閑話 少年の初恋と失恋と
セリュー様の決心
どうすればいいのか。結局迷いながらセリューは先ほどのカリスの言葉を反芻していた。
『実るかわからない恋から確実な方に行く覚悟も時には大事です。あなたの優しさで救われる者もいるのだから。ただ、そうするならきちんと手順を踏むこと。そして、相手にも生涯を共にするだけの覚悟を持ってもらうことが大切です』
「やっぱりフォール公爵には敵わないなぁ・・・」
全てを見透かされた上で選択肢を押し付けないやり方。あくまで大人として自分のことを導いてくれるカリスの言葉にセリューは改めて尊敬の念を抱きながら迷ってしまっていた。
ローリエのことを好きな気持ちは確かにある。しかし、その好意が本物かと問われると自信がなくなる。反対にメフィからの好意をどう思うかと聞かれれば、ここ数日で健気に自分のことを慕ってくれる彼女に少なくない好意が芽生えてきていた。
優柔不断、女々しい。何を言われても否定できないその状況でセリューはふと、最初にメフィから告白を受けたときのことを思い出していた。
『はい。それがどんな言葉でも私はあなたの側にいます』
あの時は思いもよらない言葉に動揺していて見ないようにしてしまっていたが、メフィは少しだけ寂しそうな表情を浮かべていた。それはきっと使用人の自分ではセリューに釣り合わないと、叶わない恋だとわかっていたからだろう。
「僕は・・・」
「あれ?セリュー様。こんなところでどうかしましたか?」
そんなことを思っていると後ろから声をかけられる。その声の主はまさにセリューの心を揺さぶっている少女の一人で憧れの人の娘で、婚約者のローリエ・フォールだった。なんと声をかければいいか迷ってからセリューは思わず聞いていた。
「ローリエ嬢。ローリエ嬢は僕のことを好きですか?」
「?好きですよ」
「その『好き』は友愛ですか?」
「えっと・・・そうですね」
控えめにそう返されたことで、セリューは少しだけスッキリしてしまう。だからこそセリューはもう一度聞いた。
「ローリエ嬢はもし僕との婚約が無くなればどうしますか?」
「それは・・・そうですね。多分お父様が次の婚約を持ってくるまで努力をして少しでもお父様のお力になれるように頑張ります」
そのローリエのカリスのことを考える表情にセリューは敵わないと悟ってから、同時に覚悟が決まった。目の前で泣きそうな女の子と自分の憧れの人の娘。天秤に掛けるまでもなかった。だってセリューは自分のことを救ってくれたカリスのような人間になりたいのだから。だからこれからは彼女を守るために全力を尽くそうと決めた。そしてそれはセリューの初恋の終わりと、新たな気持ちの芽生えの始まりでもあった。




