ドワーフ-03
ストレスによる胃痛に耐えながら走り書き。
毎度の事ながら脳内補填を行なって自由に世界観を入れてください。
依頼の引き受け手が集まらないという事態を想像しなかかった訳ではない。
掲示板に貼り出された洋紙に書かれている依頼の難易度は《金》。
依頼の概要はモンスター退治という単純なものではあるものの対象のモンスターがなんであるのか、その規模はどれ程のものになるのかが全く不明であったことや、鉱山深層へ向かったドワーフ王国の先見隊が全滅していることを考慮してのランクであった。
高難易度に挑める実力者は限られる。
そして何よりも依頼は信用度が重要なのだ。
大人数が必要になるような依頼は国や街などの有力者が持ち込む場合が多い。これは依頼内容の信憑性を確認したり報酬の契約などの立証をするためである。
その点においてヴルツェル山脈鉱山の依頼は一個人であるということが傭兵が引き受けたがらない理由になっていた。
どれくらいの時間が経ったであろうか。
ギルドを訪れた当初に耳障りだと感じた喧騒も今では静かに感じる程だ。
ドランクは喉を潤そうと持ち上げたジョッキ持ち上げて中身が空であったことを思い出した。
普段よりも些か酒を飲むペースが早い。
酒に強いドワーフ族ではあるが、焦りの影響か少し酔いが回っているようだ。
彼は酔いを覚まそうと席を立った。
長年商売をしていると多くの客に出会う。
ましてやここは大陸の中心地、貿易の要所の一つであり、各国に点在するギルドの中で最大の傭兵斡旋所が存在するからだ。
各地のギルドで腕を上げた傭兵は名を上げるためにこの都市を訪れる。
いわば傭兵達の聖地と言える。
故に自ずと傭兵を見る目が養われた商人は多い。家屋を持たない露店商に至ってもだ。
例えば、通りの反対側を今通り過ぎた傭兵。
傷だらけの軽鎧着を着ている男。
一見すると旧式の鎧を買い換えることが出来ないのかと思うが、鎧と比べて中に着込んだ鎖帷子は真新しい。
使い慣れない道具よりも使い慣れた道具を基点に足りない部分、弱点はしっかりと抑えている。
なかなかに腕が立つと見る。
逆に今、うちの商品を見ている連中はダメだ。
傭兵は自分の力を引き出すように装備を選ぶ。派手な傭兵は少なくはない。故に周辺では見たことのないような服装をしていても驚きはないものだ。
一見だが装備はとても質の良いものだというのが遠目でもわかる。
だが、装備に疲労の跡がないところを見るに英雄に憧れる何処ぞの貴族様が職人にでも装備を作らせた挙句、よりにもよって初陣の地をこの都市にでもしようと考えているのだろう。
従者を侍らせながら、そんな輩は何年経っても現れる。
結果は言わずもがな。
高価な装備品を後続の冒険者にただで恵んでやることになっている。
そんな憶測を巡らしていると連中の一人、長身の男が声をかけてきた。
「ねぇ、露店商の人。ここで売ってる地図一枚頂戴。」
「銅貨十枚。ってなんだこりゃ。何処の貨幣か知らないが、うちじゃこんなん使えないよ。共通の貨幣か、帝国か王国、共和国の貨幣は持ってないのか?」
「うそ〜ん!リアちゃん、ジュニオがくれたお金使えないわよ〜!」
「すみません、真壁様。世情に疎いのですが、もしかしたら渡された地図と同様なのではないかと。」
「何百年引き籠ってんのよ、あのニ〜ト〜!」
「働かずに生きていける、羨ましい。」
「社さん、それはちょっとどうかと…。」
「大丈夫です。社は私が養ってあげます!」
「金が無い連中に売るもんはないね。冷やかしなら他所でやりな。」
「露店商、物々交換とかは出来ますか?屋敷で狩りをしている間に色々集め過ぎまして。」
「いくら性能テストとはいえ、あれは狩りという名を騙った虐殺ね。社、委員長を怒りなさい!こんなでもあんたは神職でしょ!」
「無駄にしなかったから大丈夫じゃない?全部食べたし。」
「え?社さんって神職なんですか?」
「そうよ、社は知り合いの神社の跡取り娘、正真正銘JK巫女。このゆる過ぎる頭のせいで想像出来ないだろうけど、スポーツも勉強もハイスペック。転校してきた社に学年一位の座を奪われた委員長が泣きじゃくったくらいよ?」
「あれはなかったことにしてください。社と張り合おうとしていた私が浅はかだっただけです。社は私にとって神様です!」
「やばいわ、この子。絶対メンヘラの素質あるわ。」
後半、目の前の連中が何を言っているのか頭に入って来なかった。
喋っている内容の意味がわからないということではない。
委員長と呼ばれた背の低い少女がいつの間にかに持っていた大袋の中身見せられたからであった。
袋から出てきたのはアルミラージの角にオウルベアのクチバシ、バジリスクの眼球、その他に爪や毛皮、羽根など、どれも珍しい品の数々であった。
モンスターコレクターと言われる人間は少なくはない。
しかしながら、物好きな蒐集家のコレクションにしては同一物の数が多い。
鑑賞用の他、保存用などを加味しても納得できる数ではない。
それにこれらのモンスターは難易度が高いものばかりで入手難度から値段まで上がる。
アルミラージは一本角を持つ普通の兎という外見だがその角はダイヤモンドよりも硬く、また空気中の魔素を吸収し常に角の周囲には風が高速で回転している。
高速で回転する風の角と強靭な脚力は鋼鉄の盾はおろか、鎧ごと人間に風穴を空ける程の威力を持つ。
小型モンスターではあるものの群体規模のゴブリン集団と同じく難易度は銀。
だがアルミラージ群を持つモンスターであり、金クラスの依頼に属する。
オウルベアは熊の体にフクロウの顔と翼をもつ大型モンスターであり、クマ型のモンスターと変わらないように見えるが特出すべきはフクロウの能力である。
体を覆う羽根が魔素と干渉し、自身が発する音を掻き消す効果を生む。
夜の森で野営をした傭兵の集団がオウルベア一匹に全滅。
誰一人として抵抗した形跡が無かったなどよくある話だ。
ランクは銀ではあるが、状況次第ではそれ以上である。
同じく特殊な能力を持つモンスターの中にバジリスクがいる。
大型のヘビ型モンスター、その鱗は攻城用の大弓を弾くほどであり、その体躯からなる締め付けは鎧を紙細工のように押し潰す。
遠距離だと効果的なダメージを与えづらく、近距離だと捕まれば一瞬。ダメ押しに毒まで持っている。
だがバジリスク最大の武器はその瞳である。
その眼を直視してしまうと生き物は体内の魔素の流れを乱され、魔力循環の異常から石化させられてしまう。
金クラスの上位モンスターといっても過言ではない。
それらの素材は安く見積っても一か月は遊び潰せる程の金額になる。
コレクターならば雑に袋などには詰め込まないものである。
では目の前にいる彼らは一体何者なのか?
傭兵にしてもベテランの醸し出す雰囲気はなく、どう見てもお上りの田舎者である。
「露店商、聞いてますか?」
「え?あ、ああ、悪いな、ちょっと考え事をしててよ。それより、こいつらはさっさとしまいな。こんな外じゃ誰が見てるかわからねえ。こいつらを換金するなら街の中心地にあるギルドに行きな。他所でもやってくれるがボッタクられるぞ。地図はタダでいい。ほらよ。」
「地図をタダでくれるんですか?」
「なに、親切でやってるんじゃない。こちとら商売だ。今後とも御贔屓にってな。」
後にこの露店商は街一番の商工会を作り上げることになるのだが、それはまた別の話である。
誰も見ていないだろうけど、書くことは持続力を持たせたり自信をつける練習だね。
もう少し経てばコロナを収束するかな?