149 バジルくんは甘えたい
甘えたい
「ゆりーだっこ」
「・・・はい。バジル様」
微笑ましいやり取りをするバジルと侍女のユリー。これがこの二人の日常なのだから、凄いものだ。
「あ、ぱぱ!」
そうしてその二人ラブラブ空間に入るのは申し訳なかったが、俺はユリーに用事があるので近づくとバジルが先に気がついた。
「・・・カリス様。バジル様にご用ですか?」
「いや、君に用事があったんだ。ユリー」
「・・・私ですか?」
不思議そうにバジルを抱き締めるユリーに俺は頷いて言った。
「君の働きぶりを見て思うところがあってね」
「・・・何か不手際がありましたか?」
「逆だよ。バジルのためによく働いてくれているからね。ご褒美をあげようと思ってね」
使用人を贔屓はしないが、こうしてよく働いてくれる人間にはある程度の待遇をしているのだ。事実専属侍女のメンバーや、執事候補のミゲルとかにも何度かしているが、ユリーにはあまりしたことがない。理由は色々あるが、本人があまり求めないからだ。
じゃあ、何故こんなことを言うのか。理由はバジルが側にいるからだ。断りにくい雰囲気を作りやすくなるのは言うまでもないだろう。
「・・・私は、バジル様のお側にいられるだけで幸せです」
その答えも当然のようにわかっていたので俺はため息混じりに言った。
「だからこそ、君には少しでも褒美を受け取って貰いたいんだがね。それなら言い方を変えよう。君は何が欲しい?」
「・・・私はバジル様のお側にーーー」
「いるだけで本当に満足なのかな?」
その言葉にぴくりと止まったので俺は言った。
「バジルのことを大切にしていることはわかっているさ。だからこそ君が今後それだけで満足するのかを知りたかったんだ」
「・・・どういうことですか?」
「わかっているんだろ?なら、想像してみるといい。バジルが他の女の子を隣に置く光景を」
少し意地悪だが、早めにこの手のことを済ませるに越したことはない。バジル本人の意志が変わる可能性があっても、少なくともユリーだけは気持ちをきちんと確かめて欲しいのだ。俺の言葉にユリーは酷く悲しげに顔を歪めたので俺はそれを見てため息をついた。
「やはりか・・・バジルはフォール公爵家の長男だ。だからこそ君が隣にいたいなら、そのことをきちんと確かめることは必要になる」
「・・・私にどうしろと?」
「さてね。君次第だよ。ただ一つ言えるのは私はバジルが選んだのであったら否定はしないということだけだ」
バジルの頭を撫でてから部屋から出ていく。ミントの件があったのでフラグはある程度把握したかったが・・・まあ、少しだけ余計なことをし過ぎたかもしれない。まあ、おそらくバジルがユリーに恋心を抱くのにそこまで時間は必要ないだろうとは思っている。何しろ身近に俺とサーシャという最高の夫婦がいるのだ。




