055 建国1
——翌日、午前十時。
会議室には、いつものメンバーに加え、人狼の長であるレブラントと、その妻であるレイナに集まってもらっていた。
「さて、今回のこうして新たな仲間を得、ここに住む住民も一気に増えた。そこで、だ。これから本格的に“建国”というものをしていこうと思う。差し当たっては、我が国に必要そうなものを挙げていく。その後に意見交換といこうではないか」
その言葉を聞いた面々は少しの不安をその顔に浮かべた。やはり、今まで“集落”という単位で生活していた彼らにとっては“国”というものを作るのに多少なりとも不安を覚えてしまうようだ。……フォローになるかは分からないが一応言っておくか。
「まぁ“建国”と言っても現状から大して何が変わるわけでもない。ただ、国という体裁を取る以上は決めておかねばならんこともある、ということだ」
そして、【知恵神】の知恵も借りながら考えていたシステムを話した。
現在、考えているのは四つ。本当はもっと色々と設置したいところだが、現在の人数では難しいだろう。故に、必要だと思うものを独断と偏見で決定した。
作るのはーー
——農産部門
——軍事・防衛部門
——法律部門
——魔法部門
とりあえずこの四つだ。ちなみに名前は仮である。
農産部門は、食事を必要とする者たちのために農産物を生産する。今までは拠点の周りに広がる【帰らずの森】で魔物を狩ってきたり、山菜を取ってきたりなどして生活できていたが、流石に三百人以上ともなると森の素材だけでは少々心もとない。そこで、無いなら作ればいいと思い至ったという次第だ。
ちなみに、フィリアとエレンミアは我と同じ吸血鬼ではあるが、我のようにアンデッド由来の吸血鬼ではなく、人間種由来の吸血鬼なので、食事いらずというわけではない。とはいっても、我との違いといえば食事が必要か否かと、見た目の違いぐらいしかないが……。
軍事・防衛部門は、冒険者や兵などの敵に攻めてこられた際、先頭に立ってそれの対処を行う。この部門は、一番重要な部門だと言えるだろう。
この部門は攻勢に出る攻撃部隊と、防衛に専念する防衛部隊に分けようと考えている。それぞれの目的がはっきりさせておけば、それを遂行しやすいと思うからだ。
法律部門は、人が増えれば当然イザコザが増えるだろうということで設置することにした。現在の三百人ほどの人数なら、我が管理できないこともないとは思うのだが、これから先、人口を増やす予定でいる。まぁ、見通しも当ても全くないので、取らぬ狸の皮算用な気がしなくもないが、早期の段階でこういったことは決定しておいた方が良いと判断した。
そして、最後の魔法部門だが、これは完全に我好みで設置することにした。だが、魔法部門とは銘打っているものの、その実、ただの魔道具製作部門である。我は魔道具に興味があるので、それを我が国で作ってみたい。ただそれだけの理由から作ることにした。まぁ、魔道具は生活を豊かにするものでもあるわけだから、作っておいて損はないだろう。そして、ゆくゆくは誰も開発したことがない魔道具でも作ってもらいたいものである。
そういうわけなので、トップには必然的にエレンミアが付くことになる。彼女は人間世界で一流の魔導師であったのと同時に一流の魔道具製作者でもあったらしいのだ。まぁ、自称ではあるが……。
しかし、魔道具のことがあまり詳しくない我からしてみても中々に使えるものをいくつか見せてもらったので、本当に一流の腕を持っているのだろうとは思う。
とりあえず設置するのは以上の四つだ。
他にも色々と必要な組織があるとは思うが、それらについては状況と人口を考慮して順次増やしていく予定である。
我の考えを一通り聞いた面々は一応の理解を示してくれた。ティターニアに至っては内容を話す前から、“私はリヒト様のする事なす事には全面的に賛成でございます!”と言っていたが……。
「法律部門? を作ることに異論はないのですが、法律って必要なんですか? ちょっとした興味本位の質問で申し訳ないんですけど」
突然、コウガが尋ねてきた。そういえば、コウガは三十人ほどしかいない小さな集落の出身だったな。それなら法律の重要性については理解していなくともおかしくはないか。我とて、【知恵神】からの提案がなければ法律部門など作ろうとは思わなかっただろうからな。
「うむ。法律は国という体裁を取る以上、必須だ。法律の本質は“秩序”というものを齎らすことにある。我は国をただの“烏合の集”とはしたくない。
それに、これからも人口は増やしていきたいと考えている。そうなればイザコザというものはどうしても出てきてしまうだろう? その解決を図るためにも法律は必要だ。今の段階で作るのは、早いうちに作っておけば後々に混乱しないだろうと考えたからだ」
「分かりました」
コウガは納得したようだ。まぁ、これは【知恵神】の受け売りなんだが……。
気を取り直して次の段階に進むとしよう。
「さて、ではどの部門に誰を配置するかだが、一応我の方で決めておいた。異論があるようなら、全て言い終わった後で言ってくれ」
『はい!』
そして、それぞれの個性や適性に合わせて部門ごとの割り振りを行なった。
まず、農産部門には、スキル【草木操作】を持った妖精の半数と人狼の非戦闘員。人狼たちとは、まだ出会ったばかりとあって、何ができるか分からないため、とりあえず農産部門なら問題ないだろうということで割り振った。故に、今後、多少の移動はあるかもしれない。
軍事・防衛部門の攻撃部隊には、天狗のうち、コウガ、ガハク、そしてギンガ。あとは人狼の戦闘員およそ八十人。防衛部隊には、農産部門に割り振られなかった妖精たちの半数。ちなみに、この部門でも妖精たちのスキル【草木操作】には期待しているところだ。
というのも【草木操作】は、攻撃手段こそ、蔦で薙ぎ払うくらいしかないが、こと防衛に関して言えば非常に有用なスキルであると言えるからだ。具体的には、拘束などによる足止めや物理的な障壁としての機能を果たすことができる。そうして、敵を混乱、撹乱させた上で攻撃部隊に攻撃してもらう。そのような運用の仕方を今の時点では考えている。
法律部門には、天狗のシュリと、普段からは想像もつかないが意外と頭が良いキサキ。人狼の元“長”レブラントと、その妻レイナ。そして妖精のティターニアを考えている。やはり、各種族につき最低一人は入れておいた方が良いと思うので、そのような形にした。今後、仲間にする種族が増えた時には、その都度、最低一人以上は割り振ろうと考えている。
そして、最後の魔法部門には、先述のエレンミア。彼女と仲が良く、魔法の扱いに長けているフィリア。そして、妖精からリーリアとその他妖精二人を割り振った。まず、エレンミアを除く四人には、魔道具を作れるようになってもらい、後にその作り方を、今後配属されるであろう他の者に教えてもらいたいものである。
ちなみに、レアハはどこにも割り振っていない。というのも彼女は、フィリアたちのように我の配下ではないからだ。彼女は仲間であることには相違ないのだが、配下ではないのである。立場上は同盟相手といったところだろうか? 故に、彼女には自由に動いてもらおうと思う。
「リヒト様。私は側仕え解任ということでしょうか?」
皆が納得する中、ティターニアが目をうるうるさせながら若干の上目使いで述べた。新たな役職が与えられたことで、今までの役職? であった我の側仕えが解任されるかも、と思ったようだ。まぁ、解任も何も最初から、そんな役割を与えた覚えはないのだが……。しかし、可哀想な気もするので兼任ということで一つ手を打ってもらおう。
「ならば兼任……ってことでどうだ?」
「?! ありがとうございます!!!」
提案した途端、表情が一転し、満面の笑みへと変わった。そんなに嬉しいことか? そんなことが?
……まぁ、気にしても仕方がない。
それでは、最後に“アレら”を決めるとしよう。国があって、アレらがない、というのはあり得ないからな。
「では、これから“国名”、そして“国旗”を決めようと思う。何か案があれば言ってくれ」
各々が一斉に考え出した。良い名と、カッコイイ旗を考えてもらいたいものである。
さて、我も考えるとしようか。