間章〜学習〜
毎度ではありますが、読む際に足りない所などはご自由に想像して読んでください。
「…であるからして、魔晶は産出地の影響を受けやすい鉱物です。それ故に上位鉱物の精晶も同様であると長らく考えられてきました。しかしながら産出した精晶の性質が土地と差を持つことも多々あり、また全く真逆の性質を持った事例もあります。このことからジュニオ様は環境による魔素が魔晶、精晶を生成するのではなく、精晶が魔晶や魔素、環境を生成するとの見解が持たれています。」
異世界は様々な面白いものとの遭遇だった。
例えば、手の中で転がっている小石。
魔晶と言われ、魔法の源である魔素というものの結晶体だ。
魔法なんてものを知らないとただの綺麗な石にしか見えないのだが、ゲームシステムによる赤外線スキャンなどに様々な反応を示した。
特に興味深かったのが回線速度の変化である。
異世界にいるのだから元の世界ゲームの回線速度など関係ないと思うだろう。
しかしながら、この魔晶に近づく程に表示される回線速度が上昇する。
bpsでEの単位を目にするとは思わなかった。
また、回線速度が速い程、コントロールパネルを含むシステムの調子が良いようだ。
無線子機のように一人に一つの所持を考える。
他にも挙げるならば、私や真壁姉達は文字の読み書きが出来ないのはおろか、相手の話す言語を理解していない。
一見すると会話が通じているのだが、口元を観察すると頭が理解する発音と口の動きが合っていないのだ。
これもゲームシステムの影響なのだが、設定画面の外国語自動翻訳をオフにすると本来の異世界語に戻るし、私達も異世界語を自動で発せなくなる。
委員長はリンドブルレイアの講義を聞きながら、気付いたことをARノートに纏めていた。
今はこの世界の魔法について講義の最中だ。
講師としてリンドブルレイアともう一人のメイドの二人が務めていた。
彼女はゾンビワーウルフのハティ。
なぜゾンビなのかというと文字通り一度死に、ジュニオの手によって生き返ったからである。
死んだのは大きな豚の獣人、ボォガスと遭遇した日のこと、あの大きな手に胴体を握り潰され、上下バラバラにされたそうだ。
蘇ってからも暑がりらしく露出の多い服装なのだが、腹部の縫合が丸見えだ。
本来ならば魔法はその筋のジュニオに教えてもらうはずだった。
今、間借りしているこの屋敷も原理はわからないが土地ごと別の空間に移動させてしまうほどの実力である。
だが面倒くさがりの性格から、ものの数分で自分自身を空間移動で消えてしまった。
仕方なく代わりにとリンドブルレイアに頼んだのだが、ここでも問題が起きた。
彼女は竜種ゆえに教えることが出来ないのだった。
竜種はブレス以外に魔法を使う個体もいる。
彼らが使う魔法は規模こそ違えどもその他の種族が使うものと変わらないのだが、体質が根本から違った。
人種が大気中の魔素を体内に吸収、形として練り上げ、体外へ放出し魔法として顕現させる。
その一連の動作を竜種は呼吸をするのと同じように行う。
息を止めたり、大きく吸ったりなどの緩急は出来ても無意識の反応を教えることは不可能だ。
生まれたばかりの赤子が誰に教わった訳でもなく呼吸を行うのと同じである。
そこで白羽の矢が立ったのがワーウルフのハティであった。
元々ワーウルフの中でも魔法の特性が強い種族であったのだが、ゾンビとして蘇生してからは魔素の流れがより鮮明に見えるようになったらしい。
ぶっきらぼうな性格で教鞭を断っていたのだが、リンドブルレイアの命令は断れないらしく嫌々手伝っている。
今ではほぼ廃れているが戦闘系の種族においては強者の命令は絶対という掟があるらしい。
そういう意味ではリンドブルレイアはここの屋敷の頂点だった。
「今日は初の実習になります。魔法を形作るのは魔素を認識出来るかの他に、担い手の創造力によるところが大きいです。ですから最初は連想しやすいもの、日常生活で馴染みのものが良いと思います。」
そういうとリンドブルレイアは持ち上げた片手の上にバスケットボール程の火球が出現させた。
「おいガキ。姉御のは参考にしない方がいいぞ。無詠唱であんなん投げ付けられたら、雑兵なんて骨も残らねぇ。」
口汚く言うハティの言葉を理解する。
サーモグラフィーに映る火球の温度は裕に数千度を超えている。
魔法は形作るのを呪文などの詠唱で補うらしいのだが、目の前のリンドブルレイア然り、屋敷の主人であるジュニオ然り、詠唱する素振りも見せない。
「リアちゃん凄いです。」
「え?リアちゃん?私のことですか?」
「はい。リンドブルレイアだと長いので愛称でリアちゃんです。嫌でしたか?」
「いえ!嫌とかではなく!今まで言われたことがなく、初めての経験で…。」
リアと愛称で呼ばれたことが気恥ずかしいのか。
動揺を隠すように発動した火球を片手で握り潰して消滅させた。
しかしながらいつもはスカートの中に隠れている尻尾が顔を出し揺れている。
頭隠して尻を隠さずというのだろう。
それではお待ちかねの魔法の実演だ。
大気中にあるという魔素はスキャンで認識出来る。
ではこれらをどうやって集めるか。
これもイメージが重要なのだろう。
「集める…吸引…吸引力の変わらないただ一つの…。」
目をつぶってイメージを膨らませていると周りから感嘆の声が聞こえてきた。
どうやら上手くいっているらしい。
次は集めた魔素を火に変換するという工程に入る。
だが魔素とはどんなものだろうか?
火を起こすのに必要な酸素の役割を持つのだろうか?
それとも熱量を持つ物質?
発火物というのも考えられる。
発火物、ゲームCL的にイメージしやすいのは薬だろうか?
爆破物と言えばSOLさんの専門分野だった。
機動要塞を破壊するレイド戦でMVP報酬を目的に他のチームを要塞の外壁を建築爆破して巻き添えにしてたっけ。
火薬は何がいいんだろうか?
TNT-Ⅺ?
C-Ⅴ?
トリデカニトロキュバン?
ゲーム内だと名前だけでよくわからない。
全部混ぜてしまえばいいか。少量なら大丈夫だろう。
こうして屋敷の一角は木っ端微塵に吹き飛んだのだった。
この日、屋敷の戦闘種族間の格付けで委員長は指折りに数えられるようになった。
コロナで職等に問題が起こっていましたが、六月中旬から普通?に戻るかもしれないのでペースが落ちると思います。
応援もないけどね^ ^