閑話 マベリスの第一歩
フレデリカ王国第三王子、マベリス・フレデリカにとって、家族というのはとても遠い存在だった。産まれてから物心がつく頃には自分は期待されていないということがわかっていた。
母親は第五側妃で、上には優秀な兄が二人と姉が三人。そして下にも四人、自分より遥かに期待されている弟と妹がいるのでマベリスは焦ってしまっていた。
母親はいつも、マベリスにもっと頑張れと言ってはくれるが、それが期待ではなく、叱咤なのはわかっていた。母親が見ているのは常に自分ではなく、父親であることはわかっていたのだ。
その父親にしても、他の兄弟よりもスペックが低いマベリスのことをそこまで気にしてはいなかったので、マベリスの孤独は募るばかりだった。家族からも、使用人ですら自分を馬鹿にするようなことを言うことで、マベリスは強くなろうと決めた。力をつけて誰もが無視できない存在になろうと思ってた。
そんなマベリスが友好のために来たセリューとカリスに会ったのはまさに運命だったのだろう。自分の存在をアピールするためにマベリスは二人に喧嘩を挑み・・・見事に負けたのだった。
完敗だった。手も足も出なかった。
「ちくしょう・・・なんで勝てない!」
誰よりも頑張ってた自信はある。何事にも手を抜かずにきちんと頑張ってた。それなのに同い年のセリューに手も足も出なかったのだ。悔しくて悔しくて地面に八つ当たりをするマベリスにカリスは言ったのだった。
「そんな風に頑張っても意味はありませんよ」
自分の何がわかると言うのだと言うとカリスは見事にマベリスの事情を言い当てたのだ。そして今のマベリスでは誰も認めてはくれないと言う。
「・・・!なら、どうすればいいんだよ!わかってるんだよそんなことは!じゃあ、俺はどうやったら愛してもらえるんだよ!どうやったら兄上達を見返せるんだよ!」
完全に八つ当たりだった。しかしそんなマベリスに対してカリスは頭を撫でながら、あくまで穏やかに言ったのだ。
「マベリス殿下はとても根性がある。こうして誰かから愛されたいともがく姿は決して悪いものではないですよ。ただ、方法が間違っているんです」
一体何が間違っていると言うのだろうか。そんなことを思うマベリスにカリスは続けて言う。
「こうして威張りちらして、辺りに噛みつくのは愚かな行いです。本当に人に愛されたいならまずは愛される自分になること。そして自分から人を愛することが大切です」
そうしてカリスは優しく微笑むと言うのだった。
「貴方が求める愛情が今、違うと思うならそれをきちんと相手に伝えることです。それがダメなら、自分がその愛を誰かに向ければいいんです」
「誰かを愛する・・・」
「ええ、それが近道です。本当に心から好きになった相手をきちんと守り抜く。そして愛することは男にとって最高の栄光ですからね」
不思議とその言葉と手の温もりに涙を流していた。この人は自分のことをきちんと見てくれているとわかったからだ。だからこそ思わず聞いていた。
「俺も・・・誰かに愛して貰えるのかな?」
「ええ、約束しましょう。君はきっととびきりの美少女を愛して愛されることになるでしょう」
その言葉に救われる気持ちになった。そして決めた。マベリスはこの日から彼のようになろうと。彼のような格好いい人間になろうと。そしていつか誰かをちゃんと愛して、愛されようと心に誓ったのだった。




