閑話 寂しい母娘
「お母様、失礼します」
「あら、どうかしたの?」
夜遅く、たまたま起きていたサーシャの部屋を訪れたのは娘のローリエだった。
「すみません、あまり心配はかけたくなかったのですが・・・ご迷惑でしたか?」
「何を言うのです。貴女は私と旦那様の大切な娘なのですから、もっと色々頼っていいのですよ」
「お母様・・・はい」
そうして嬉しそうに微笑んでからローリエは少しだけもじもじしてから言った。
「その・・・実は眠れなくて、あの・・・一緒に寝てもいいですか?」
「ええ、来なさい」
そう言われてからいそいそとローリエはサーシャの隣に寝ると少しだけ恥ずかしそうに言った。
「こういう時はいつもはお父様がいるのですが・・・子供っぽすぎますかね?」
「貴方はまだ子供だからそんなことで恥ずかしがることはないですよ」
そう優しく言うサーシャも、ローリエの気持ちが痛いほどにわかっていた。カリスのいない家というのはどれだけ使用人や家族がいても寂しいものだ。不安になる気持ちを押し殺して左手の薬指にある指輪をそっと触れてからサーシャは聞いていた。
「ローリエ、寂しいですか?」
「・・・はい。お父様がいないのは凄く寂しいです。でも私はお姉ちゃんだからちゃんとしないといけません」
「そう、私もね、本当は不安なのですよ。旦那様はいつでも私達の側にいてくれたので、こんな気持ちになるのはいつ以来でしょう」
カリスと結婚してから、ローリエが産まれたばかりの頃は何度も味わっていた孤独感のはずが、もう随分昔に感じてしまう。それほどにカリスはいつでも自分達の側で優しく支えてくれる存在となっていたのだ。
「お母様、お母様はお父様のことが大好きなんですよね?」
「・・・ええ、もちろんですよ」
「私もいつかはお父様みたいな素敵な殿方に会えますか?」
「ええ、きっと大丈夫です。だって、貴女は私と旦那様の娘なのですから」
その言葉に嬉しそうに微笑むローリエを見ながら、サーシャは確かに母親としての顔をしていた。もちろん無理をしていないわけではないが、カリスの不在の間家をまとめるのも自分の仕事だとわかっているからだ。
妊娠期間で、精神的にもかなり不安定な時期ではあるが、子供達と左手の薬指の指輪を支えにして気丈に振る舞う。きっと早くカリスは帰ってくる。だからこそ信じてカリスの帰ってくる家を守ってみせるとサーシャは意気込む。
そんな母親の姿にローリエも安心したようでやがて眠りへと落ちていく。そうしてカリス不在の夜は過ぎていくのだった。




