第十一話
なすびside
たまの部屋にきて、どれくらい経っただろうか。
相変わらず彼女はすすり泣いている。
理由を聞いても何も言わないので、私はよくわからないままたまの背中をさすり続けていた。
一体どうしたというのだろう。
何があったのか想像もつかない。
私なにかしたかなあ、と思考を巡らすも、思い当たる節はなかった。
このままではらちが明かない。
そう思った私は、もう一度優しく話し掛けてみることにした。
「ねえ、たま。」
俯いていたたまは、ゆっくりと顔をあげた。
「なにかあったの?もしそうなら、私、力になりたいの。教えてくれる?」
なるべくゆっくりと、優しく言ったつもりだった。
でも、そんな私の言葉をきいたたまの瞳からは、ぼろぼろと大粒の涙が溢れだした。
「...無理だよ。
...だってね、あのね....なすび、
私、もうすぐ死ぬの。」
途切れ途切れに放たれたその言葉の意味を、私は理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
「...は...?」
嘘だ。
嘘だ 嘘だ 嘘だ
もうすぐ、死ぬ?たまが?なんで?
ドクドクと、痛いくらいに心臓が脈打つ。
「....私の背中のねじまき、もうじき止まりそうでしょ。
.......最近、体は重いし、息を吸うだけでも苦しいの。
.......、きっと、私は、このまま......」
そういって、またたまは泣き出した。
このまま...このまま、どんどん体の機能が失われて死ぬ、と言うのだろうか。
それなら私は、日に日に植物人間のようになっていく彼女を眺めることしかできないじゃないか。
ああ、ああ。そんなの嫌だ。
気が付くと私は、たまの首を絞めていた。
ぎちぎちと音が鳴りそうなくらい、強く、強く力を込めて。
自分でも驚くくらいの強い力が出た。意識は曖昧だったが、それだけはわかった。
たまは、目を見開いて私を見ていた。
だがそれも束の間で、見開かれた大きな瞳はみるみるうちに黒く濁り、抵抗しなくなった腕はだらりと垂れ下がった。
「たま」
名前を呼び、軽く揺する。
「たま、」
彼女の目は虚ろだ。
「...ねえったら」
突如、物凄い恐怖が私を襲った。
冷や汗がにじみ、手はガクガクと震える。
私は_______
人殺しだ。
何故こんなことをしてしまったのだろう。
まるで何かで殴られているように頭が痛い。
私はふらふらと窓際に向かった。
窓を開け放つと、ひやりとした冷たい夜風が頬を撫でた。
「....今いくからね、たま。」
今は亡き親友の名を呟き、私は、美しく輝く夜空へ身を投げた。