91 訓練初日
初日
「えっと・・・では、始めますが本当に城ではなくて我が家でよろしかったのですか?」
俺が城に行こうと思っていたが、セリュー様のご希望は我が家での訓練になった。陛下的にはローリエとの接点が増えるのと、俺の元なら安心という気持ちなのだろうが・・・そんな大人の事情を抜きにそう聞くとセリュー様は頷いて言った。
「はい、フォール公爵に教えていただくならこちらがいいです。ご迷惑でしたか?」
「いえ、大丈夫ですが・・・」
迷惑でないと言えば嘘になるが、それを言うほど野暮ではないので黙っておく。大丈夫、フォール公爵は大人の男だから。漢字の漢で、漢と読む男だから。
そんな感じで始めたセリュー様の剣術の授業なのだが、しばらく素振りを見せて貰ってから納得する。教え方が良かったのかこの年にしては相当剣術の腕は良かった。確かにこれほどの才能なら他の講師に任せるのが良さげだなと納得する。
この子より年下で同じく剣術を教えているマスクはあの年齢から基礎を作りはじめたのでまだまだ粗いがセンスはあるような感じ。逆にセリュー様は才能がある上にコツコツ下積みがあるような感じがする。鍛えれば俺や騎士団長を越えそうな逸材だが、やはりこれに教えるなら絶対にローリエと敵対させない道を選ばせないといけないな。
俺はそう決意して素振りを中断してセリュー様を呼んだ。近づいてきたセリュー様は軽く汗は出てるが体力的にはまだまだ余裕そうだった。ふむ。
「セリュー様、私と試合をしましょうか」
「え?フォール公爵とですか?」
「ええ、セリュー様にこれから教えることは口頭よりその方が早いでしょう。王国の剣術は一通り習いましたね?」
わかってはいるが一応聞くとセリュー様は頷いた。
「はい、一応は」
「なら、それをモノにするための実践をしましょう」
「あの・・・でも、僕、そこまで強くないので・・・フォール公爵には全然届かないというか・・・」
「ええ、それで構いません。今は届かなくてもいつか届いてくれればね」
その言葉と同時に俺は木刀を構える。それを見てから慌てて構えるセリュー様に俺は笑顔で言った。
「私から攻撃はしません。セリュー様は落ち着いて状況を見てからきちんと判断して王国剣術で戦ってください」
「落ち着いて判断・・・」
「ではいきますよ・・・スタート」
その言葉で無理やり試合を開始させる。セリュー様はこちらに遠慮してかぎこちなく打ち込んでくるが、それでも上手く木刀を扱えているので多分あとは気持ちの問題なのだろう。なら・・・俺は、一度木刀を下げてからセリュー様の動きに合わせて木刀の軌道に入る。そしてそのまま木刀を片手で掴んでから驚くセリュー様に言った。
「こんな甘い攻撃では傷一つつきませんよ?あなたがお優しいのはわかりますが、剣術の時は気持ちを切り替えましょう。剣は何かを守るために振るものですから」
その言葉に目をぱちくりさせてからセリュー様は気持ちを引き締めて打ち込んできた。先程よりも強い打ち込みだが俺はそれを普通に受け流す。『この程度では効きません』そんな気持ちを伝えると、それに対してセリュー様は笑顔を浮かべて打ち込んできた。まるで格上の相手にすべてをぶつけるのが楽しいみたいな純粋な笑顔に俺は少なからずこの子に王の器を見たのだった。




