第十話
たまside
最近、可笑しい気がする。
体が酷く重たく感じるのだ。
怠いとか疲れとかそういったものでなく、ただ体が動かせないのだ。
風邪を引いたわけではないし、過度な運動をした覚えもない。
だが、まるで自分の体ではないかのように動かすことができないのだ。
やっぱりちょっと気になるなあ、なんて呑気に考えていると、もうすぐ夜の症状確認の時間だということに気がついた。
どうせだし相談してみようと思い付いた私は、早足で自室を後にした。
がちゃり、と扉を開けると、部屋の真ん中に2つの丸椅子が置かれており、奥の方の椅子には白田の姿があった。
医者がこないこの施設では、患者同士で症状の確認をし合うことになっている。今日の当番は彼女だ。
「いらっしゃい、たま。はい座ってー。」
鈴を振るような白田の声。相変わらず可愛らしいが、その声には少し疲れの色が滲んでいるように思える。
当然といえば当然なのだ。
大切な友人の死亡や悪化で混乱しているこのメンバーを支えているのは、間違いなく彼女ら_白田とセレナだ。
最年長二人というプレッシャーも大きいのだろう。彼女らに頼りっぱなしの自分が少し嫌になる。
「じゃあ始めるよ。ええと__最近変わったことは?」
白田の質問で我にかえる。そうだ、今は診察中だった。
「体が......体が重いの。疲れとかじゃないと思うんだけど、すごく動きにくくて...」
こう返すと、白田はふぅん、と呟いて少し考え込んだ。
私達の病気は普通のものとは違う。もちろん資料はないし、治療法なんてなおさらだ。
だから、こうやって自分達で考える他ないのだ。
白田は暫く考え込んでいたが、何かを思い付いたのかふと顔をあげた。
「たま、ちょっと後ろ向いて。......そうそう。ちょっとじっとしててね。」
言われるがまま白田に背を向ける。
この体勢になったということは、ねじまきの様子でも確認するのだろう。
なんとなくそんなことを考えていると、白田が息を詰まらせた音が聞こえた。
何事かと振り向くと、真っ青な顔をした彼女の姿。
驚いた私は、とにかく状況を理解しようと、急いで白田に駆け寄る。
どうしたの、と尋ねると、彼女は震えた声でこう答えた。
「たま、あのね_______
あなた、もう長くないかも...」