ドワーフ-07
続けるために相変わらず切れ切れの走り書き投稿です。
足りない部分などは各自脳内で自由に補填を行なって読んでください。
人の多い街から遠く離れた所にヴィオールという村がある。
村といっても数える程の家しかなく、住んでいるのも数世帯しかない。
昔からこの地域の人々は土地が貧しく農作物などの恵みが少ないのを狩りで補って生活していた。
だが年々と獲物の量も減りつつあることに加え、隣の街まで行けば炭鉱の仕事やギルドに集まる人を相手に商いなどで安定した収入を得られることもあり、住民は一人また一人と減っていった。
今では狩猟で生計を立てているのはたった一人になってしまった。
クラインにとってその日はいつもと変わらない一日であるはずあった。
朝、日が昇る前の肌寒い時間に起き、冷たい水で顔を洗う。
狩猟道具の持ち忘れや弓などの不備がないかを確認したら、一切れの干し肉を口に詰め込み近くの森へと出立する。
半日ほど森を歩き回り獲物を探し、日が傾き出す前に帰路に着く。
野ウサギ一匹でも獲れれば上出来だ。
森の生き物の数が減ってきているというのもあるが、クラインが猟師として日が浅いからということの方が大きい。
彼は元々、地方を渡り歩いていた考古学者であった。
そんなある日、ヴィオール村の近くを訪れていた時のことだ。
クラインのいる調査団が考古学の調査中にモンスターに襲われるということが起こった。
そして、その現場を救ったのがヴィオール村の老齢な猟師であった。
助けられて憧れを抱いた。というわけではない。
律儀だったクラインは後日、再び礼を言うためだけにヴィオール村の猟師の家を訪れるのだが、そこで猟師の孫娘に一目惚れしたのであった。
生まれてから学術一筋だったクラインにとって初めてのことだ。
それからというもの彼は何かと理由をつけては村を訪れるようになった。
初めは戸惑っていた彼女も実直な彼に徐々に惹かれていった。
そんなある日、彼女の叔父がモンスターに襲われ大怪我を負う事件が起こる。
幸い命に別状はなかったが脚が思うように動かなくなり、狩猟を行えなくなった。
狩りが行えないのは死活問題だ。
特に近年ではヴェルツェル鉱山での鉱物産出量が減り、職にあぶれる人達が多くなっていた。
クラインは猟師に猟を教えて欲しいと頼んだ。
結果は顔に一発の鋭い拳が帰ってきた。
甘く見るな、ということだ。
しかし、彼は村へと移住し、教えてもらえないのであればと独学で狩りを始めた。
弓の才能がないのがわかってからは、学んできた知識を元に罠を作ることに重点を切り替えた。
泥だらけになりながら初めて獲物を捕まえた時、嬉しさのあまりに猟師の家に転がり込んだことがあった。
再び顔に一発の拳をもらった。
それでも毎日森へと向かい、帰りには頼まれてもいないのに僅かばかりの収穫のほとんどを玄関先に置いていく。
今日もそんな代わり映えのしない一日だと思っていた。
それに気付いたのは偶然だった。
普段の森とは異なり、鳥の囀りさえも聞こえてこない。
ふと猟師のおじさんがモンスターに襲われた時の話を思い出した。
その日も生き物達の声が聞こえてこなかったという。まるで何かに怯えたように。
息を殺し、周囲を警戒する。
まるで世界が変わったような錯覚すら覚える。
しばらくしてその異世界の主を発見した。
オウルベアだ。
熊の体にフクロウの頭部を持ち、その特有の羽根が空気中の魔素と干渉して自身の発する音を吸収、相殺する。森の暗殺者。
しかもただのオウルベアではない。
以前、村の猟師を襲った個体。隻眼のオウルベアだ。
通常のオウルベアよりも身体を覆う羽根や冠羽が大きい。
あの大きな羽根が通常の個体では起こせない空間までの消音作用を起こしているのだろうか。
少なくとも今はその効果が自分にとっては救いになっている。
この隙にこの森から脱出し、村の皆を避難させる。
算段を練りながらクラインは慎重に慎重を重ねて後退を始める。
その時、風向きが変わった。
クラインが立つは風上であり、風下にはオウルベアという位置。
そして、フクロウの頭部を持つオウルベアの嗅覚は鳥類ではなく、熊と同等の鋭敏さを持つ。
森の暗殺者は無音の咆哮をあげた。
社会不安から異世界召喚で逃げたい。
胃に穴空きそう、やばみ…_(:3 」∠)_