137 留学のお話
今後出番が増えそうな予感?
「マベリス殿下を我が国にですか?」
帰国までの日取りが短くなった時に、フレデリカ王国の国王陛下に呼び出されて言われたのがそんなことだった。
「うむ、正確には貴殿に預かって貰いたいのだ」
「それは友好目的ということでよろしいでしょうか?」
「ああ。もちろんだ」
「ですが、私の本職は外交官ではありません。それにマベリス殿下を我が家で預かるのはあまりよろしくないと思いますがそれでもですか?」
「無論、その辺は考慮してある。貴殿に預けると言っても、住みかなどはこちらで手配しよう。頼みたいのはマベリスの教育なのだ」
この陛下からそんな言葉が出てくるとは思わず黙って聞いていると、国王陛下は少しだけ何かを抑えるような表情をしてから言った。
「お恥ずかしい話だが、先日マベリスから聞かれてしまったのだ。『何かお役に立てることはないですか』とな。あれが兄弟に劣等感を持っていたことは知っていたし、その上で私はマベリスに自由に生きて欲しかったのだが、そのことで相当苦悩したのだろう。それでも今まではそんなことは決して言わなかった。貴殿に会ってから憑き物が落ちたように爽やかになっていた。礼を言おう」
どうやらマベリス殿下はいい方向に向かっているようだ。
「礼など不要です。私は大人として子供を導いただけですから」
「・・・貴殿は不思議な人物だな。いや、私の知識にある貴殿のイメージとは合致しないのだろうな」
まあ、《剣鬼》なんて呼ばれているのに子供には優しいとかギャップだよね。狙ってはないけど。ただ、子供を見ると無意識に大人として成すべきことをやってしまうのだ。ローリエのような境遇の子供には特にそうなりやすい。
「そういえば、貴殿にも子供の中にはマベリスに近い年頃の娘がいると聞いたが・・・確かセリュー殿下の婚約者だそうだな。惜しいことだ。もしその婚約がなければマベリスを貴殿の娘とくっ付ければより良き関係を築けただろうに」
「まあ、それは本人達によりますので」
まさかセリュー様がすでにローリエとは別の道を歩いているとは言えずにそう言う。まあ、あの少年がローリエを狙うことは多分ないだろう。まあ、ローリエは可愛すぎるから惚れる可能性はあるだろうが、それを考えているとなかなか悩ましくなるだろうからね。
まあ、面倒を見る生徒が今更一人二人に増えても同じだ。それが王子だろうとやることは変わらないし、それにそれで早く帰れるならそれが一番だろう。
そうして引き受けたことを後々後悔することになることにこの時の俺は気づけなかった。




