9 家の娘が可愛いすぎる
娘と嫁・・・それぞれの違う愛情表現を書くのが凄く楽しい今日この頃・・
「おとうさま・・・」
「大丈夫だ。お前はお前らしくしていればいい」
心配そうな表情で隣に座るローリエに俺は優しくそう言った。場所は馬車の中・・・ローリエの3才の誕生日まで1ヶ月をきった中でーーー本日は貴族の子供の初顔合わせになる。
まあ、とはいえ、正式な顔合わせは5才になってからなので、これはいわゆるその前哨戦といったところだろうか?
今日は、この国の第二王女である、セレナ様の誕生日なのだが・・・セレナ様と同じ年頃の令嬢のみが当主と共に参加するという特別な形がとられているのだ。
まあ、セレナ様の友人探しと、他にもその家に子息がいれば、縁を持てることは大いにプラスになるという裏の目的があるのだが・・・そんな大人の事情をローリエに説明する必要はないので、俺は気楽にやるように言った。
「王女様に礼儀をかくのは良くないが・・・でも、ローリエがこれまで習ったことを覚えていて、いつも通りに出来れば大丈夫だよ」
「でも・・・ふぉーるこうしゃくけのこどもとしてしっかりしないと・・・」
3才になる前の子供とは思えない台詞だが・・・緊張していることがわかるので、俺は優しくローリエの手を握って力の入ってる指をほぐして言った。
「気負う必要はないよ。セレナ様と親しくできるようならして、出来ないなら最低限挨拶だけで終わらせても構わないよ。もちろん家のことは大事だが・・・その前にローリエがローリエらしくいられることが大切だからね」
「わたしらしく・・・」
「そう。いつもの優しく思いやりのあるローリエでいてくれることが私にとっては何より嬉しいんだよ」
そう言うとローリエは少し落ち着いたのかこくりと頷いた。まあ、公爵家の長としてはもっと貪欲に子供に家のことを求めるのが正解なのかもしれないが・・・俺は、自分の家族がーーー子供が幸せならそれでいいのだ。
確かに、ここでセレナ王女と仲良くなれば後々色々と便利だろうがーーーローリエが無理をすることを俺は全く望まない。セレナ王女のことはよく知らないが・・・もし、嫌な相手だった場合、その相手にあわせて心をすり減らすようなことになったら、ローリエが可哀想だと心底思うからだ。
世の中、もちろん時には我慢も必要だろうがーーーそれでも、子供の時くらいは、親が守れるなら守るのは当たり前のこと。
家の問題は置いておいて、ローリエがセレナ王女と仲良くなれないならそれならそれで構わないと思っている。
まあ、人間関係が大切な貴族世界の常識ではどんなに嫌な相手だろうとあわせていくのが大切なのだろうがーーーローリエに無理をして欲しくないという親心があるのは決しておかしなことではないと思っている。
もちろんそういう辛い経験が必要な時もあるだろう。それは否定しないがーーーその手の経験は最低限でいい。少なくともローリエはこれまで、孤独に耐えてきたのだ。なら、ここから先ーーーローリエの支えになる人間が見つかるまでは親が子供を守ることは当然だろう。
「ローリエ・・・お前は賢くて、優しい子だから我慢しちゃうことが多いだろうがーーーもっと、私やお母様を頼っていいんだ」
「でも・・・おとうさまもおかあさまもおいそがしいのに・・・」
「子供のために時間を作ることは当たり前だよ。お前は私とサーシャの大切な娘なんだからね」
そう言って俺はローリエの頭を優しく撫でてあげるとーーーローリエはくすぐったそうにしてから気持ちよさような表情を浮かべた。子猫のような愛らしい表情は、本当に母親そっくりでーーーこんな可愛い子をいつか嫁に出すと考えると胃が痛くなる思いはなくはないがーーーというか、かなり親バカかもしれないが、余程いい男でない限り家の娘をくれてやる気はないという頑固親父が俺の中に生まれるほどに俺は娘を愛らしく思っていた。
「とにかく・・・ローリエはいつも通りのローリエでいればいいから。あまり気負う必要はないよ」
「はい、おとうさま」
少しは効果があったのか、ローリエは少し力が抜けたようだったが・・・まあ、やはり緊張してしまうのは仕方ないことなので、俺はそっと手を握ってから優しく言った。
「会場までは絶対にローリエの手を握っている・・・だから、安心していいよ」
「うん・・・おとうさまのて・・・あんしんする・・・」
「お母様と違って綺麗な手ではないがね」
そう言うとローリエは首をふって言った。
「おかあさまのてはすごくやさしくて・・・おとうさまのてはすごくあったかい・・・」
「そうか・・・まあ、とにかくーーー会場まではローリエの手を絶対に離さないから大丈夫だよ」
「・・・うん!」
太陽のような笑みーーーやはり、我が家の娘が可愛いことを改めて確認できたので、俺はそれが表情に出ないようにするのに必死になっていた。渋いオッサンのデレ顔とか誰得だよって感じなのもあるが・・・ローリエには格好いい父親でいたいという見栄もあったのは否定できないだろう。




