていた。
彼女のいる空間だけが、調和された花や木々達から切り離されているような。
まるで絵画の一枚のように映った。
「こちらが食堂です。」
リンドブルレイアさんの声で振り向くと聖堂を思わせるような大きな扉あった。
扉の奥には見慣れた二人がいた。
二人は入室した私に声を掛けてくれた。だが、二人の様子は芳しくなかった。
やつれた顔で溜め息を溢す真壁さん。
テーブルに突っ伏したまま微動だにしない委員長。
私が気を失っている間に何があったのか。
「どうして見付からないのよ〜…。」
真壁さんの途方に暮れた言葉が私に最悪の想像をさせた。
地面が砕け気を失う前、あの時一緒にいてこの場にいない人物がただ一人。
視界が回りそうになった。
「んもうっ‼︎もう少し物は大切に扱って、社ちゃん‼︎」
真壁さんの声の向けられた先。
私の背後、開けられたドアの先に人が立っていた。
先程廊下の窓から見えた人。
すらりと伸びた脚。モデルのような高身長。銀髪のショート。そして、右腕が肩から無かった。
真壁さんが詰め寄り胸ぐらを掴むと泣きながら揺すり説教をしている。
間違いなくこの人が武者鎧の人。
素性が判別出来ないのと声が電子音だったので先入観で思い違いをしていたらしい。
社さんは女性だった。
「近接格闘系は射撃系より武器の消耗少ないはずなのに、なんであんたは一戦一戦で刀を折るわ刀を投げるわ刀を無くすわ‼︎ MⅡの携帯武装ならいざ知らず、AFの武器や損傷なんて大損害よ‼︎あんたの斬艦刀なんて中級チームなら一つ丸々買えちゃうわよ‼︎こんなご時世だし、一体何処に落として来たのよ〜⁉︎」
テーブルを囲む中、真壁さんがハンカチを噛みながら恨み節を溢す。
当の社さんは座ったまま気様にうたた寝を始めた。
委員長はというと先程からピクリとも動かない。
「あの、委員長はどうしたんですか?」
「あぁ、委員長ちゃんは止めたんだけどね〜、自業自得だから。」
そう言って真壁さんはテーブルの端に退けてある皿を目の前に置いた。
シンプルながら高価そうな皿。
その皿の中になんとも形容の出来ない料理?があった。
「この視界にモザイク入りそうな物体Xを食べちゃったのよ。やめなさいって言ったのに、『見た目で異世界料理を判断するのは尚早だと思います。』って。結局、口から煙吐いて倒れちゃったわ。」
「私達はアンドロイドですよね?食事が出来るんですか?」
「オープンβ時には無かったアクションだけど、プレイヤーのアンケートで正式稼働時に追加されたのよねぇ。人口臓器によって食べ物もエネルギー変換出来るって設定で、主にエネルギー供給がままならないフリーのメンタルモデルでは必須パーツ。あと味覚等の感覚共有が今年中に実装発表されるとかだったかしら?まぁ、待ち切れない気持ちは分からなくもないけど、これはねぇ…。」
そう言って真壁さんは物体Xに指を刺した。
テーブルに並んだ料理を作ったのはリンドブルレイアさんではないらしいが申し訳なさそうに頭を下げる。
「仕方がないわねぇ。食事を取る必要はなさそうだけど、菖ちゃんも寝起きでお腹空いてるだろうし、私も小腹が空いちゃった気がするわ。だから私が何か作って来てあげる。ちょっと厨房に案内してくれる?」
そう言うと真壁さんはリンドブルレイアさんに連れられて部屋を出て行った。
残された私はというと倒れたままの委員長さん、座ったまま寝ている社さんと共に真壁さんが戻って来るまでの間、沈黙の時を過ごしたのであった。
「じゃじゃ〜ん‼︎真壁お姉さん特製、なんちゃってチャーハンよ‼︎具材はひ・み・つ(は〜と)‼︎」
「まさに神の腕。まさかゲイザーがあんなふうに…。」
リンドブルレイアさんが尊敬の眼差しで真壁さんを見つめている。
それよりもゲイザーとはいったいなんだろうか?
「おかわりもあるわよ?ささっ、冷めないうちに召し上がれ。」
真壁さんがそれぞれの前にチャーハンを並べた。
食欲をそそる芳ばしい香りが鼻をくすぐる。
「いやぁ〜おいしそうだねぇ〜?私の分も貰ってもいいかなぁ〜?」
全員の分を用意し終わった時、先程まで誰も居なかった席から声が掛かった。
真壁お姉さんは自分が切り盛りする夜のバーでお摘みを作ったりしている。
料理の腕もさることながら、話し上手。
悩み相談などで男女共にファンが多い。
※過去、大学の友人曰く
「オカマバーは親しみ易く楽しい」らしい