139 帰国当日
朝の出来事
「ようやくだ、ようやく帰れる」
「そうですね」
本日はめでたく帰国の日になった。凄くわくわくしていると、生返事をする侍女のナナミ。少しだけへこんでいるようので俺は言った。
「メフィとの差を気にしても仕方ないだろ?」
「カリス様はなんでもわかるのですね」
「まあね」
ここ数日でメフィと共に仕事をしてその力量の差にへこんでいるのだろう。同じ時期に侍女になったのにこの差は何かというような感じのナナミに俺はため息混じりに言った。
「あれは愛の力だから比べる必要はないさ」
「やっぱり、メフィ凄く変わりました。あんなに楽しそうに働くメフィ見たことありません」
「ま、楽しいだろうね」
叶わぬはずの恋が叶って、尚且つその人の側にいれるならこれ以上幸せなことはないだろう。
「カリス様はいいんですか?メフィがセリュー様と仲良くして」
「婚約者の父親としては許せないだろうね」
「その言い方。やっぱりわかってて許してますね」
「まあ、いいだろう。そもそも君も気づいているだろう?」
「・・・やっぱり、セリュー様とメフィは相思相愛なんですね。お嬢様もそれを承知していると」
「まあ、そうなるかな。これは極秘だと覚えておきなさい」
本当はセリュー様が自分の淡い気持ちを捨ててメフィを選んだとは説明する必要はないだろう。わざわざ初恋を捨てて自分を一途に想う少女を選んだのだ。そんな少年のデリケートな部分を隠すのは大人として当然だろう。
「でも、お嬢様はいいんですか?セリュー様とは」
「ローリエは・・・あの子はまだその気持ちを抱ける相手に巡りあえてないからね」
まだ、異性のことを意識することはないみたいだ。気になる人でもいれば安心と同時に男親として複雑にはなるけど、それでもローリエが選んだのならきちんと応援するのが親の務めだ。
「そういうナナミこそ、オレンジとはどうなの?」
「ど、どうって別に、私とオレンジはそんな関係じゃ・・・」
「まあ、オレンジは鈍そうだからな」
「それは・・・まあ、そうですが」
「告白するなら早くした方がいいだろう。ライバルが増えないうちにね」
その言葉に少しだけ渋い顔を浮かべるので思い当たることがあるのだろう。ローリエそっくりなので応援したくなる。まあ、顔だけで性格までは似てないけど。
「カリス様はどうしてそこまで色々とわかるのですか?」
「年寄りはどうしてもこの手の話に鋭くなるのさ」
そうしてはぐらかしながら、俺はいよいよ迫っている帰宅の時に歓喜する。早く帰ってサーシャやローリエ、ミント、バジルを可愛がろうと決意を新たにするのだった。




