056 建国2
国名、そして国旗を考えるよう言ってから約五分。我も当然のことながら、そのことを考えていたが、一向に良い案は思い浮かばなかった。頭の中では、様々な案が浮かんでは消え、そしてまた浮かんでは消え、というのを繰り返している。
フィリアやコウガたちも色々と考えてくれているようで、何回か提案してきたのだが……全て却下した。彼らが提案してきた国名には我の名前が入っていたからだ。自分の名前が入った国名などは断じて却下である。
そんな時だった。
「では、僭越ながら私が提案させていただきます」
ティターニアが手を挙げたのは。
「いいぞ」
「ありがとうございます。私は国名を【森魔国ミストア】。国旗は、二枚の黒い翼が交差している国旗を提案いたします」
国名は【森魔国ミストア】か。……うむ。悪くない。むしろ気に入った。もうこれで良いのではないか? 国旗諸共採用でいいと思うが、どうだ?
《私も賛成です。この場所の特徴を捉えた良い国名ではないでしょうか? それに国旗もそうですが、マスターの種族である吸血鬼のイメージにぴったりですし》
なら決まりだな。
「ティターニア。良い案だ」
「はい! ありがとうございます!」
「我はティターニアの案で良いと思うのだが、どうだ?」
一応、聞いてみたが皆、異論はないようである。
「では、本日この時を以って【森魔国ミストア】の成立をここに宣言する」
我がそう述べた途端、ちょっとした歓声が上がった。
さて、一先ず目標の一つ——建国をこうして達成? することができたわけだが、まだまだすることは多い。例えば、先ほど話した各部門のシステムを整えて浸透させること、防衛システムを構築すること、などなどだ。まぁ、これらは順繰りにやっていくしかあるまい。
「さて、各部門の内容については後日、各担当者を交えて細部を詰めるとしよう。近日中には行うから、そのつもりでいてくれ。では、これにて会議を終了とする。……レブラントとレイナは残ってくれ。人狼たちについて相談がある」
『承知致しました!』
そして、会議室に残っていたレブラントとレイナに人狼の今までの生活形態について聞いた。彼らの家を作るにあたって、そうしたことを聞いておいた方が良いと考えたからだ。
それで、彼らに早速聞いてみたところ、人狼たちは森を切り開いて作った土地に、集落を作って生活していたようだ。農産物は細々と作っていたが、大体は森の恵を享受する形で生活していたらしい。家の作りは木造作りで、寝具はベッド、食生活は肉や野菜などで基本は何でも食べられるらしく、その点は天狗とあまり変わらないようである。
ちなみに、他の仲間の食生活についてだが、天狗は先の通りで、妖精たちに至っては肉を食べない。いわゆる菜食主義と言えるだろう。食べるものは、自然から取れるハチミツや野菜、そして甘い菓子のみ。ただ、妖精は体が小さいので全体的な食べる量は人数からすればかなり少ないと言える。単純な割合で言えば、十分の一以下だ。そのため、人数の割に養うことは容易い。
逆に、レアハ——魔狼は肉しか食べず、食べる量もかなり多い。まぁ、レアハの場合は自分で魔物を狩ってくるので問題はないが。
何はともあれ、人狼たちのことについて知れたので、これから家でも作ろうと思う。……いや、むしろ街自体を本格的に作ってしまうか?
実は昨日、人狼たちがここに住むことが決まった時点で、アンデッドたちをアンデッド召喚のスキルで召喚し、周囲の山々などから木や岩などの材料として使えそうなものを集めてもらっていた。アンデッドは不眠不休で動かすことができるので、こういったことには非常に向いているのだ。すでに街の外縁部には城からでも見えるほどの膨大な材料が集まっているのが見えている。
まぁ、単純な命令しか聞けないため使い所は大分限られるが、それを考慮に入れたとしても有用なスキルであることには相違ないだろう。保持していて良かったと思う今日この頃である。
我は外に出たあと、早速【創造神】を発動する。まず作るのは人狼たちの家だ。岩を土台にし、その上に木で家を建てていく。一人ひとつの家を与えてあげたいところだが、材料の量上厳しいので、大きな家屋を建てて一人部屋、もしくは家族用の大きな部屋を各自に与えることにしている。すでにレブラントには許可を得ているので、家を建てた後のことは彼に丸投げするとしよう。
そうして、大きな家屋——【知恵神】曰く“集合住宅”を建てた後は、街の開発に着手する。すでに水回りや道などは作っているが、それ以外の必要なものは作っていないからだ。必要だと思われるものに優先順位をつけて順次作っていくとしよう。
ます、差し当たって必要なものは……やはり城壁だろうか? いつまでもむき出しのままではカッコがつかないからな。それに防衛力強化という点でも非常に有用だ。
というわけで、城壁を作ることにした。国をまるっと囲む城壁だ。残った全ての材料を消費することになる上、確実に材料が足らないと思うが、別に今すぐ必要というわけでもないから気長に作っていこうと思う。とはいっても明日か明後日あたりには完成させることができるだろうが……。
さて、では始めるとするか。
イメージは高さ5m、幅4mほどの城壁だ。高さはこれからの状況を見て順次変えていく予定なので仮だ。幅については、城壁上を二人組の兵二組に、時計回りと反時計回りに巡回してもらう予定なので、すれ違える幅を考えた結果、4mという幅にした。
我が【創造神】を発動すると、地面に置いていた石や岩がひとりでに動き出し、城壁を形成していく。そして、数十秒後にはイメージ通りの城壁が出来上がっていた。
ふむ。とりあえずはこんなものか。
……うーむ。だが、城壁以外にも、もう少し防衛力を整備しておきたいところだが、今はこれ以上できないか。何か良い案はないものか……。
《では、【迷宮創造】を使ってみてはどうですか?》
あぁ! その手があったか! すっかり忘れていた!
迷宮ボスにとどめを刺した者には【迷宮創造】というスキルが与えられる。我は【亡者の峡谷】という洞窟型の迷宮を攻略した際に、既に入手している。
迷宮には洞窟型、遺跡型、そして領域型の三種類あるが今回指定するのは、そのうちの領域型の迷宮だ。
スキル【迷宮創造】を使用すると、その類型に関係なく、その管理者——迷宮管理者にはいくつかの権能が与えられる。
一つ目は宙に浮く鏡だ。この鏡は迷宮の範囲内であれば、どこでも映し出して見ることができる。【帰らずの森】全域を迷宮化し、この鏡が使用できるようになれば防衛もしやすくなるのは間違いない。
そして二つ目は鉄製のカードだ。このカードは迷宮内の管理を行うことができる。具体的には、魔物の召喚。そして、転移陣の設置だ。魔物の召喚は制限はあるが、自らの魔力を消費することで行うことができる。転移陣の設置は一箇所だけ可能である。本来は、迷宮の最深部から迷宮外に攻略者を転移させるものだが、迷宮外の近隣であれば、どこにでも設置できるので都合の良い場所に設置することができる。これを上手く使えば、例えば奇襲を仕掛けたりなど、様々なことが行えるだろう。
また、これは迷宮管理者の権能ではなく迷宮の効果だが、その土地を迷宮化した際に、迷宮管理者よりも格下の存在である魔物は、問答無用で支配下に下ることになる。
以上のことから、【迷宮創造】を使用して【帰らずの森】を迷宮化すれば防衛力が増大するのは、まず間違いない。
本来、迷宮化する際には、その土地を完全に支配下に置かないけないのだが、【知恵神】曰く、【帰らずの森】の支配者となっていたレアハが既に我に支配権を移譲したと言える状態らしいので、【迷宮創造】を使用できるだろうとのこと。
今まで使用する機会がなく、死蔵していたスキルであったが、此度は使用するいい機会であろう。というわけで、早速【迷宮創造】を発動してみることにした。




