82 フォール公爵夫妻
夜会スタート
会場に着くと、丁度タイミングが良かったのかそれなりの貴族が集まっており、一斉にこちらに視線が集まった。隣のサーシャがその視線にたじろぎそうになっていたので俺は優しくリードするように囁いた。
「大丈夫。私がいるからね」
「旦那様・・・」
その言葉に安心したように笑うサーシャ。その笑みにみとれそうになるがなんとか理性を保ってイケメンカリスさんで進むことにする。何人かと挨拶をするが、なるべくサーシャに負担にならないようにうまく話を切り上げる。そうしていると、よく知ってる人物を見つけたので声をかけた。
「こんばんは、グリーズ子爵。このような場所でお目にかかるとは思いませんでした」
「これはフォール公爵。こないだは"訓練"にお付き合い頂きありがとうございました」
そう笑うのはこないだ熱戦を繰り広げた騎士団長殿。にしてもこないだのあれを訓練の一言片付ける度量の広さには驚かされる。隣にはえらくべっぴんな美人さんがいるが、多分奥さんだろう。まあ、家のサーシャほど美人さんではないけどね!
「いえ、いい運動になりましたので」
「いつでも来てくれて構いませんよ。歓迎いたします」
「はは、妻と子供を愛でるのに忙しいので難しいですな」
そう言うとサーシャが少しだけ嬉しそうな表情を浮かべるのがわかった。グリーズ子爵は俺の言葉に笑ってから隣の美人さんを紹介した。
「紹介いたしましょう。妻のルイサーです」
「いつも旦那がお世話になっております」
「これはどうも。ではこちらも、私の愛妻のサーシャです」
「さ、サーシャ・フォールです」
顔を軽く赤らめつつもそう笑顔で挨拶をするサーシャに内心で悶えそうになっていると、グリーズ子爵夫人のルイサーがサーシャに微笑んで言った。
「サーシャ様はとても旦那様に愛されてるのですね」
「あ、愛され・・・そ、そうですね。旦那様はとても優しくて格好いいですから」
「えへへ」と笑う我が愛妻サーシャさん。ぎゃー!可愛えぇ!!なんなのこの子は俺を悶死させるつもりなの?そうに違いない可愛い嫁さんだ。そのサーシャの言葉にルイサーはしばらく呆気にとられてからくすりと笑った。
「羨ましいですね。家の旦那は脳筋なので交換して欲しいくらいです」
「そ、それはダメです!」
「ええ、こんなんでも私の旦那ですからそんなことは冗談でも言いませんよ」
そう言ってサーシャをからかうようにして遊ぶルイサーに俺は少しだけ嫉妬したのでサーシャを引き寄せてから微笑んで言った。
「大変仲良くご歓談の中で恐縮なのですが、私は妻を独り占めしたいのでそろそろ返してもらいますね」
「ひ、独り占め・・・?」
「ふふふ、いいですよ。それにしてもサーシャ様は本当にフォール公爵に愛されてますね。良ければ今度遊びに伺ってもよろしいでしょうか?」
そう聞かれてサーシャが俺を見たので俺は微笑んで言った。
「サーシャが招きたいと言えばいくらでも。グリーズ子爵とは面識もあるしその奥方は良識的みたいだからあとは好きにしていいですよ」
「で、でしたら是非いらしてください」
「あら、嬉しいですわ。では息子も連れて遊びに行きますね」
そう言ってから話を切り上げようとするが最後にルイサーは俺を見て言った。
「そうそう、息子がお世話になったと旦那と息子からお聞きしました。そのお礼にも伺いますね」
「特にお礼を言われるようなことはしてませんが、妻に会いにいらしてください」
そんな感じで国王陛下が来るまで貴族共の注目を集めつつ過ごすのだった。やっぱり着飾ったサーシャが目立つがなんとかそちらに話がいかないように調整した俺は頑張った方だと思う。




