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精錬の鋼鉄英雄  作者: 妖 猫撫で
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異世界


 「異世界召喚は読んで字の如く異世界に召喚されることです。私達の場合、人でなくっているという点において異世界転生と呼べなくもないですが、召喚物においては呼ばれた際に特殊な力を得るというのが定石ですので、その類という位置付けでいいでしょう。私としては召喚や転生物が最近は多いので近未来で企業の悪事を暴く方向へ進む系を希望しますが今までの情報だと厳しそうです。もちろん異世界系も嫌いではありません。大好物です。」


 「あんた、どこかで頭打った?大丈夫?頭痛が痛い?」


 「無様に頭を壁にぶつけていたのはあなたです。バカにしないでください。そもそも『頭痛』は頭に痛みがある状態で、後の『痛い』は必要ありません。」


 憐みの目を向けて額に手を伸ばそうとする真壁さんを委員長は振り払い喰ってかかっている。が、この場合は私も憐んでしまいそうだった。


 「やっぱり情報不測ねぇ〜。と、なると…。」


 真壁さんは委員長に払われた手を振りながら私達を囲む森の一角を見据える。

 先の見通せない鬱蒼と茂った森。

 ただ夜の空だけがその先で何が起こるのかを表すように赤く染まっていた。






 「もっと…もっと早く‼︎」


 森の中を目にも止まらない速度で走る影があった。

 焦りの中、彼女の心の中にここしばらく感じることのなかった苛立ちという感情が芽生える。

 彼女は部下達と共にある物を極秘に回収する任務を受けていた。

 周囲の人間だけでなく自分達の身内にもスパイがいる可能性を考慮して入念に計画をし変装まで行った。

 しかし、それらは全て無駄になった。

 どうやって計画を知っただとか、どこから情報が漏れただとかどうでもよくなる程だ。

 彼女の敵はこの森を更地にするつもりどころか、地図上からも消すつもりらしい。

 現に少し離れているとはいえ近くの町と小規模な集落の二つが蹂躙された。

 敵の性格からして一人たりとも逃さない。一人たりとも楽には死ねないだろう。


 事態は急を要した。

 彼女の部下達は自ら囮に進言し、彼女もそれが最善であると判断して命令を下した。

 万に一つも生きては帰れないだろう。

 部下の彼ら、彼女らの命を無駄には出来ない。

 全力を出して走れればどれだけいいことか。

 だが彼女が本気を出すと部下が囮になったことさえ無駄になってしまう。

 自分の無力さに対する怒りに噛み締めた唇から血が滴った。


 そして、怒りによって本来避けれるであろう攻撃に気付くのがほんの数瞬遅れるのだった。






 「さっきまで威勢はどこに行ったんですか?真壁姉?」


 「だ、だって〜、なんか虫がいそうで怖いんだも〜ん。」


 「この暗闇の中じゃ、真壁姉の厚化粧の方がよっぽどホラーですよ。」


 鬱蒼と茂る森の中を迷う事なく一直線に進んでいく。

 暗闇の中でも日中と変わらないのはシステムでサポートしてくれているらしかった。

 進む順番は委員長を先頭に、私、真壁さんという並びだ。

 ちなみに真壁さんは私の背中にぴったりとくっ付いていて、どっちが初心者かわからない。

 

 「ぎゃっ⁉︎今、何か動かなかった‼︎そこの草むら‼︎いや〜‼︎」


 「お、重い…。」


 「さっきから聴こえてくる地鳴りの影響でしょう?隠密行動中にうっさいです、真壁姉。あと菖さん、邪魔なら捨ててくれていいですから。」


 「あははっ…。」


 「ひどりぼっじはいやぁ〜‼︎」


 「あぁもう‼︎聴こえn…」


 振り返りざま委員長が言葉を言い終える前に、私と委員長は真壁さんによって宙に投げ出された。

 一瞬のことで脳の情報処理が追い付かない。世界がスローモーションに映った。

 刹那、樹々をへし折りながら現れた岩石によって真壁さんが吹き飛ばされた。

 自由落下からの解放。地面に落ちた。

 何が起きたのかわからなかった。

 何が起きているのかわかりたくなかった。

 目の前に千切れた腕が転がっていた。

 千切れて間もないであろう血の滴る腕。

 私のものではない。

 委員長のものでもない。

 真壁さんのものでもない。

 誰かの咳込む音がした。

 視線の先に女性が倒れていた。

 場違いなメイド服を着ている。その生地は真っ赤に染まっていた。

 どうしてだろうか。私は咄嗟に駆け寄ってしまった。

 駆け寄っても私にはどうしようもなかった。

 彼女の片腕は肩から先がなく、メイド服を真っ赤に染めているのは腸がはみ出した腹部からの出血だった。


 「まだ、人間がいたのですか…。早く…、逃げなさい…っ‼︎」


 彼女は血を吐きながらも懸命に言葉を搾る。


 「いったいどうすれば…。そうだ…‼︎委員長、委員長さん‼︎」


 委員長は動かない。


 「委員長さん⁉︎」


 「何をしても無駄だ。なんせ俺がお前ら全員をブチ殺してやるからな。」


 求めた委員長からの返答ではなく予想だにしない答えが帰ってきた。

 動きを止めた委員長の視線の先。巨人が立っていた。

 三メートルはあろう体躯。それに見合った片手の斧を持ち、必要最低限の鎧という姿であったが、体表自体がゴツゴツとして既に岩石のように見える。

 そして、その身体には豚の顔が載っていた。





 「俺の名はボォガス。ボォガス・プルトン。」


 巨獣は自らの名を名乗った。

 実に無駄な行為である。

 なぜならボォガスは自らの目に映った獲物は例外なく皆殺しにしてきた。

 それはこれからも変わらないだろう。

 ではなぜそんな無駄な行為を行うのか?

 オークという種族がいる。

 豚の頭部、数ある獣人の中で肉体的な力は中程度ではあるものの分厚い脂肪から生まれる耐久力を持つ。

 だが、オークの恐るべき所は別にある。

 それは貪欲なまでの食欲とそのエネルギーから作られる性欲。

 そしてオークとは個ではなく、群だ。

 他種族さえも苗床に出来るゴブリンとは違うものの、繁殖力では決して引けをとらない。

 個の食欲が群になり大地に根差す動植物を地表から地中まで喰い荒らす。

 ある種の災害である。

 ボォガスはそのオークの上位種、その中の更に突然変異種であった。

 一般的なオークの一回り以上大きな体躯。

 種族特有の脂肪も倍以上なだけでなく、外皮すらも鋼鉄の鎧のように堅い。

 全く異なる別種と言っても過言ではない。

 圧倒的な力から生まれる自尊心。

 『自分はオークではない。オークなどでは収まる器ではない‼︎絶対なる強者‼︎選ばれし存在‼︎最強の種族と称される龍種にすら負ける道理などない‼︎』

 それ故に自身をオークと呼ばれることを忌み嫌い、全ての命を群ではなく個で蹂躙していく。

 それがボォガス・プルトンという怪物であった。


 

 「こんな所にまだ人間の生き残りがいるじゃないか?俺の兵じゃないとはいえネズミの駆除も出来ないとは使えん奴らだ。アレを探し終えたら処分するか。しかし…。」


 巨獣が血塗れのメイド服に目を向ける。私達のことは全く眼中にないらしい。

 眼中にないついでで見逃してくれればいいが、そうはいかないだろう。

 

 「忌まれし女。この程度の強さなのか?仮にも龍種の血を引いているのだろう?それともあの噂は単なるホラ話だったのか?不意打ちにも気付けない。攻撃も半端だ。これでは囮になった連中は無駄死にだな。だが…。」


 巨獣は背負っていた何かを放り投げた。

 投げられた物は『グチャッ』と鈍い音を立てて地面に落ちた。

 上半身のない人だった物。

 それを指差し笑う。


 「お前を慕っていた、ソレ。なかなかに気持ちが良かった。囮の中では最高だ。すぐに壊れなければ持ち帰ってしばらく使ってやっても良いほどだったぞ?」


 「キサマァァァァァァッ‼︎」


 血塗れのメイドは声にならない叫びをあげ立ち上がった。

 大気を震わす程の咆哮。

 そして変化が訪れた。

 黒い瞳が燃え上がる怒りのように紅く染まる。

 血が滲むほど噛み締めた口からは牙が見える。

 手先は爪が伸び鱗で覆われた。

 背中の衣服は破れ漆黒の翼が、長い丈のスカートからは脚よりも太い尻尾が現れた。

 シニヨンで纏められた髪が解け、頭部から角が生える。

 その姿はまさに龍だと言える。

 だが無理だろう。

 未だに失った腕からの出血が止まっていない。

 視点が合っていない。

 気力だけで立っている状況、いつ死んでもおかしくない。

 

 しかし、この状況をどうするか。

 あのデカブツは私達のことを身逃さない。

 目的は別にあるようだけど、順番的にこのメイド。

 その後、目撃者は皆殺しいうスタンダードな流れが妥当か。

 戦って勝てる相手だろうか?

 見ため通りに近接戦闘?

 それともファンタジーよろしくで魔法とか?

 直撃じゃないとはいえ飛ばされた真壁姉はどうなった?

 武器を出そうにもコントロールパネルは反応しないし、仮に反応しても換装に時間が掛かる。

 逃げる?

 手持ちはイベント用の照明弾のみ。

 菖は戦闘未経験。撤退戦なんてとてもじゃない。

 メイド服には囮になってもらう?

 一瞬なら効果はあるかもだけど真壁姉に怒られるのが目に見えるし、何より社に軽蔑されるかもしれない。

 何より、いつまでもこうしては考えている時間はない。


 そして戦況が動き出した。



 

 メイドが敵へと一歩を進め…。

 間に入った影、菖に阻まれた。


 「邪魔です。退いてください。」


 「退くことは出来ません。止まってください。」


 「私は人を殺す気はありません。ですが、邪魔をするなら殺しますよ。」


 「それでも退けません‼︎だって、これ以上無茶をしたら死んでしまいますよ‼︎」


 「あなたには関係のないこと。それに私一人の命でアイツを殺せるなら十分です。」


 前へと進む身体を正面から押し止めようとするがびくともしない。

 まるで子供と大人が押し相撲をしているようだ。

 

 「いい加減離れなさい‼︎」


 「嫌です‼︎」


 私はこの人を死なせたくなかった。

 駄々を捏ねた子供が親に抱き付くようにしがみ付く。

 どんなに無様でも構わない。これ以上進ませない。傷口だって止血しないといけない。

 この人は優しい人だ。出会ったばかりだがわかる。

 仲間のために心から怒れる人。

 私のことだってその気になれば言葉の通りに殺せるだろうし、容易く振り解けるだろう。

 だからこそ私は…。


 「茶番はもういいか?」


 直後、全てを薙ぎ倒す暴威が振るわれた。

 咄嗟に反応出来たのは長年身体を鍛えてきたからだろう。

 菖は名も知らぬ彼女を守る為に迫り来る暴威の前に飛び出した。

 人外を容易く切り飛ばす大斧を人間が、たった一人の少女が身を挺して防げるものか?

 子供にさえも理解出来る結末。

 そして…。


 巨獣の一撃は宙へと弾き飛ばされた。






 全身から力が抜けて立ち上がれない。

 文字通り自分の全てを捧げた賭け。電磁装甲は成功したらしい。

 真壁さんの薦める通りの防御性能だった。

 ただ委員長の言う通りにエネルギー切れにもなった。

 もう一歩も動けそうにない。

 でも、これでいい。

 予想だに出来ないことに驚愕に歪んだ巨獣の顔。

 一瞬の隙。

 

 銃声が数発鳴り響き、直後に視界が閃光に包まれた。

 閃光で視界がホワイトアウトすると頭の中に電子音が鳴り、数秒も経たずに視界が元に戻った。

 委員長の射った閃光弾は巨獣の視覚を奪っていた。



 「委員長、今のうちにこの人を連れて逃げてください。真壁さんと二人なら…。」


 「ふざけているのはさっきの自殺行為だけにしてください。真壁姉だけで頭痛の種です。」


 「でもっ‼︎現に私は足手まといで‼︎」


 「何を勘違いしてるんですか?甚だしいです。」


 「…。」


 「私達は『チーム』です。『仲間』を見捨てるなんてありえません。」


 「きゃ〜ん‼︎委員長、かっこい〜い‼︎」


 急に背後の森から真壁さんが顔を出した。


 「真壁さん⁉︎良かった、無事だったんですね‼︎」


 「心配させてごめんね、菖ちゃん。」


 「遅いです、真壁姉。便秘だからっていつまでクソしてるんですか?」


 「便秘ネタから離れなさい‼︎っていうか、年頃の女の子がクソとか言っちゃダメよ‼︎まぁいいわ、遠くまでぶっ飛ばされて遅れちゃったのは事実だしね。それと照明弾での位置情報ありがとね、委員長。代わりといってはなんだけど朗報を持ってきてあげたわよ?」


 真壁さんは背後の暗闇へと手を伸ばす。

 それを合図としたように人影が森から現れた。

 漆黒の鎧武者。

 背中には大きな日本刀。


 「菖ちゃんには改めて紹介するわ。私達『zodiac』の一人、大鳥居(おおとりい) (やしろ)ちゃんよ‼︎」

毎日毎日気が気が滅入りそうですが、


読者(いるのかな?)の為にも自分の為にも続けて書いていきたいです。





転職しんどい…orz

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