21 娘の誕生日を盛り上げねば!
シリアスにはなりません。イチャラブのためのイベントです(多分・・・)
「決戦は明日・・・抜かりはない!」
「あの・・・カリス様?あまり厨房で大声は出さないでください」
ノリノリでキメポーズをとっていると、そう言ってきた我が家の執事のジークさん。いやね、大切な日だからはりきる心を抑えきれなかったというか・・・横に最愛の二人がいれば、そこまで心を乱すことなく、イケメンカリスさんでいられただろうが・・・しかし、明日のミッションのためにはどうしても二人が側にいるのは不都合だったので仕方ない。
「それにしても・・・まさかカリス様がお嬢様のご生誕を祝うなどと言われた時には私も驚きましたよ」
「まあ、これまで構ってあげられなかったからな。それに、娘の誕生日を祝うのは当たり前だろ?」
そう言うとジークはどこか微笑ましそうに頷いた。
「わかりました。でもあまり無理はなさらないよう・・・私は仕事に戻りますので」
「ああ。頼んだジーク」
そう言ってから厨房から姿を消す我が家の執事さん。まあ、俺が騒がしいので注意しにきたのだろう。
何故俺がこんなテンション高く厨房で作業をしているのか・・・理由は明日に迫ったローリエの誕生日のためだ。
去年までは祝ってなかった行事だが、俺がカリスさんになった以上はやらない選択肢はない。
「それで・・・カリス様。明日の料理の話なんですが・・・本当にケーキはカリス様にお任せしていいんですか?」
「ああ。他の料理は私よりガーリックの方が上手く作れるだろうからね。期待してるよ」
隣で話を聞いていたガーリックはそれに対して力強く頷いて言った。
「もちろんです!カリス様から頂いた珍しいレシピを生かさせてもらいます」
「ああ。頼む」
ガーリックには異世界式のパーティー用の料理レシピを渡してある。まあ、お誕生日のお祝いらしい料理だが、この世界にある材料でどこまで再現できるかはガーリックの料理人としての力量の見せ所だろう。
俺が担当するのは定番であり、メインのケーキ。お菓子を作ることに関してはそこそこ自信がついてきた今日この頃・・・娘の誕生日を最高のものにするために努力は惜しまない。
「さて・・・とりあえず、ローリエのケーキは・・・やっぱり甘いものがいいか」
愛娘はかなり甘いものが好きなので、生クリームをたっぷり使ったケーキなどが定番でいいだろう。とはいえ・・・
「サーシャも食べれるようにするならあまり甘くしすぎない方がいいか・・・」
俺の嫁は娘よりあまり甘すぎるものは好きではないので、そこが悩みどころだ。もちろん、ローリエの誕生日なんだからローリエのためのケーキを作るのは当たり前だが・・・やはり嫁にも美味しく食べて欲しいので決断に迷う。
「そういえば最近、サーシャは酸っぱいものが欲しいって言ってたな・・・なら、サーシャにはレモンのケーキでも作って、ローリエにはとびきり甘いケーキがいいかな?」
ここ最近顔色が悪い時があるサーシャ。まあ、そこまで深刻ではないみたいだが・・・少しでも元気が出るものを作りたいという気持ちも少なからずあった。
厨房の一角を借りて早速試作にとりかかる。レモンのケーキというのを実際に作るのはこれが初めてでどんな味になるかドキドキだったが・・・これはなかなか上手く出来た。
問題はローリエの誕生日用のケーキだが・・・納得のいく仕上がりにどうしてもならない。
用意できる材料は一通り揃えて、何度か作り直してみているが・・・
「なんか違う・・・」
思っていたよりも甘さ控えになってしまう。いつもならここで妥協するところだが・・・せっかくの娘の誕生日だ。出来る限りの努力はしたい。
「カリス様!」
そうして何度かの失敗を繰り返して、そこそこ納得のいく仕上がりになった頃に、何やら慌てて厨房に駆け込んできた侍女。見覚えのある顔・・・確かサーシャにつけている侍女だったな・・・俺は試作の手をとめて、駆け込んできた侍女に視線を向けて聞いた。
「どうかしたのか?」
「さ・・・サーシャ様が・・・」
「サーシャがどうかしたのか?」
何やら不穏な気配に俺はなんとなく顔を真剣にして聞くと侍女は俺の予想通りの言葉を口にした。
「サーシャ様がお倒れにーーー」
言い切る前に俺はダッシュしていた。脇目もふらずにサーシャの部屋を目指す。
何があったのかはわからないが・・・サーシャが倒れたというのを聞いて黙って見過ごすほどに俺の心は冷たくはないつもりだ。
「サーシャ・・・!」
どうか無事でいてくれ・・・そんな思いで一直線にサーシャの元へと向かっていた。




