29 両親の訪問
二人からすれば何年か会わないうちに息子が激変していたという光景なのだろうか・・・
色々と準備をしていたら、そんなこんなであっという間に二人が来る日になった。とはいえ、両親が来るだけなのでそこまで大がかりなことはしなくていいだろう。一応、二人にとってもこちらは思い出深い家だろうしね。
代々、公爵家の当主は引退後は領地で余生を過ごすことが決まっており、まあ、国にあるこの家・・・本宅には昔両親も住んでいたので、下手な誤魔化しは効かないだろう。
そうでなくても、掃除は普段から使用人の方々が頑張ってくれているから大丈夫だろうし、家の装飾なんかはセンスのある公爵夫人のサーシャが細かく指示をしているので問題はないだろう。
サーシャが元気なら二人の出迎えはサーシャに任せたかったが・・・まだ体調が安定してないサーシャに無理はさせられないので、俺は早めに終わる仕事を片付けて時間より少し早く待機していた。
「おとうさま?おじいさまとおばあさまはどんなかたなんですか?」
本日の授業が終わったローリエと共にお茶をしながら待っていると、ローリエはそんなことを聞いてきた。
どんなか・・・俺もカリスさんの記憶でしかしらないからなんと言えばいいかわからないが・・・
「とても高貴で優しい人達だよ」
「やさしい・・・おとうさまとおなじくらいやさしいの?」
どうやら我が愛娘の優しいの基準に俺が含まれているようだ。親としてこれ以上ないくらい嬉しいことにだらしなく頬を緩めそうになるが、なんとか渋い漢のイケメンカリスさんスマイルをキープしてローリエの頭を撫でて答えた。
「そうだね・・・私が優しいかはわからないが、家のことを第一人に考えられる凄い人ではあるね」
「おとうさまはすごくやさしいです!」
「うん。ありがとうローリエ」
撫で撫でと優しく頭を撫でると、ローリエは「えへへ・・・」と嬉しそうに笑みを浮かべていた。ヤバい・・・やっぱり家の娘が天使すぎるだろ!
「カリス様。オスカー様とリシャーナ様がお戻りになりました」
そんな風に娘とのふれあいを楽しんでいると、タイミングよくジークがそんな報告をしてくれた。
ふむ・・・まあ、娘との時間も大事だけど、とりあえず二人を出迎えないとな。俺はローリエに手を出してから笑顔で言った。
「さて・・・ではローリエ。いこうか」
「はい!」
その差し出した手をローリエはぎゅっと可愛らしいその手で嬉しそうに握った。身長差があるので手を繋ぐと中腰になって辛いが・・・まだまだ孫の顔を見るまでは現役を貫きたいので、そこは根性でなんてことないように装った。
「お久しぶりです。父上、母上。」
玄関にたどり着いて、俺は二人に笑顔でそう言った。
その俺の笑顔にどこか驚いたような表情を浮かべる初老の男性・・・ちょうど、鏡に写るカリスさんが一気に何十年か老けたような容姿の男性は、カリスさんの父親であり、前公爵のオスカー・フォールだ。
「お久しぶりねカリス・・・元気そうで安心しました」
そして、俺の笑顔に驚きつつもそう安堵の表情を浮かべる女性は、前公爵夫人で、カリスさんの母親であるリシャーナ・フォールだ。
「はい。お二人もお変わりないようで安心しました。それと・・・ローリエ挨拶できるね?」
「は、はい・・・」
俺の言葉に俺の足の裏に隠れていたローリエが控えめに前に出てどこか緊張した様子で挨拶をした。
「おじいさま、おばあさま。こんにちは」
「ローリエね・・・あなたが産まれてきた時に会ったきりだからかなり久しぶりだけど・・・大きくなったわね」
どこか慣れた様子でローリエに笑みを浮かべる母上。母上がローリエと話をはじめたので、俺はいまだにフリーズしている父上に声をかけた。
「父上。お久しぶりです」
「カリス・・・なのか?」
「そうですが・・・どうかなさいましたか?」
「いや・・・なんだか、しばらく会わないうちに随分と表情が柔らかくなったと驚いてしまってね」
まあ、確かにカリスさんは両親にかなり険しい表情ばかりみせていたから驚くのは無理ないが・・・俺は特に気張らずに答えた。
「家族が出来れば男は変わるものです。父上にも経験があるのでは?」
「そう・・・なのか?」
無論、人格が変わりましたなどと言って信じてもらえそうもないので、ある意味方便だが、まあ別に間違ったことは言ってないので、問題はないだろう。
そんな風に首を傾げている父上と、ローリエと微笑ましげに会話をする母上。お似合いの二人だが、この後でさらに驚かされることになるとはこのときの二人は知るよしもなかったのだ。
・・・まあ、9割俺のせいだけどね。




