124 殿下の様子
アドバイス
「やあ！」
一直線に打ち込んでくるセリュー様。メフィに気持ちを切り替えてから前よりも剣術の稽古に励むようになったので、剣から伝わる力が前よりも上がっているようだ。
「ふぅ・・・」
「お疲れ様ですセリュー様」
「うん、ありがとうメフィ」
そうして一段落すると微笑ましくイチャイチャしはじめるので、少しだけ呆れてしまうが特には言わないでおく。
「なんか、最近殿下がえらくやる気なのはなんででしょうね」
「あれを見てわからないならマクベスくんには恋愛は不向きだね」
セレナ様の教育の賜物なのかマクベスは見事な鈍感キャラになっている。まあ、別にいいけど。
「そういえば、セレナ様が最近忙しそうにしてるんですが、何か知りません？」
「まあ、知ってはいるかもしれないね」
「何だか含んだ言い方ですね。ま、いいけど」
そう言いながらタオルを取りに言ったのと入れ替わりでセリュー様がこちらにやって来て言った。
「フォール公爵。続きお願いします！」
「いや、もう少し休憩ですよ」
「いいえ！僕には立ち止まる暇なんてありませんから」
明らかにハイになって自己管理が出来てないので俺はメフィに手招きをするとメフィに聞いてみた。
「メフィ。セリュー様の体調の管理は任せるけどできるよね？」
「体調管理ですか？」
「そう、例えばこうしてやる気なのはいいけど、明らかに無理をしているときにストッパーになるんだよ」
「フォール公爵、僕は無理なんてしてません」
「そう強がるのはいいんですがね。そのやり方では愛する者を不幸にしますよ」
その言葉にセリュー様は驚いたような表情を浮かべてから慌てて聞いてきた。
「そ、それはどういうことですか！？」
「確かに頑張るのは必要ですよ。愛する者のために時には無茶も必要です。でもそのタイミングを間違ってはいけない」
「タイミング・・・」
「そうです。貴方が無理をするのは愛する者を守るときだけでいい。それ以外の無茶はかえって愛する者に負担をかけます」
そう言いながら俺はメフィに聞く。
「もし仮にセリュー様が自分のために無理をして倒れたらどうする？」
「それは・・・凄く心配します。それに申し訳なくなります」
「分かりますか？守られる側にも負担はかかります。自分一人でなんでも解決出来ればそれは素晴らしいことですが、その時に守られる側の気持ちを忘れては何の意味もありません。本人も心も全てが揃って初めて守るという行為に意味が産まれます」
俺もこうして言ってはいるがサーシャには心配をかけてしまっている。だからこそきちんと守る相手の気持ちを考えることを忘れてはならないのだ。その言葉にセリュー様は衝撃を受けたように唖然としてからキラキラした瞳でこちらを見て言った。
「やっぱりフォール公爵は格好いいですね！」
久しぶりに見たその憧れの視線に俺は少しだけ寂しい気持ちにもなる。もしかしたら彼がローリエと結ばれた未来もあったかもしれない。まあ、そんなものは所詮可能性の話だ。この子にも守るべきものが出来たのだからきちんとどうしてやるべきか導くのも大人の務めだろうと思い俺は稽古を再開するのだった。
