第四話
らいside
自分は、この のことが好きだ。
いつからこんな感情が芽生えたのかは分からない。
でも、彼女に出逢い、惹かれ、好きになったのは、そう最近のことではないハズだ。
自意識過剰だ、と笑われるかもしれないが、彼女も自分に少なからず好意を抱いて接してくれたように思う。
今日、メンバーであるあまづの記憶が無くなってしまったことが分かって、大粒の涙を流して泣いていた彼女を慰めていたのも自分だった。
自分も泣きそうなくらい悲しかった。でも、彼女が泣いていることも、同じくらい自分の心を痛めた。
ひとしきり泣いて少し落ち着いた彼女は、泣き笑いの表情を浮かべて、自分に「ありがとう、らいは優しいね」といってくれた。
そのとき感じた。今想いを伝えるべきだと。
言葉を掛けようとした瞬間、このが額をおさえて悲鳴をあげた。
狭い空間に響きわたったその声は、言い表せないくらいの苦痛に満ちていた。
ガクガクと痙攣する彼女を必死で抱き締めながら、混乱した頭で無理やり考える。
あまづの記憶がなくなったことに対する深い悲しみ_すなわち感情の大きな起伏で病状が悪化したのだ。
彼女の奇病は“角がはえる”こと。悪化は...悪化は...
“耐え難い痛み”だ。
このの身体から力が抜け、自分の腕のなかにがくりと倒れこんだ。
とっさに脈をはかるが、動いていない。
呼んでも何も応えない。
目は虚ろで、瞳孔は開いたままだった。
悲鳴をききつけて走ってきた他のメンバーの足音を聞きながら、
自分の腕のなかにいる彼女はおそらくもう二度と笑わないことと、
自分の病気が悪化して 耳と頬の感覚がなくなったことがぼんやりと分かった。
君のことが、好きだった。