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059 魔導具

 


 拠点となっている【帰らずの森】一帯を迷宮ダンジョン化してから、ひと月が経過した。



 その間に、国のシステムを組み、そして始動することができた。



 農産部門、軍事・防衛部門、法律部門、魔法部門の各部門は部門長を筆頭に行動を開始し、試行錯誤しつつもある程度の成果を見せている。



 特に農産部門は、妖精たちのスキル【草木操作】によって、通常の数倍から数十倍の速さで収穫が可能であり、すでに自給自足ができる状態まで生産できている。



 そして現状、最も重要な軍事・防衛部門に関しては、こちらも順調にその役目を果たしている。この部門で大きな力となっているのが、支配下に置いた【帰らずの森】の魔物たちだ。



 迷宮ダンジョンの領域内にいた魔物は全て支配下にあり、森への侵入者に対して排除するよう命令してある。たまに、外部からの侵入者——主に人間の冒険者——が現れるが、大体は魔物に倒されるか、追い返されるなどしている。



 通常、魔物同士が徒党を組み協力し合うことは、一部の魔物を除いて、まずありえない。そのため、強大な力を持った魔物に対して、人間たちは一対多という状況を容易に作れたので、対処することができていた。しかし、【帰らずの森】の魔物たちは今、我の命令を受け、徒党を組んで冒険者に対処するようになった。



 結果、魔物の生存率は支配下に下る前と比べれば飛躍的に上がり、逆に侵入した人間たちの生存率は大きく下がったようだ。



 最後のエレンミアをトップに据えた魔法部門は、こちらも一定以上の成果を見せた……らしい。らしい、というのは成果が出したとの報告は受けたものの、その成果についての具体的な内容を知らされていないからだ。



 仲間になった当初、住民の要望を聞いて、その希望を十分以上に満たす物を作り上げてきた彼女だ。今回のものは、彼女が必要だと思ったものを作ったとのことで、どのような物を作ったのかは皆目検討もつかないが少々期待している。故に今日はエレンミアのもとを訪ねるために、彼女の部屋を目指し、長い廊下を歩いていた。



 そして、エレンミアがいると思われる部屋の前に来てみたのだが……何だろうか? 何か異様なオーラが部屋から廊下に滲み出しているのが見える。暗くどんよりとした、禍々しい色をしたオーラだ。思わず扉を開けるどころか、部屋に近付くのさえ躊躇ってしまう。躊躇ってしまうが、魔道具の状況は聞いておかねばならない。というわけで、意を決して部屋に近付き、扉を開け放った。



「ッ?!」



 そして、目に飛び込んできたのは……とんでもない汚部屋おへやだった。



 魔物の素材や魔石、本がそこら中に散乱し、隅の方には、もういつのものか分からない腐った干し肉が一纏めにされている。その側にあるパンからはカビが生え、青白くなっていた。混沌カオスと化した、その光景は、もはや唖然とする他なかった。



 ――人外魔境。



 この部屋はまさしく、その言葉が似合う。そして、そんな荒廃とした、誰も寄り付かないような魔境に一人だけ生物がいた。長く尖った耳に茶色の髪。不健康さを思わず心配してしまうような病的なまでに白い肌。眠そうな顔を隠そうともせず、眼を擦りながらこちらを見ている、その生物の正体は、この汚部屋おへやの主――エレンミアだ。



「おいッ! これはどういうことだ! なんだこの汚い部屋はッ!」



「……整理整頓された部屋は落ち着かないです」



「だとしても限度があるだろうがッ! せめて食べ物は捨てておけ!」



「むう。承知しました」



「まったく。……それで? 完成した魔道具とやらはどれだ?」



「ふふふ。今回のは力作。その性能の素晴らしさを知れば恐れおののくこと間違いなし……です」



 エレンミアは敬語が苦手だ。これは仲間にした時に判明した。今はとりあえず、ですますを語尾につけるようにしているのだそうだ。我自身、言葉遣いにはそこまで頓着していないので、取って付けたような敬語でも、それで良いかと思っている。



「ほう? それは期待ができそうだ」



「まずは……あれ? どこに置いたっけ?」



 エレンミアは部屋中をひっくり返し始めた。ホコリの他、変な胞子のようなものが一緒に宙を舞う。もしかしたら、どこかにキノコが生えているのかもしれない。



「……エレンミアよ。あとで掃除をしろ」



「えっ?」



「なんだ? その、信じられないとでも言いたげな顔は。汚したのはお前だろう?」



「……汚れてないです。こう見えて合理的な黄金配置の下、物が置かれているです」



「……」



「……」



「……魔道具を見せろ」



 エレンミアに諭すのは諦めることにした。我は無駄なことはしない主義なのだ。



 魔道具は本の山の中に埋もれていた。探し当てるまでにかかった時間はおよそ三十分。とんだ時間の浪費である。とりあえずエレンミアには後でみっちり説教することに決め、まずは魔道具の確認に入る。



 それは直径50cmほどの円形の魔道具だった。中心部には、魔石の上半分だけがはみ出している。その裏側を見てみれば、どうやら二対の車輪が付いているらしい。



「これはどう使う魔道具なのだ?」



 すると、エレンミアは得意気な顔をし、力説し始めた。俗に言うドヤ顔というヤツである。



「これは画期的な魔道具です。今使い方を見せるです」



 エレンミアは床に置かれた魔道具の上に乗ると、半分飛び出している魔石に、足から魔力を注ぎ始めた。すると、魔道具がゆっくりと動き出した。どうやら、魔力を注ぐと動き出し、注いだ魔力分だけ動く魔道具のようだ。



 エレンミアは普段からは想像もつかないほどに饒舌に話しながら魔道具を器用に乗りこなしている。稼働音もなく静かなものである。



「ほう。これは面白い。エレンミアはどのような運用法を考えているのだ?」



「これがあれば、歩かなくて済むです」



「お前ぶれないな?!」



 やはりエレンミアはどこまでいってもエレンミアだった。大方、歩くという作業が嫌だから発明した、という所だろう。



 まぁ何はともあれ、発明した動機は不純ではあるが、魔道具自体は中々面白いものだとは思う。例えば、重いものを運ぶ際に、この魔道具を使えば、我がいなくても様々な作業を円滑に進めることができるだろう。現在、重い物を運ぶ際は我のインベントリが頼りになっている。人力では時間がかかる作業を一瞬で終わらせられるからだ。この魔道具を上手く使えれば、そうした状況を改善できるだろう。



「はあ。それで? 他の魔道具はどんなヤツだ?」



「もう一つはコレです。名付けて、全自動お掃除ゴーレムver1.0」



 そこには塗装された鉄で作られたらしい人型の物体があった。確かに、ゴーレムと言われればゴーレムかもしれない。分類するならアイアンゴーレムだろうか? だが、そんなことよりも気になりすぎることが一つ。それはゴーレムの見た目に関することだ。



「……なぜ、呪いの人形みたいな見た目なのだ?」



 そう。そのゴーレムは見た目が恐ろしいのだ。無機質な眼に、白く丸い顔。黒い髪の毛はおかっぱに切り揃えられ、赤い着物を来ている。口はパカッと半開きにされたままで、黒い歯が覗かせていた。夜に遭遇すれば、思わずギョッとしてしまうだろうほどに、その見た目にはインパクトがある。



 《これは……確か、とある一部地域に伝わっている人形の見た目そのものだったかと。呪いをかける際に、呪いたい相手の名前を書いた人形を五寸釘で木に打ち付け、それを媒体にするという方法があるのですが、その際によく使われる人形の見た目がそれですね》



 まんま呪いの人形じゃねぇーかッ! 



「むっ。呪いの人形違うです。この姿は可愛いです」



 何だその、コイツ、ありえないんですけど! みたいな驚愕の表情は。我からすれば、お前の感性の方が訳分からんからな。



「……まぁいい。自動で掃除をしてくれるなら手間が減って良いだろうからな。うん」



 とりあえず納得することにした。見た目はともかく性能は良かったからだ。だが、あの見た目の人形が城内を彷徨くのは……嫌だな。見た目だけは変えておくように後で言っておこう。



「他は?」



「これが本命です」



 エレンミアはそう言うと、杯のようなものを持ち出してきた。窪んだ部分には大きめの魔石がピッタリと嵌まっている。それは、開発用にと渡しておいた魔石の中で、一番大きかったヤツだ。



「これは?」



「これは結界を張る魔導具です。理論上は街全てを余裕で覆えるはずです」



 ほう? そんなものが作れたとは。エレンミアはやはり、中々に、いや相当に優秀なようである。



「ほほう! それは良いな! 凄いではないか!」



 と、褒め称えてみれば、エレンミアは「ふふん」と得意気に鼻を鳴らす。調子のいいヤツめ。だが、この調子でどんどん開発していってほしいものである。



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