第三話
粥ころside
「...あの、どちら様ですか.....」
彼女に似合わぬその言葉に、私は呆然とした。
彼女の表情は本当にそう思っているように感じ取れたから。
嘘をついているとは思えなかったから。
「...分からないの?」
不安気な声色でそう尋ねたのはセレナ。
あまづはその視線に耐えきれないとでもいうように目を背けた。
ついさっきまで高ぶっていた場の空気が、一気に冷めていくのがわかる。
...ふと、私のなかで嫌な仮説ができた。
嫌だ。そんなわけない。...でも。
もしかして...もしかして...
「_それがあまづの“悪化”なの...?」
自分の口からこぼれたその言葉は、まるで他人の言葉のようだった。
_どれくらいたったのだろう。数秒だったかもしれないし、数十分だったかもしれない。
そんな重い沈黙を破ったのはさなだった。
「ね、ねえ...もう一回あまづのことと私らのことを紹介してみるのはどうかな。もしかしたら何か思い出す...かも...」
未だショックから抜け出せていないのだろう、震えた声でそう提案した。
そんなことをしたところで、あまづはきっと何も思い出さない。直感的にそう感じた。
でも私は、それを信じたくなくて。
すがるような思いでぎこちない笑みをつくり、重たい口を開けた。