94 役に立ちたい
分岐点
「あ、おとうさま!」
部屋にいくと丁度暇だったのか一人で本を読んでいたローリエ。お付きもいないので幼い口調になっているローリエを抱き上げてから俺はローリエに微笑んで聞いた。
「話がしたかったんだが大丈夫かい?」
「おはなし?」
「ああ、実はなお前に縁談がきてるんだ」
「えんだん・・・こんやくしゃのことですか?」
「ああ、セリュー様との縁談だ」
そう言うとローリエはキョトンとしてから頷いて言った。
「つまり、わたしはおいえのためにせりゅーさまとこんやくしたほうがいいのですか?」
「いや、そこまでは言わない。ローリエが嫌なら断ろうと思ってるから」
「でも、ことわるとおとうさまがたいへんなんじゃ?」
やはり幼いながらも婚約について理解しているローリエ。賢い娘に思わず反射的に可愛がりそうになるが、それを制してから俺は微笑んで言った。
「ローリエが望まないことを望むつもりはないさ。確かに貴族としては大きなことだが、それ以前に子供を守るのは親の役目だからね」
別に俺はセリュー様のことを嫌ってるわけではないし、頑固親父のように娘の婚約を否定しているわけでもない。ただ、時間が必要なだけなのだ。ローリエがきちんと理解して自分で考えて出した結論が何より大切。その上で幸せになってもらいたいのだ。世の中そんなに甘くないなら、そこまで甘くするのも親の責務。可愛い子供には幸せになってほしいのだ。
そんな俺の言葉にローリエはしばらく考えてから微笑んで言った。
「わたしはおとうさまをしんじます」
「信じる?」
「はい。おとうさまをしんじておまかせします。だからおとうさまはわたしをしんじてください」
「ローリエ・・・」
いつの間にこんなに大人になったのか・・・子供の成長というのは時に親の想定を越えてくれるものだが、自然と涙腺が緩くなる。信じるか・・・なら、俺はその信頼に答えていかねばならないな。
俺が大切なのは何か、何をどうすればローリエが幸せになれるのか、乙女ゲーム、攻略対象の状況。ありとあらゆる可能性を思考していく。ここから先の展開とそれに伴う変化。人間というのは思ったようには成長しない。とはいえ、本質が圧倒的に変わることはない。なら、それを想像することはできなくないはずだ。
そうしてしばらく考えてから俺はローリエに微笑んで言った。
「これから先、少しばかり大変だけど・・・頑張れるか?」
「おとうさまがいっしょならがんばります!」
「そうか。ありがとう」
そう言ってから頭を撫でる。俺の覚悟は決まった。あとはそれを行動で示すのみだ。




